うつから気づかれる11の病気
更新日:2024年11月27日
「うつ」とは、「スッキリしない」、「重苦しい」、「悲しい」、「さみしい」、「虚(むな)しい」といった言葉で表現されるような、気分の落ち込みです。誰でも、思い通りに物事が進まない時や、大切なものを失った時に感じ、本来は心の正常な反応です。ところが、うつが深刻になると、意欲や行動にも変化が起きて、仕事や身の回りのことができなくなります。このように生活に支障がでるならば、心の病気と考えます。それでは、これが「うつ病」なのかと言うと、そう簡単ではありません。なぜなら、ほぼすべての心の病気はうつから始まるため、うつ病以外の病気の可能性があるのです。
ICD-11(アイシーディーイレブン)という国際的な診断基準で、うつ病を診断するためには、次の3つの症状の有無や程度を確認することが必要です。1つめは、気分の落ち込みと興味や喜びの減少。2つめは、集中困難などの脳機能低下や、「自分に価値がない」、「将来はうまくいかない」といったネガティブな思考。3つめは、不眠・食欲不振・疲労感などの自律神経失調の症状です。これらの症状が、ほぼ1日中2週間以上続き、いつもの生活が送れなくなる場合にうつ病を診断します。
うつであっても、この診断基準に当てはまらない軽い状態であったり、他の症状も見られる場合は、うつ病以外の心の病気の可能性があります。具体的にはどのような病気があるのでしょうか?
今回は、うつから始まる病気を11紹介しましょう。
1.気分変調症
うつが2週間以内に治まってくるならば、心の正常な反応です。2週間を過ぎても治まる気配がなく、いつもの生活が送れなくなるようならば、何らかの心の病気の可能性があります。
若い頃から軽いうつがずっと続いている場合は、「気分変調症」という病気です。将来、うつ病や双極症になることもあり、放置しないで治療を受けましょう。
2.悲嘆反応(死別反応)
失恋、離婚、失業など、大切な人やものを失う喪失体験は、うつになる大きな引き金です。特に、大切な人やペットとの死別の場合は、「悲嘆(ひたん)反応」、もしくは「死別反応」と呼ばれています。2カ月くらいで自然に治まるのが正常ですが、それを超えても、いつもの生活に戻れない場合は、「遷延性悲嘆」(せんえんせいひたん)という病気が考えられます。
3.適応反応症(適応障害)
死別以外の原因、例えば、ハラスメント、過重労働、家族の問題、金銭トラブルなどから、軽いうつや不安がある場合、これを「適応反応症」、もしくは「適応障害」と呼びます。原因となっているストレスがなくなれば、半年以内に改善されるのが特徴です。
実際には、「ブラック会社を辞められない」、「夫からいやがらせを受けているが、離婚できない」、「学校でいじめを受けている」といったように、原因のストレスが何年も続く場合もあり、症状は慢性化します。これを「持続性適応反応症」と呼ぶこともありますが、原因との因果関係も複雑になるため、うつ病と診断されることが多いでしょう。ストレスの内容が、虐待や暴力などのように、命に危険が及ぶような被害を受け続けている場合は、「複雑性PTSD」と呼ばれることもあります。
4.体の病気
脳卒中、脳腫瘍、内分泌系の病気は、脳の働きを低下させるため、うつになることがあります。また、血圧の薬、ピルと呼ばれる経口避妊薬、抗ウイルス薬、ステロイドなど、副作用でうつになる薬もあります。体の病気を治療している期間であったり、新しい薬を飲んでからうつを感じたら、主治医に相談してみましょう。
5.月経や出産と関係のあるうつ
女性ホルモンの変化とうつには深い関係があります。月経前や期間中にうつになることは多くの女性が経験することですが、それがつよく、生活に支障が出る場合は、「月経前不快気分障害」という病気です。
出産後の母親がうつになって、情緒が不安定になるのは、「マタニティーブルー」とか、「ベビーブルー」と呼ばれており、ほとんどが一過性の症状です。ところが、2週間以上続く場合は「産後うつ病」と考えられます。
閉経により女性ホルモンが減少すると、更年期障害を起こします。ホットフラッシュ、めまい、倦怠感、頭痛、関節痛といった体の症状だけでなく、うつも大変多く見られる症状です。婦人科の治療で改善されなかったり、うつの症状が深刻な場合は、「更年期うつ病」と診断されます。
6.双極症
うつ病と最も間違えられやすい病気は「双極症」です。うつだけでなく、別の期間に躁状態と呼ばれる気分の高揚することがある病気です。気分の2つの極である「うつ」と「躁」があるという意味で双極症です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。
双極症の多くは、うつから始まることが多く、抗うつ薬を飲んでも期待したような効果がなく、むしろ躁状態になることもあります。うつ病と診断されていて、後から双極症に診断が変わることはとても多い話です。
7.統合失調症
「嫌がらせをされている」、「秘密を流されている」と一方的に感じたり、人がいないのに悪口や秘密を暴露するような声が聞こえて来るのは、統合失調症です。実際に感じたり、聞こえてくるので、おかしなことを言っているとは思いません。嫌がらせをされていると感じるのでうつになりますが、これはうつ病ではありません。
8.注意欠如多動症・ADHD
どんな仕事についても、いつも不注意による仕事のミスや失敗が多く、自信を失ってうつになる人がいます。これは、発達障害の一つである「注意欠如多動症・ADHD」の可能性があります。子供の頃に、遅刻や忘れ物が多く、「不注意」・「落ち着きがない」と指摘された経験があるのが特徴です。
9.自閉スペクトラム症・ASD
対人関係の悩みは、うつになる大きな原因の一つです。「相手の気持ちを汲み取れない」、「場の雰囲気をつかめない」といった場合は、「自閉スペクトラム症・ASD」の可能性があります。発達障害の一つで、物事や仕事の手順にこだわりがつよいことも特徴です。
10.境界型パーソナリティ症
対人関係の悩みでも、人と親しくなればなるほど、「嫌われてしまうのではないか?」、「別れることになるのでは?」と、心配になることを「見捨てられ不安」と呼びます。見捨てられ不安が原因でうつになる場合は、「境界型パーソナリティ症」が考えられます。常に連絡を取り続けて、相手を束縛したり、相手の気持ちを試すような行動をとることがあるでしょう。別れ話が出ると、暴力や自殺未遂をする場合もあります。
11.不安症・強迫症
不安、恐怖、孤独といった感情は、うつとよく似ています。これらの感情に境界線は引けないので、人によっては、自分の気持ちを区別して表現できない場合もあるでしょう。うつよりも、不安をつよく感じる場合は「不安症」です。
不安症にはいくつかの種類があります。不安が発作のように襲ってくる病気は、「パニック症」。乗り物、人混みなど、行動の自由が利かない場所で、不安や恐怖を感じる病気は、「広場恐怖症」。発表や会食など、人前に出ることで不安を感じる病気は、「社交不安症」です。
また、不潔、犯罪、性、縁起などのネガティブな考えやイメージが浮かんできて、そこから不安や恐怖を感じるのは、「強迫症」と呼ばれます。不安を解消するために、儀式のような確認行為をする病気です。
風邪でも癌でも、体の病気のほとんどは、体調不良から始まります。心の病気もうつから始まることが多いのです。うつはあらゆる心の病気の初期症状と考えてよいでしょう。どのような心の病気でも、早めに対処していれば、大きな問題にならないで済みます。うつを感じたら、まず今の環境や生活を見直して、必要ならば専門家に相談しましょう。
参考文献
- 日本精神神経学会:DSM-5-TR精神疾患の診断・統計マニュアル,医学書院,2023
- 木村啓介ら:気分症群,精神経誌,123(8); 506-514,2021