心理的安全性

更新日:2025年1月16日

 突然発作のようにして襲ってくる不安感、恐怖感をパニック発作と呼びます。人気歌手アイドル、格闘家がカミングアウトしたことで、耳にしたことがあるかも知れません。呼吸困難、動悸、発汗、めまい、吐き気などの激しい自律神経失調の症状も伴い、ピークが10分以内に来て、少しずつおさまっていきます。発作の内容には個人差がありますが、「このまま死んでしまうのではないか!?」と表現する人が多いのが特徴です。 

 パニック発作のある病気をパニック症と呼び、人口の2~3%がかかると言われており、決して珍しい病気ではありません。うつ病でもパニック発作が出ることも多いので、パニック発作で苦しんでいる人はもっと多いと思われます。 

 脳には、扁桃体(へんとうたい)という、危険を感じとる警報器に当たる部分があります。長くストレスを受ける状態が続くと、脳が緊張状態をとけなくなってしまい、偏桃体が異常な反応をするようになります。些細な刺激で警報を鳴らすようになり、自律神経系を通じてパニック発作が出るようになります。このような脳の緊張状態には、セロトニンという神経伝達物質の分泌不足が関わっています。 

 今回はパニック症の人が感じる4つのつらさについて解説しましょう。 

1.乗り物に乗れない

 パニック発作が起こりやすいのは逃げ場のないような空間です。「閉所恐怖」という言葉を聞いたことがあると思いますが、狭い空間で不安や恐怖を感じる人がいます。それだけでなく、人混みであっても、地下鉄の駅であっても、逃げられないような場所で不安や恐怖を感じることを「広場恐怖」と呼びます。広場恐怖ではパニック発作が出ることが多いのです。特に多いのが満員電車などの乗り物です。時間調整や事故でドアが閉まったまま長時間停車した場合、特急、飛行機などのすぐに降りられない状況が、発作のスイッチになります。3駅先まで行きたいにも関わらず、ドアが閉まった瞬間に発作が出て、1駅で降りてしまうということはよくあります。こうした発作が出る不安から、乗り物に乗れなくなる人もいて、これを予期不安と言います。 

 不思議なことですが、信頼できる人がいっしょにいると発作が出にくいというのも特徴です。「何かあっても助けてもらえる」という安心感が発作を抑えてくれるのだと考えられます。 

 

2.特定の状況や場所を避ける

 一度パニック発作を経験すると、発作が出た場所に危険を感じるようになり、無意識に避けるようになります。電車に乗れなくなったり、留守番ができなかったり、パワハラや過重労働から発症した場合は、職場近辺を通ることを避けたりします。 

 重症の場合、仕事に行けなくなったり、ひきこもりになることもあるでしょう。 

 

3.カフェイン、お酒などの刺激物による悪循環 

 コーヒーに含まれるカフェインやアルコールには、不安を抑える効果があります。予期不安にも効果があるため、パニック症の人がコーヒーやお酒の依存症になることは大変多いことです。ところが、どちらも量が増えてくると耐性ができてしまい、むしろ発作が出やすい状態になります。不安を抑えるためにコーヒーやお酒を飲み、どんどん量が増え、それが発作を誘発するという悪循環に陥ってしまいます。 

4.うつ病を併発しやすい

 パニック症もうつ病も脳のセロトニンという神経伝達物質の分泌不足が関わっています。そのためにパニック症とうつ病をいっしょにもっている人もたくさんいます。パニック症からうつ病に発展してしまい、気力の低下や体が思うように動かないなど、日常生活を普通に送れなくなることもあるでしょう。 

5.まとめ

 パニック症は珍しい病気ではありません。最近では歴戦の勇者である格闘家が、パニック症をカミングアウトしました。マウスピースを口にしただけで発作が出ることもあるそうです。格闘家というと何事にも動じない人というイメージですが、勝たなくてはならない使命感、ファンからの期待、パンチやキックの怖さ、減量の過酷さから、ストレスにやられてしまうのです。格闘家といえどもストレスには勝てません。 

 アイドルも同じです。容姿端麗(ようしたんれい)で憧れのステージに立ち、みんなにチヤホヤされている幸せな仕事と思われがちですが、過酷なスケジュール、激しい歌やダンスの練習、睡眠不足が重なり、アイドルのパニック症も多くなっています。短期間の休養で改善されず、引退をしなくてはならない状況まで追いつめられることもよくある話です。過酷なストレスのもとにあれば、誰でもなりうるのがパニック症です。 

 

 パニック症には薬の治療が効果的です。具体的には、脳の活動を抑えて発作を止める抗不安薬と、セロトニンを増やして発作を出しにくくする抗うつ薬の2種類が処方されるでしょう。セロトニンを増やす薬を抗うつ薬と呼ぶので、パニック症にも抗うつ薬を使います。また、不眠症があると治りにくいので、睡眠薬を処方されることもあります。

 抗うつ薬を飲んでいくと、1カ月くらいで発作は出なくなり、抗不安薬や睡眠薬は徐々に必要なくなります。ただし、予防のために抗うつ薬は長期に服用する必要があります。

 治療とともに原因であるストレスを減らし、安心のある生活も必要です。薬を飲んでいれば発作が出なくなり、制限されていた活動範囲も広くなっていきます。電車に乗る時に発作を抑える薬を携帯しておけば、その安心感からも症状が緩和されます。とは言え、無理は禁物です。各駅電車から初めて、自信がついたら特急に、という感じで少しずつチャレンジして、行動範囲を広めていきましょう。 

 

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