心の病気はカウンセリングで治せるの?
更新日:2021年9月1日
精神科の治療と言えばカウンセリングを思い出す人が多いのではないでしょうか?映画やドラマでは、精神科医が難しい顔をして話を聞いているシーンをよく見かけます。これは昔の精神分析のイメージのようです。しかし最近の精神科の治療は内科などと同じように薬の処方が中心です。
【コスパの高い薬の治療】
心の病気なのに飲み薬で治療することを不思議に思う人もいるようですが、実際に治療の効果、期間、費用などを突き詰めていった結果、薬の治療が中心になっています。乱暴な言い方ですが薬の治療はコスパが高いのです。
1950年代に精神科の薬が発見されるまで、精神科の治療は困難を極め、効果の不明な治療も多く行われていました。1960年頃から精神科の薬は実用化されて、大きな成果が出ました。さらに2000年前後から新しい世代の精神科の薬が開発され、多くの精神疾患が治療可能になりました。
こうした流れで精神科の治療は薬が中心になって行きました。精神科医の行うカウンセリングを精神療法と呼びますが、それは病気での原因を理解してもらい、薬の効果を確実にするための心理教育的な側面がつよくなっています。
【カウンセリング】
それではカウンセリングはどうでしょうか?病気治療の目的で行われるカウンセリングのことを心理療法と呼びます。心理療法には認知行動療法、精神分析、クライアント中心療法、ブリーフセラピー、森田療法などたくさんの種類があります。2000年くらいから、「エビデンスに基づく医療」という考えが精神科に持ち込まれました。
それまで効果が曖昧でも慣習として行われていた治療をきちんと検証して、本当に効果がある治療だけを行うべきであるという考え方です。これによって心理療法の効果も検証されるようになりました。
【プラセボ効果】
食用の白い粉末を「うつ病の薬です」と嘘をついて、うつ病の患者さんに飲んでもらったところ、なんと30%の人がうつ病が治ったという研究があります。このような暗示の効果をプラセボ効果と言います。心の病気はこのプラセボ効果が非常に大きいのです。
偉い先生に診てもらっている、特別な薬を処方してもらった、こんなことでも治療の効果があるのです。しかし、プラセボ効果はすべての人に効くものではありません。病院で行う実際の治療は確実でなくてはならず、プラセボよりも効果があることが必要です。
【カウンセリングは治療に効果があるの?】
治療に効果があるかを検証するためには、無作為化比較試験というものを通じてプラセボよりも効果があるかを判定します。まず、調べたい病気の人のグループを無作為に同じ人数で2つに分けます。
片方のグループには検証したい治療を行い、もう片方のグループには治療の薬と偽って偽薬を飲んでもらいます。この2つのグループでどれだけの人が治ったかを比較することで、検証したい治療がプラセボよりも効果があることが証明されます。
さまざまな心理療法が実際に病気を治すことができるのか、無作為比較試験を使って調査が行われました。その結果、認知行動療法が、うつ病、強迫症、社会不安症、パニック症、PTSD、過食症に効果が認められました。特に軽症の場合には薬とほぼ同じくらいの治癒率が確認されています。また、認知行動療法の一つであるソーシャルスキル・トレーニングが統合失調症に効果がありました。
このように、心理療法の中でも認知行動療法は大変有力な治癒方法であることが証明されています。
現在のところ、精神分析、ブリーフセラピー、クライアント中心療法では病気治療の効果は認められていません。そもそもこれらのカウンセリングは、人格の成長や悩みの解決を目的としています。カウンセリングで人生探求をしながら、その過程で病気が改善していくことはありますが、それは必ず起こることではありません。病気の症状を改善させるための手段ではないのです。
うつ病の治療に月に1回通院して毎晩1粒を飲むだけの薬の治療と、毎週1時間の認知行動療法を通うとなるとどちらを選びますか?費用は薬だけなら月に3000円程度、認知行動療法なら月に20000円以上もかかります。同じ効果があるのならば、コスパの高い薬の治療を選ぶのが普通でしょう。心の病気にはまず薬の治療、それであまり改善されない、もしくは薬が効かないならばカウンセリングの治療を利用するという選択が一番良いでしょう。
現在のところ、認知行動療法は医師か医師の補助のもとで看護師が行う場合のみに健康保険がつかえます。時間や手間がかかるため、医師が実践している医療機関はほとんどありません。2018年に公認心理師というカウンセラーの国家資格が誕生し、認知行動療法を実践できる公認心理師も増えています。まだ保険の適応はありませんが、今後は公認心理師による認知行動療法の広がりが期待できるでしょう。