自分の心が分からない人|失感情症

 更新日:2022年11月5日

 「クールな人」と言うと、ヒーローのように冷静でかっこいいイメージがあります。しかし、「失感情症(しつかんじょうしょう)」という感情がないことで苦しんでいる人がいることをご存じでしょうか。辛いことがあっても、心の中で何が起きているのか言葉にできません。不快な感情を心で自覚できないために、痛みなどの体の不調として現れやすくなります。

 

【失感情症とは】

 

 1972年、アメリカのシフネオス医師は、つよいストレスを受けても、それが心の症状に現れず、胃腸障害や喘息などの体の症状に出やすい人の研究をしました。そして、共通する性格として失感情症を見つけました。英語では「アレキシサイミア」と言います。辛いことがあっても、それを言葉で表現することが苦手で、ストレスが体の症状として現れやすい傾向があるのです。

 ストレスは、まず脳の間脳(かんのう)というところで喜怒哀楽の感情の動きとして認識されます。さらに、この喜怒哀楽の情報は脳の上下2つの方向へ伝えられます。脳の下の方へは自律神経系を通じて伝わり、心臓や肺などの内臓の動きとなります。脳の上の方に伝達されると、前頭葉という部分で分析されて、この喜怒哀楽が何なのかが言葉になって理解されます。失感情症では、ストレスによる喜怒哀楽の情報が前頭葉へきちんと伝わらないために、言葉に変換されないのです。

 失感情症は、症状として一時的に現れることもありますが、基本的には生まれつきの性格と考えられており、生きづらさを感じている人も多いのです。心の中で起きていることなので、自覚できていない人もいます。今回は、失感情症の特徴を5つ紹介しましょう。

【失感情症の5つの特徴】

1.自分の感情を言葉で表現するのが苦手

 例えば、家族でお笑い番組を見てみんなが笑っていても、笑えません。決してつまらないわけではありません。学校でいじめがあることが分かっていても、文句を言わず休まずに学校へ行きます。もちろん辛いのです。戦争で捕虜になった人たちが、無表情になって抵抗せずに連れられて行く雰囲気に似ています。

 失感情と言っても、感情を失っているわけではなく、感じることはできます。それを言葉に表現できないために自覚ができないのです。不快な感じが続いていても、それが何か自覚できません。そのうちに耐え切れなくなった感情が爆発してしまうこともあります。失感情症は心の不健康につながりやすいのです。

                

2.人に気持ちを伝えられない

 自分の心で起きている感情を言葉で表現できないため、それを他人に伝えることができません。相手に感謝や喜びを伝えられずに誤解されたり、不快感や辛いことを伝えられないために苦しい思いをすることがあります。こうして対人関係で問題が起きることがあります。

 子供の頃は、いつもニコニコして泣くことが少ないため、親から「育てやすい子供」と思われます。そうではなく、失感情症によって自分の気持ちを親に伝えられていないのです。

3.体調不良を起こしやすい

 ストレスによる辛いことがあると、不快な感情は心と体に分配されます。心に伝わると言葉になり、自律神経系に伝わると体の症状になります。ストレスは言葉にして発散すれば解消できます。ところが失感情症ではそれができないために、不快な感情は自律神経系を通じて体の不調としてだけ現れます。倦怠感、頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、しびれ、めまいなど、いわゆる心身症というものが起こります。体の病気、病院で検査しても異常が見つからない場合は、失感情症が関わっていることが多くあります。

4.辛い時は逃げるか、心を閉ざす

 何か葛藤がある時、それを言葉で自覚できないために、心の中を見つめ直したり、解決方法を考えることができません。そうなると辛いことから逃げるか、心を閉ざすしか手がなくなります。同時に体の調子が悪くなるため、体の不調を理由に責任から逃れることになります。

 子供が学校で嫌なことがあると、頭痛や腹痛がして学校へ行けなくなることがあります。これは、子供の心や脳は十分に成長していないため、辛いことを心で処理しきれずに体が反応してしまうのです。これが大人になっても続く場合は失感情症と考えられます。例えば、ストレスから体調不良を起こして職場に行けなくなる人がいます。心配した会社の人が連絡すると、「明日は必ず行きます!」と言いますが、結局次の日も欠勤してしまいます。これは自分の心の状態を理解できていないのです。決して、心が弱いから逃げ回っているのではありません。

                              

5.自閉症スペクトラム障害・ASD、愛着障害、複雑性PTSDにみられることがある。

 自閉症スペクトラム障害・ASDは、人の気持ちを読み取れない障害ですが、自分の心を客観的に見る能力にも劣ります。そのために、失感情症の症状が大変多く見られます。また、愛着障害、複雑性PTSD、統合失調症にも見られることがあります。

まとめ

 以上、失感情症の特徴を紹介しました。一時的な症状のこともありますが、基本的には生まれつきの性格傾向なので決定的な治療方法はありません。自分の個性として仲良くやっていくのが賢い対処法です。まずは、無理をしすぎている時の体のSOSを自覚するようにしましょう。頭痛、腰痛、胃腸障害、喘息、倦怠感などの体の異変は、心が悲鳴を上げているサインなのです。

そんな時は、「いつもの奴が来た!」と理解してゆっくり休むことです。体の不調にならないためにも、ふだんから体調に気を配り、予定以上のスケジュールは入れないようにしましょう。また、体が緊張していることが多いので、体全体をほぐすようなマッサージに良い効果があります。体をリラックスさせることが心の癒しにもつながるのです。

 失感情症と言っても、冷静さを求められる職場で活躍している人もたくさんいます。突然の出来事にも動揺せずに仕事に取り組むことができるのです。「冷静」というポジティブな個性と捉えてみると良いかも知れません。

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