メンタルヘルス

2021年03月

2021.03.31

「全集中の呼吸」で不安をコントロール|メンタルヘルス

  1970年代、ベトナム戦争から帰還したアメリカ兵士たちの多くが精神疾患を患いました。寝ている時も食べている時も、24時間いつ攻撃されるかわからない、このような生死に関わるような過度の緊張状態の連続が兵士の体を蝕んだのです。

 戦場とまでは言えなくても、仕事や心配事が多くて、朝から晩まで気を張っている私たちの状況も似ています。休日に自宅で予定を入れずにゆっくり過ごしているようでも、頭の隅には仕事のやり残しなどの心配事が残っており、体の緊張が抜けないことはありませんか。これは心身に悪い影響を与えます。

                                                   

                                                                                               

心身の状態には、緊張状態と緊張が緩和されたリラックス状態の2つのモードがあります。そしてこの緊張と緩和のバランスがとれた生活が大切なのです。

朝から夕方までは仕事で緊張状態(昼食や休憩を入れて、たまにリラックス)、仕事を終えてから夕食や入浴でリラックス、そして床につく、こうした緊張と緩和の一日のバランスとリズムが、心身を整え、精神の安定をつくります。

         

気を張る時間が長い私たちの生活では、力を抜く時間をできるだけ多く手に入れることが必要です。ところが、自分で「緊張するな」「リラックスしろ」と意識しても、心と体もそううまく言うことを聞いてくれません。

精神交互作用といって、ある考えから意識をそらそうとすればするほど、逆にそこに意識が集中してしまいます。緊張をほぐそうとして、よけい体に力が入ってしまう結果になるのです。

子供のころ、試験や試合の前に緊張がとれない時に、「深呼吸して落ち着いて」と言われた経験はありませんか?気になることが頭から離れない時、呼吸に集中すれば、意識が心配事から離れてくれるのです。

         

さらに、腹式呼吸という呼吸法には、自律神経に作用して、身体をリラックス状態にしてくれる効果があります。リラックスした身体の状態は脳にフィードバックされ、気持ちも穏やかになります。
このように、日常の緊張を緩和するために複式呼吸がとても有効なのです。

肺は膜に包まれ、さらに助骨、背骨、横隔膜でつくられた胸郭と呼ばれる空洞に入っています。

呼吸とは、自律神経の命令により胸郭のサイズが大きくなったり、小さくなったりすることにより、それに合わせて中の肺が拡張と収縮を繰り返して空気を出し入れすることです。これが、私たちが無意識でしている胸式呼吸です。

呼吸にはもう一つのやり方があります。胸郭の下は横隔膜という筋肉でできており、その下は内臓がつまっている腹です。腹筋をつかってこの腹に力を入れたり、抜いたりすることにより、横隔膜を上下させ、自分の意志で呼吸をすることができます。これが複式呼吸です。

【それでは、腹式呼吸を実践してみましょう。】

1.仰向けに横になり大の字になります。楽な姿勢で椅子に座るのでも大丈夫です。


2.
肩の力を抜きます。普段から肩に力が入る癖のある人は、意識して方の力を抜くと、肩がカクンと下がる感じがするはずです。


3.
口を閉じて、鼻で呼吸します。


4.
腹筋を使って腹を膨らませます。カエルが腹を膨らますイメージです。腹を膨らませながら、「1,2,3」とゆっくり数を数え、鼻からゆっくり空気を吸い込みます。この時、腹筋の力で鼻から空気が入ってくる感覚をつかんでください。


5.
肺がいっぱいになったら、一瞬息を止めます。                   


6.今度は腹筋の力を抜き、「1,2,3,4,5」とゆっくり数を数え、鼻から空気を出します。腹筋の力を抜くことで鼻から空気を出す感覚をつかんでください。

以上を5分間繰り返しましょう。これを1セットとします。
大切なポイントは、肩の力を抜いて鼻で呼吸をすること、腹筋をつかって肺から空気を出し入れする感覚です。

     

時間をみつけて1セットずつ、1日何セットも練習してみましょう。やり過ぎておかしくなることはありません。家でテレビを見ている時、風呂に入っている時、さらには、乗り物に乗っている時、レストランの待ち時間、などいつもならスマホをいじるような時間などに腹式呼吸を練習してみましょう。徐々にうまくできるようになります。

そして、意識しなくても自然にできるようになったら身に付いたことになります。

腹式呼吸は、雑念があって集中できない時、不安や焦りがつよい時、過呼吸になりそうな時、頭の中で考えがグルグル回って眠れない、といった時に大変役立ちます。

「何とかなる」「心配ない」「神様がついている」など、安心できる言葉を念じながら腹式呼吸をやってみましょう。いつのまにか雑念が消え、不安が解消され、眠りについていることを経験できるでしょう。

まとめ

「鬼滅の刃」でも「全集中の呼吸」と言って、呼吸法がとても大切な役割を果たしていましたね。主人公たちは、全集中の呼吸法を日常的につかえるように鍛錬しました。それにより超人的な能力を発揮して鬼と戦います。


残念ながら、腹式呼吸で超人的になることはできませんが、腹式呼吸という技を身につければ、心配事や不安をコントロールすることができます。そして、ストレス社会との闘いに負けないようにしましょう。

「著 精神科医 高橋 倫宗」

2021.03.29

中小企業がメンタルヘルス対策を行うにはどうしたら良いのか

  現代の日本人のうつ病の罹患率は6.7%となっており、職場では15人に1人はうつ病になる可能性があるということです。また、自殺者数は1998年から2010年までは減少傾向が続いていましたが、2016年からは高止まりを続けており、職場問題を原因とするものは高い割合となっています。新型コロナウイルスの影響もあり自殺者数の増加も懸念される中、職場のメンタルヘルスを取り巻く環境は厳しさを増しています。

【経営上はあまり関係がないだろうという誤解】

「メンタルヘルス対策をしたからといって経営にはメリットがない」
「売上に直結しないから意味がない」
「具合が悪いなら個人的に病院に行け」
そのような考えを持っている方がいらっしゃいます。

しかし、メンタルヘルス不調が職場に与える影響は非常に高く、労働力の損失や業務パフォーマンスの低下、また、ひとたび過労死や自殺者などを社内で出してしまった場合は、経営に多大なダメージを与えかねません。大企業ではあればこれらの問題が起きたとしても会社がつぶれることはないでしょう。しかし、中小企業であれば倒産に追い込まれる可能性は大いにあるのです。

 

【なぜ中小企業はメンタルヘルス対策を行わないのか】

 中小企業であれば、メンタルヘルス不調が起きないという訳ではありません。むしろ、大企業より社内体制が確立していない中小企業でこそメンタルヘルス不調は起きやすいのではないでしょうか。

では、何故中小企業はメンタルヘルス対策を行わないのでしょうか。それは、金銭面が原因であると言えます。現在の日本では産業医制度を中心としたメンタルヘルス対策が行われています。産業医の一回面談費用は相場で1~2万円かかるため、何人も面談希望者が出てしまった場合、大変な経費となってしまいます。また、従業員数が50名以下の事業所では、産業医による巡視が義務化されていないため、高額な金額を毎月払って頼むという会社はないかと思われます。

【中小企業がメンタルヘルス対策を行うにはどうするのが良いのでしょうか】

 中小企業がメンタルヘルス対策を行うのは、我々のようなメンタルヘルスを専門とする会社にお任せください。メンタルヘルス対策を委託することで、低価格でのメンタルヘルス対策が行えます。また、メンタルヘルス対策において重要なことは従業員の不調をいかに早く気づいて、専門の病院につなげるかが大事になります。

アメリカでは産業医制度を利用している会社は少なく、EAPという制度がメンタルヘルス対策として主流になります。EAPとは社外に相談窓口を設け、必要であれば専門病院に相談者を紹介することができる制度です。EAPであれば、従業員が匿名で相談することが可能であり、相談内容はメンタルヘルス不調のことからハラスメント、プライベートなことまで幅広く対応できるという面でメリットがあります。また、職場改善や普段から不調にならないための予防に対する取り組みも行えるので、働きやすい環境づくりをしたい会社にとって有意義であります。 (産業医制度とメンタルヘルス対策~適切なメンタルヘルス対策を行うために~

  

日本の大企業では、産業医制度とEAPを上手く活用し、メンタルヘルス対策を行い始めている会社が増えてきています。中小企業では、産業医と契約するほどの金銭面で余裕がない訳でありますから、EAP制度を導入し、メンタルヘルス対策を行うことを推奨いたします。

2021.03.23

コロナを知って正しく怖がる|変異コロナウイルスについても

  コロナ感染への不安からメンタル不調をきたす人が増えています。

「三蜜を避ける」という言葉が強迫観念のようになり、予防の枠を超えて、必要以上に行動が制限されてしまうことはないでしょうか?1年以上の自粛期間で気が滅入るだけでなく、ストレスの発散がうまくできずに、心の不調を感じる方が多いようです。

【ウイルスとは?】

そもそもウイルスとは何でしょうか?
実は、ウイルス、菌、花粉の区別がつかない人が多いようです。テレビコマーシャルで、ウイルスに目や口があって、部屋の中を花粉のように舞っている映像を見たことがあります。実際にそのようなイメージを持たれている方もいるようです。

ウイルスは、遺伝子とそれを覆っているタンパク質の殻だけの極めて単純な構造の生物です。花粉の1/300程度、最近の1/10程度の小さな存在です。そして、宿主の細胞の中で、遺伝子を複製して増殖することだけをします。そのために、生物と物質の間のような存在と考えられています。宿主の中である程度増えると、宿主の排泄物とともに外に排出されます。

     

コロナウイルスは、感染した人の唾液、鼻汁、糞便といった排泄物の中で保護されて短時間生きていますから、そこから次の人に感染します、水洗トイレを使っている通常の生活では、他人の糞便から感染するルートはほぼ考えられないので、会話や歌、咳などで口から放出される細かい唾液の水滴、すなわち飛沫からの感染に注意しなくてはなりません。こうした飛沫を通じて、コロナウイルスは次の人の口や鼻から侵入します。

コロナウイルスのタンパクの殻は弱いので、物理的な力、紫外線、高温、化学物質などで、遺伝子が露出して簡単に死滅します。宿主を出て、排泄物の中では短時間生存できますが、次の宿主に到達して寄生できない限りはやはりすぐに死滅してしまいます。

コロナ感染はあくまでも人の飛沫からであって、電車のつり革感染する、釣銭から感染する、といった物からの感染はありえません。万が一手指にウイルスが付着したとしても、食事の前に手を洗えば、全く問題はありません。

     

    

さらに、口や鼻の粘膜表面には様々な免疫細胞が存在します。これらは門番のような役割で体に侵入しようとするコロナウイルスを殺してくれます。万が一侵入されても、血液中に存在するたくさんの免疫細胞がやはりコロナウイルスと闘ってくれます。コロナウイルスの感染者と接触したからと言って必ず感染するわけではないのです。体の中でウイルスVS免疫の闘いにウイルスが勝ち、そこで初めて感染が成立するのです。

感染した人から1メートルの距離で、15分間、マスク等の予防なしで会話をした場合に感染の可能性があるため、これを濃厚接触者と呼び、感染を避けるための目安としています。濃厚接触者はPCR検査の対象となりますが、実際に濃厚接触者の検査陽性の割合はどれくらいでしょうか。これまでの発表によると概ね5~10%であったようです。

これを逆にいうと、濃厚接触者でも90%以上の人が感染していないのです。日々健康な状態を保ち、日常生活でマスクを着用していればほとんどの人は感染しないことが理解できるでしょう。

                                  

                              

以上のことから「三蜜」であっても黙って入れば飛沫が飛ばずに感染しません。また、「三蜜」でなくても、長時間会食をすることで感染が成立します。食事中はマスクを外さなくてはならないので、相手の飛沫が飛んでくることに無防備ですし、飛沫のついた食べ物を口にしてしまう危険性もあり、会食の状況が最も大きな感染の場所になることが理解できます。

普段会わない人との会食はできるだけ避けましょう。どうしても会食する場合は、アクリル板で仕切ったスペースを利用したり、できるだけ会話をしないことが大切です。換気の少ない飲食店で、大勢で飲酒をして羽目をはずし、食べながら大声で話したり歌ったり、という状況が最も感染リスクが高いのです。

【変異コロナウイルス】

最近、メディアでは変異ウイルスの話題が多くされています。変異とは、宿主の細胞内でウイルスが増殖する場合に、遺伝子のコピーを一部間違えてしまうことで起こります。これはウイルスでは自然界で通常起こることで、多少の感染力等の性質は変わるかもしれませんが、決して全く別の強毒なウイルスに変身してしまうわけではありません。

季節性インフルエンザが変異するので、ワクチンを毎年接種することはご存知だと思います。インフルエンザの特効薬は変異しても効果はあります。将来コロナウイルスのワクチンや特効薬が開発されたら、季節性インフルエンザと同じ対応になるでしょう。初期の感染拡大の頃に呟かれてきた、コロナで元の世界に戻れなくなる、ということはありえません。

       

季節性インフルエンザの話題が出ましたが、厚生労働省の発表では、日本でのインフルエンザ関連死亡者は2019年まで毎年1万人程度です。そして、2021年3月の時点で(コロナ蔓延から約1年間)でのコロナ関連死者数は8000人程度です。この数字を比べてみると、季節性インフルエンザとコロナでは年間の死亡者数はそれほど変わらなかったことに驚きます。コロナの感染者、重症者、死亡者は毎年速報で流されるため、とんでもない数に増えている錯覚に陥っていないでしょうか。コロナ=殺人ウイルスとして恐怖することはないと思います。

まとめ

見えないものを相手にしているので、同じ感染の知識を持っていても、感覚的な捉え方は医師によって異なります。専門家の意見が完全に一致していないという難しい側面もありますが、メディア、特に予防関連の商品を売ろうとする業者の不安をあおるようなコマーシャル、視聴率狙いのワイドショーなどに惑わされないようにしましょう。正しい知識を持って、正しく怖がり、予防しましょう。

2021.03.22

テレワークとメンタルヘルス

  新型コロナウイルスの影響で、テレワークを導入する企業が増えました。テレワークを導入することで、通勤時間の削減やどこにいても働けるという利点など様々なメリットがありました。新型コロナウイルス終息後もテレワークを続ける企業が多いとの声を耳にします。では、テレワークを続けていく上で、従業員のメンタルヘルスはどうなのでしょうか。

 新型コロナウイルス感染症が日本で広がり始めた2020年2月以降、全国の自殺者数は過去3年間よりも少なく推移しています。さらに4月には大きく減少しました。

テレワークが導入されたことにより、毎朝出勤するストレスから解放されたという声が多かったと言います。しかし、2020年6月以降は自殺者数が増え、10月には前年比の約1.5倍にもなりました。現在もまだ新型コロナウイルスの終息の兆しは見えず、自殺者数も増加しています。

 オフィス出社の勤務ですと、毎日リズムのある規則正しい生活を送ることができます。しかし、テレワークですと、勤務時間ギリギリまで寝て、きちんと着替えないまま仕事を開始するというようなことも多いのではないでしょか。外に出ないと日光を浴びる時間もなく、通勤時間もないので運動する時間もなくなり、またコミュニケーションをとる相手もいないため、ストレスが溜まったり、脳のリズムが崩れていきます。

また、テレワークだと仕事とプライベートの境目がなくなるため、今までのように会社を出れば、仕事のことを考えなくて済むというようなことができず、仕事が終わっても仕事のことを考えてしまったり、どこまでが残業なあのかどうかという境界線が難しくなってしまう点もあげられます。

それによりマイナス思考になったり、孤独感を感じたり、寝つきが悪くなったり、食欲不振、肩こり、頭痛、様々な不調をきたすようになります。これが続いてしまうとうつ病になってしまう可能性が非常に高くなります。

           

 その他に、オンライン上でのコミュニケーションがうまく取りづらいという理由でメンタル不調を訴える方が多くなっています。オンライン上ですと、直接話しをするよりも、細かい表現が伝わりづらく相手が何を言っているのかを読み取るのに苦労します。

上司からの指示はいつも冷淡できつく聞こえ、落ち込む要因の一つとなります。それと同時に従業員の働いている様子が見えにくいという点も不安な要素であります。従業員がいつもより元気のない様子であったとしてもその不調に気づきにくいという点は、いざという時に周りのサポートがしづらいというデメリットとして考えられます。

 テレワークは経営側の視点からみると、通勤交通費の削減につながったり、大きなオフィスを構える必要がなくなるため、利点が多く見えますが、働く従業員の人達側からするとデメリットもあり、通常出勤と一長一短のような気がします。

メンタルヘルスの観点から何の工夫もせずにテレワークを今後も従業員に課すことは大変危険ではないでしょうか。

【理想の働き方とは】

 オフィスに出社することはメンタル不調を訴えることもありますし、テレワークでメンタル不調を訴える人もいます。

では、どうしたら良いのでしょうか。

テレワークによるメンタル不調の増加が問題視されている中で、専門家による理想の働き方が話し合われていますが、現在理想の働き方の明確な答えはまだ出ていません。

しかし、その中で一つの候補として自由勤務形態が良いと言われています。テレワークをしたいときはテレワークを、オフィス出社をしたいときはオフィス出社をするという従業員の希望に任せるという勤務体系です。

実際にこの勤務体系を導入している企業はあり、働きやすいという声があるようです。

この働き方が効果的であるのかはまだまだ実証段階ではありますが、一定の効果はでているようです。

    

まとめ

 新型コロナウイルスの影響で私たちの生活様式がまるっきり変わってしまいました。テレワークによるメンタル不調だけでなく、テレワークによるハラスメントなどの問題も出てきております。会社が働きやすい職場であるためにも、常に従業員の声を気にする職場づくりが大切であると言えます。

2021.03.13

産業医と精神科医

 産業医を選任する際に、企業が精神科医を求めるケースが多くなってきています。産業医を精神科医にすることは悪いことではありません。しかし、産業医に求められる役割と臨床医に求められる役割は異なります。ここの理解がないまま産業医が社員の主治医としての対応も兼任すると問題が生じるケースが多いので注意が必要です。

【主治医(精神科医)と産業医の違い】


 主治医でも産業医でも医師免許を取得しており、共通する知識は多いです。一方主治医は保険診療を行い、原則的には患者に寄り添う疾患の治療が目的であり、就労能力の判定は症状の改善に注目して行います。産業医は事業所との契約に基づき、その収入は企業側からもらいます。労働者(患者)に寄り添うことだけではなく職場の規則や価値観なども考慮に入れた対応を行うことが中立的な立ち位置となることが多いのです。

薬物療法などは行わないことが多く、その労働者が職域で問題なく働けるかどうか、事例性(給料に見合った労働ができない状態)を通して予防と早期発見を目的とすることになります。復職などの判定も病気の程度だけではなく業務遂行能力にも注目する必要があります。

【なぜ企業は産業医を精神科医にすることにこだわるのか】

 そもそも企業が産業医として精神科医を求める理由は、メンタルヘルスに問題を抱えた社員には身体化の医師よりも精神科の専門医の方がより適切な判断対処を行うと考えているからだと思われます。また、産業医斡旋企業による精神科医の紹介を高額にし、精神科医を産業医とすれば、企業のメンタルヘルス対策は万全であるかのような宣伝も問題の一因であるように思われます。

しかし、専門医のより適切な判断対処は、本人(の治療)の視点によってより適切ということであり、会社の都合や事情なども考えて会社の視点としてより適切という意味での適切ではありません。産業医の判断は、主治医と異なり労働者(相談者)の意向に必ずしも沿ったものにならないこともありますが、同時に必ずしも事業者の意向に沿ったものにもならないこともあります。この中立性・独自性の立場を企業と事前に確認しておかないとトラブルの要因となります。

                    

【産業医を精神科医とするメリット】

 

 精神科医を産業医とするメリットもあります。その一つに、精神科医は話を聴く技術(能力)が高いことが挙げられます。産業医であれば、上司や同僚・人事担当者など複数の関係者に接点をもてるため、より正確で具体的な職場状況の把握が可能となります。それらの情報と本人の意識の照合により、人と周囲の職場状況の認識のズレを修正する支援ができます。

 まず職場に対して、ルールの明示を勧めるなど認識のズレが起きなくなるように働きかけます。認識のズレの修正が困難なときは、本人の自己理解(認知特性の理解)を促すことになります。同時に本人の性格特性などへの周囲理解を深めることで、より適切な支援が可能となります。また、産業医が精神科医の専門医であれば、診療に有用な職場情報の主治医への提供、主治医の意見の妥当性の評価などが適切に行えるという利点もあります。

  

       

【大事なことは】

 産業医を精神科医にしなくてはいけないということでもないですし、身体疾患の起こりやすい職場(特定の工場など)でも身体化を専門とする医師を産業医としなくてはいけないということでもありません。大事なことは、臨床医(主治医)と産業医は異なるという認識を持つことです。

それと同時にメンタルヘルス対策は産業医だけに任せるのではなく、主治医、産業医、カウンセラーや人事担当者など、チームで行うことが大切です。その中でも特にキーポイントとなるのが、主治医(精神科医)と産業医の連携になります。この両者の連絡・連携のなかでそのような見極めや落としどころを協議し、最終的には職場や本人に提案し了解を得ていく必要があります。

※参考文献【精神神経学雑誌 2021 VOL.123 NO.2 「うつ病理解と精神科医と産業医との連携 (著) 新開隆弘」「4つのケアを念頭においた職域との連携 (著) 井上幸紀」「休職者の現状と実践的な対策 (著) 高野知樹」「うつ病からの復職就労者の再発再燃を防ぐために産業医ができることー精神科医が産業医である場合ー (著)塚本浩二」】

2021.03.09

ストレスチェックって意味あるの?

  2015年12月から50名以上の事業所に義務化されているストレスチェックですが、よく「意味がない」という言葉を耳にします。ストレスチェックは本当に意味のないものなのでしょうか?

【ストレスチェックとは】

 年に1度、常時50名以上の労働者を使用する事業所に対してストレスチェック制度の実施義務があります。労働者の中には、アルバイトや派遣労働者も含まれます。質問は57項目あり、それに回答していくというものです。ストレスチェックは、仕事によるストレス程度を把握し、早期に対応することでメンタル不調を未然に防止する「一次予防」を目的として実施されます。ちなみにストレスチェック制度とは、ストレスチェックの実施、産業医による面談指導、面談指導結果に基づく就業上の措置、ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析などの一連の取り組み全体を指します。

          

 

   

【ストレスチェックは意味あるのか?】

 何故ストレスチェックは意味がないと言われているのでしょうか。

毎年同じ質問
年に1回の実施期間で質問に回答している状態のときの結果しかわからない
適当に回答することができる
めったに高ストレスの判定が出ない

などの意見がありました。これをみると、ストレスチェックって本当に意味があるのかな?と思ってきちゃいますね。

【では何のためにあるの?】

 ストレスチェックの本来の目的は、メンタル不調を未然に防止する「一次予防」です。つまり、自分のストレスの状態を自分で見ることができる「セルフケア」の意味合いが強いのです。1年に1回自分のストレスの状態をチェックして、メンタルヘルスに対する意識をしようということです。個人としても年に1回ストレスチェックを受検して、高ストレスが出ていないから安心という考えはよくありません。常日頃から自分のメンタルヘルスに気を遣いながら、「働き過ぎていないか」、「気持ちよく仕事に取り組めているか」、「睡眠、食欲などの体調に変化はないか」など、随時自分の生活を見直してみてください。

 

                          

【ストレスチェックを意味のあるものにするために】

 せっかく企業側がお金を払って、ストレスチェックを年に1回実施してくれているのですから、ストレスチェックを意味のあるものにしたいですよね。ストレスチェックを意味のあるものにするには、ストレスチェックを受ける際に、自分の「今のありのままの」心の状態や生活環境の回答をすることが求められます。ストレスチェックの質問内容は変わりませんが、その人自身の心の状態や生活環境は大なり小なり毎年変化があるはずです。ですので、今の状態に関してありのままに回答をすることが大切です。

【高ストレス者は積極的に面談を受けよう】

 ストレスチェック実施後に産業医の面談を受けることができます。しかし、産業医の面談を受ける際には、会社側に申し出が必要となります。産業医による面談を受ける際に、会社側に自分が高ストレスであると回答しなくてはいけないのは嫌ですよね。

「人事評価が下がるのではないのか」、「違う部署に異動させられるのではないのか」そんな心配があるかと思います。しかし、不利益取り扱いの禁止と言って、産業医面談を受けたからと言って、人事評価を下げることや、給与を下げる、降格させる、退職させるということは法律違反となりますのでできないようになっています。安心して会社側に申し出ることが大切です。

 それでも、実際にストレスチェックに関する調査では、「高ストレス者」と判定された者で、医師による面接指導を申し出た者は18.6%であると言われております。高ストレスと判定されてもほとんどの人が産業医面談を受けていないということですね。これを改善するのは企業側の責任(匿名で相談できる相談窓口などをつける)ですが、自分で近くの精神科クリニックに行って、一度診断してもらうことも手かもしれません。 

※ブログ:ストレスチェックの面談を受けない人が多い?

【より万全なメンタルヘルス対策にするために】

 ストレスチェックはとても意味のあるものですが、メンタルヘルス対策がストレスチェックの実施だけで万全かというとそうではありません。万全なメンタルヘルス対策として、一人一人のメンタルヘルスケアの促進、従業員がメンタル不調を訴えた時に相談できる相談体制、専門家との連携、職場改善など、様々なことが必要になってきます。

また、これらの取り組みを行った上でストレスチェックの実施をすることでさらにストレスチェックを意味のあるものにすることができます。社内だけでメンタルヘルス対策を万全なものにするためには、難しいものがありますので、現在では、メンタルヘルス対策を導入しやすい金額で外部に委託できるので一度検討してみてください。

【まとめ】

 ストレスチェックは、心理学、統計学的に意味のあるものです。ストレスチェックを意味のあるものにするためには、受検者の前向きに臨む姿勢も大切です。まだまだ歴史の浅いストレスチェック制度ですが、ストレスチェック制度は初めて企業側に義務化された具体的なメンタルヘルス対策と言えます。ですので、日本がいかにメンタルヘルスの分野で海外と比べて遅れているかが分かります。しかし、ストレスチェックを有効に活用していくことで、有意義なメンタルヘルス対策が可能となっていくのです。

2021.03.08

従業員、自主的にタイムカード早く切って残業してますよ。

  2019年4月から働き方改革が施行されました。働き方改革では、少子化問題の抑制、労働生産性の向上、働き方、働く方の多様性、健康、メンタル問題への対策、仕事と家庭生活の両立の見直しなど、様々な観点からの改革です。その働き方改革の一環として、時間外労働による上限が法律で規制されました。近年、過重労働による、過労死、精神疾患の発症、自殺が問題となっております。

                    

時間外労働の上限(休日労働は含まない)は、原則として、月45時間・年360時間になりました。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働は年720時間が上限であり、時間外労働+休日労働は月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする必要があります。また、原則である月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月までです。これを違反した場合、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

月45時間の残業とはどのくらいでしょうか。週5日勤務する労働者は月約22日ほどの勤務になります。そうなると1日必ず2時間を超えて残業すると、この45時間という数値を越える可能性があります。では、本当に1日2時間で残業が終わっていますか?

【目に見えない本当の残業時間】

 労働者の労働時間を正確に把握するために、タイムカードによる打刻付けが義務化になりました。しかし、タイムカードによる打刻付けは自主的に付けるものであるため、残業の記録が残らないように早くタイムカードを切って、仕事を続けるなどの光景はよく職場でみかけるのではないでしょうか。それでは何の解決にもなりません。また、パワハラ上司によくある、「自主勉強」という名の時間外労働を強制する職場もあります。成果が出ていないのだから、タイムカードを切って、自主的に勉強をしなくてはいけないという雰囲気を出す上司です。

                     

 

 時間外労働の上限という月45時間という数字は、これ以上労働してしまうと心身に不調が出てしまう可能性があるという警告です。法律上の罰則としては、30万円以下の罰金ですので、経営に大きなダメージがあるわけではありませんが、残業時間が長すぎると、従業員がうつ病を発症してしまったり、最悪の場合自殺者まで出てしまう可能性があります。

そうなると賠償金額が何千万円、何億という額になる可能性も高いのです。さらに、そこまでの被害を出してしまった場合、ニュースでも話題になるため、会社の経営に致命傷のダメージを与えます。つまり、月45時間という時間外労働上限を越えないように徹底した労働時間管理は大変重要なことなのです。

 また、新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する会社が増えてきましたが、テレワークが増えることにより、以前より従業員の働いている状況が見えなくなっているのも注意が必要です。「通勤時間が減ったのだから、もっと働け」など言っていないですか?

テレワークの影響で、仕事と私生活の境目が分けづらくなってきたので、残業時間などの管理は今まで以上に厳しく行わなくてはなりません。一人一人が「会社のためにも、自分のためにも残業はよくない」という認識を持つことで、タイムカードを切ってから働いている人などに注意を呼び掛けることができます。管理者自らが残業をせず、早めに帰宅し、部下のお手本となることも良いかもしれませんね。

                          

【まとめ】

 「残業ができない」という意識をもつことで、従業員が自主的に生産性が上がるように、仕事に取り組むことができます。会社としても、これ以上一人の従業員の仕事量を多くすると残業が多くなってしまうという認識を持つことで、会社全体としてITシステムの積極的導入や、仕事に対する人員配置の見直しなど職場改善を図ることで、より会社としての成長が見込める、メリットになるのです。

2021.03.05

産業医制度とメンタルヘルス対策~適切なメンタルヘルス対策を行うために~

  2008年に施行された「労働契約法」にて安全配慮義務が明文化されたことにより、企業のメンタルヘルス対策に注目が集まりました。また、2015年12から労働者人数が50名以上の事業場にストレスチェックの実施が義務化されたことで、メンタルヘルス対策の重要性は加速していると言えます。

とは言っても、まだ日本のメンタルヘルス対策は海外と比べて遅れを取っているのも事実です。ストレスチェックの義務付けが始まりましたが、まだ歴史が浅く、様々な問題点が出てきており、メンタルヘルス対策として万全なものとは言えません。

          

【日本のメンタルヘルス対策の現状~産業医制度のある日本~】

 日本では、産業医の選任が義務付けられています。そのため、メンタルヘルス対策全般を産業医に全て任せるという企業が多いのではないでしょうか。大企業では、専属産業医を雇用し、カウンセラーなどを産業保健スタッフとして労働者のメンタルヘルスケアを実施しているかと思います。しかし、一般的に中小企業の方が数が多く、医師とは嘱託産業医契約をし、月1回の巡視や衛生委員会、年に1回のストレスチェックの実施後の高ストレス者面談などを行うくらいで、表面的なメンタルヘルス対策と思われます。

嘱託産業医は他の医療活動を行っていることもあり、労働者が不調を訴えた場合、至急の対応を行うことができないのも問題点です。また、産業医の中でもメンタルヘルス領域に詳しい産業医は一部であり、精神科医は全体の15%ほどしかいないと言われております。時代の変化で、産業医に課す負担が多くなり、専門医制度の土台の上にある産業医にとって、産業医の対応領域が限界を超えてしまっているのです。

【アメリカのメンタルヘルス対策】

 アメリカではメンタルヘルスの分野で日本よりもはるかに進んでいます。そんなアメリカのメンタルヘルス対策を見本としていくのが、今の日本に求められています。アメリカでは産業医の選任の義務は基本的にありません。そのため、日本と比べて産業医の割合は極端に少ないと言えます。

また、アメリカの産業医は専門職であり、日本の嘱託産業医のように別の医療活動と並行することはありません。そのため、メンタルヘルス対策を産業医に任せるということはありません。では、アメリカのメンタルヘルス対策とはどのようなものでしょうか。


アメリカのメンタルヘルス対策は、「従業員支援プログラム」EAP(イープ:Employee Assistance Program)と呼ばれるものです。EAPとは、労働者の個人的問題に対してのケアやパフォーマンスの向上、また組織全体の生産性向上や職場改善を目的とした福利厚生ケアの総称を言います。

            

【EAPの歴史】


1950年代のアメリカで第二次世界大戦において心理的外傷を負った兵士たちの心のケアやベトナム戦後の経済不況、その影響が社会経済にも広がり、労働者や経営者などにもうつ病や薬物依存、アルコール依存に陥る人々が増えたため、労働者一人一人の生産性やパフォーマンスが落ち、社会全体として生産性が著しく低下してしまいました。

こうした中で、労働者のメンタルヘルス対策を保つことで生産性の向上を図るために、EAPが導入されることになりました。EAPの導入により、労働者の生産性、企業、社会全体としての生産性が格段上がり、景気回復に大いに貢献した医療制度改革となったのです。アメリカのEAP制度では、病院が企業と直接契約することもあり、いざという時に、労働者が専門医療を受けることができます。

【適切なメンタルヘルス対策とは】

 メンタルヘルス対策として最も大事なことは何でしょうか?それは、労働者のメンタルヘルス不調にいち早く気づき、迅速に専門機関につなげることです。すなわち、メンタル不調を訴えた労働者がすぐに相談できる体制づくりと、専門機関に流すことのできる医療提携体制と言えます。

日本の産業医制度の特性上、労働者が産業医面談を実施するには、会社側に開示しなくてはならないこともあり、相談までのハードルが高いと言えます。それど同時に、産業医は主治医になれないので、産業医に相談したからと言って、近くの専門機関に行くよう指導され、対応が遅れてしまうことも問題であります。

これらを改善するため、メンタルヘルス対策は専門の外部機関に委託することが適切であると言えます。また、産業医の選任義務がない企業のメンタルヘルス対策としても費用負担が少ない外部機関にメンタルヘルス対策を委託することはメリットであると言えます。

【まとめ】


 労働者を守るために適切なメンタルヘルス対策を行うことは会社としての義務です。また、近年の企業のグローバル化が進むにつれて、今までの年功序列制度ではなく、実力による評価を取り入れることにより、労働者の生産性というものが重要視されてきております。

これからの日本の企業がさらに世界に進出していくためには、労働者のパフォーマンス向上という面でもメンタルヘルス対策が必須になってくると言えます。現在では、日本でも気軽に外部機関にメンタルヘルス対策・EAPを行えるようになってきているので一度検討してみてください。

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