メンタルヘルス
2021年10月
2021.10.30
メンタルヘルス対策にエンゲージメントが重要な理由
メンタルヘルス対策にはエンゲージメントが重要と最近は注目されています。エンゲージメントを測る指標やエンゲージメントを高める方法が研究され、多くの企業で取り入れられています。
エンゲージメントを高めることで、ストレスが軽減され、離職率が低下するのに加え、生産性も向上すると言われているのです。ではエンゲージメントとはどのようなことを言うのでしょうか、なぜエンゲージメントが高いとメンタルヘルス対策になるのでしょうか。
よく使われる「従業員満足度」と「従業員エンゲージメント」の違いは何なのか。本記事ではメンタルヘルスとエンゲージメントの繋がりを解説し、エンゲージメントを高める方法を紹介します。
エンゲージメントとは何か?
エンゲージメントとはビジネスの世界では「愛着心」や「愛社精神」と言われます。もっと言うなら「会社の理念に共感し、ともに成長する関係」のことです。似ている言葉には「従業員満足度」がありますが、従業員満足度は従業員個人が会社からの福利厚生や待遇面に満足することであり、あくまで個人の満足度のことでしかありません。
従業員エンゲージメントは従業員の会社への貢献意欲であり、会社と共に成長することを目指す関係を指しています。そのため、従業員満足度は生産性とあまり関わりませんが、従業員エンゲージメントは会社の生産性に大きく関わるのです。
会社にとって従業員エンゲージメントは生産性向上のために重要なポイントなので、多くの企業でエンゲージメントを測り、高めるために日々施策を行っているのです。
最近の研究ではワーク・エンゲージメントと生活満足度、パフォーマンスには相関がみられ、従業員エンゲージメントを高めることは業績に大きく貢献することがわかっています。また令和元年発表の厚生労働省の「労働経済白書」でも、従業員の働きがいや意欲の低下はストレスや疲労感を強め、健康へ悪影響を与えることが指摘されています。エンゲージメントの向上は従業員の生産性だけでなく、メンタルヘルス対策にも大きく貢献しているのです。
メンタルヘルスとエンゲージメントの繋がり
エンゲージメントが従業員の意欲と生産性に関係することは述べましたが、メンタルヘルスにはどのように関わるのでしょうか。
エンゲージメントの国際的な調査結果によると、日本のエンゲージメント指数は世界139か国の中で132位と先進国の中でもかなり低い順位になています。
日本人に自殺が多いとされるのはメンタルヘルスと関係があり、エンゲージメントの低さがメンタルヘルスに影響していると考えるべきです。
経済省の発表ではエンゲージメントの高い会社では離職率は8%低下し、仕事に対してポジティブな感情を抱きやすく、睡眠の質も良好という結果が出ています。逆にエンゲージメントの低い場合に起こりうるのが「燃え尽き症候群(バーン・アウト)」です。
バーンアウトを聞いたことがある人も多いと思います。仕事が辛くなり、心身共に無気力の状態になってしまうことです。バーンアウトになると無気力だけでなく、疲れ、欠勤の他、うつ状態になってしまうこともある危険な状態です。
またエンゲージメントの高さはストレスの感じにくさにも関係してきます。エンゲージメントの高い状態とは、仕事への興味・関心が強い状態です。興味のあることに取り組む時間は過ぎるのが早く、集中力も高まります。エンゲージメントの低さはストレスとバーンアウトに関係が深いため、従業員のエンゲージメントを高めることがメンタルヘルス対策にも重要となるのです。
仕事へのストレスに関してはストレスチェックでも把握できるので、従業員のストレスと変化には柔軟に対応できるような配慮をしましょう。
従業員のエンゲージメントを高めるには
エンゲージメントを高める前に、まずは従業員のエンゲージメントを知ることが肝心です。エンゲージメントを測る指標には3種類あります。
1.エンゲージメント総合指標
2.エンゲージメントレベル指標
3.エンゲージメントドライバー指標
それぞれについて解説すると、「エンゲージメント総合指標」は会社への満足度や会社を他の人にも勧めたいか、といった質問に答えることで測ることができます。
次に「エンゲージメントレベル指標」は仕事への熱意や没頭、活力などで測る指標です。そして「エンゲージメントドライバー指標」は人間関係や職場環境など組織の状態、職務難易度、個人の能力などを指標として測定します。
従業員のエンゲージメントを把握したら、次はエンゲージメントを高める施策が重要です。従業員のエンゲージメントを高めるには次の施策が有効です。
・従業員の価値観を把握する
・マネジメント層を教育する
・タレントマネジメントを活用する
・従業員にオーナーシップを持たせる
・リーダーシップを推奨する
まず1つ目に従業員の価値観は、従業員それぞれの異なる価値観を知り、従業員それぞれが働きやすい環境を整えるために必要です。仕事を一番に考える人もいれば、余暇を大事にしたい人もいるため、それぞれの価値観を把握、尊重することがエンゲージメントを高める効果に繋がります。
2つ目のマネジメント層の教育は、上司を教育し職場環境や部下との人間関係を調整するうえで大切です。コーチングやマネジメントの研修を行い、上司が適切なマネジメントを学ぶことで効果が期待できます。
3つ目のタレントマネジメントは人材の適材適所な配置のことです。個々の能力や特徴、価値観や生きがいを把握し、従業員の才能・資質を最大限発揮できる場を用意することで効果が期待できます。
4つ目の従業員のオーナーシップとは、従業員が単に言われたことをやるだけでなく、自発的にやる気になってもらうことです。つまり従業員それぞれが管理者のようにある程度の権限を持ち、仕事の情報共有、従業員間のコミュニケーションを積極的に測ることでモチベーションを上げる方法です。仕事への責任とやりがいを持たせるために、オーナーシップは重要な施策になります。
最後にリーダーシップの推奨です。仕事はチームで動くことが多く、リーダーシップのある人材は円滑な人間関係と作業効率の向上に貢献します。リーダーシップは単純な業務能力だけでなく、人を率いるカリスマ性などの目に見えない部分もあるため、適切な選抜が必要です。
正しくリーダーシップを発揮できる人材を配置できれば、職場全体のエンゲージメントを高める結果に繋がります。
まとめ
メンタルヘルス対策にエンゲージメントが重要である理由とエンゲージメント高める施策について紹介しました。従業員満足度とはまた異なるエンゲージメントですが、メンタルヘルスだけでなく業務効率にも大きく貢献する要素です。
エンゲージメントの低い職場では、業務効率が低下するだけでなく、従業員のモチベーションが下がり、最悪の場合バーンアウトにも繋がります。ストレスチェックによる従業員のストレスだけでなく、エンゲージメントを把握することも大事にしてください。
2021.10.20
うつ病とパニック症はなぜ一緒に起きるの?
うつ病は気分が落ち込む病気で、パニック症は不安発作の病気です。病気がいっしょに起きることを合併と言いますが、うつ病とパニック症が合併することがあります。これは稀なことではなく、パニック症の人の3割にうつ病の症状があると言われています。また、うつ病と診断されながら、パニック発作が出てくる人も多くいます。
【うつ病とパニック症はなぜ合併するのか?】
脳の働きは神経伝達物資で営まれています。特にドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンは3大神経伝達物資と呼ばれ、脳の活動の重要な役割を果たして心の安定を保ちます。
ドーパミンとノルアドレナリンは感情に関わる物資で、ドーパミンは快感を、ノルアドレナリンは意欲を担当しています。セロトニンは、これらの物資を制御することで、情緒の安定に関係します。安心感や幸福感に関わる大変重要な物質なのです。それだけでなく、覚醒や緊張の状態、体のリズム、睡眠、体温調整、痛み、など、たくさんの脳の活動と関係しています。
過度のストレスで、つねに気を抜けない状態が続いていると、セロトニンの分泌が低下し、ドーパミンやノルアドレナリンの分泌にも影響を与え、心の状態が不安定になります。こうしたことから、うつ気分、無気力、不安、焦り、不眠、自律神経の失調などの症状が現れます。これがうつ病やパニック症になるのです。
うつ病もパニック症もともにセロトニンの分泌が少なくなることで起こるために、合併することがあるのです。
【その他のセロトニンに関わる病気】
実は、他にもセロトニンが関わる病気があります。強迫症、摂食障害、社交不安症、慢性疼痛などです。
強迫症とは、自分でもつまらないことと分かっていても、それにこだわってしまう病気です。例えば、汚れや泥棒に入られるなどの不安から、手洗いや戸じまりなどの確認が止まらなくなります。
摂食障害とは、太ることを気にし過ぎて、食事のコントロールがつかなくなる病気です。無理なダイエットをして、過食と嘔吐を繰り返すことがあります。
社交不安症とは、人の目が気になってしまう病気です。人前に立つことや会食ができなくなります。
慢性疼痛とは、検査で大きな問題がないのに、首や腰などに激しい痛みが長く続く病気です。
これらの病気もセロトニンの分泌が少なくなることで起こる病気ですので、どれもうつ病と合併する可能性があります。
【セロトニン分泌を増やす方法】
それではどのようにしたらセロトニンの分泌を増やすことができるのでしょうか?
大事なこと
うつ病やパニック症の場合、仕事の休み、食事と睡眠をよくとり、規則正しい生活をすることでセロトニンの分泌は数か月で通常に戻り、本来の脳の活動を取り戻します。しかし、食事や睡眠が十分にとれなかったり、何らかのストレスが続いている場合は、自然に回復することは難しく、薬で後押しする必要があります。
抗うつ薬にはセロトニンを増やす働きがあります。その中でも特に優れているのがSSRIという薬です。具体的にレクサプロ、ジェイゾロフト、パキシル、デプロメールなどが処方されています。うつ病、パニック症、強迫症、摂食障害、社交不安症、慢性疼痛などの治療で、共通してこれらの薬が使われているのは、セロトニンを増やすのが目的です。
直接口に入れても意味がない
セロトニンが足りないからと言って、直接セロトニンを口に入れても脳には取り入れられません。脳は特殊な膜で包まれているためです。その代わりにトリプトファンというアミノ酸を原料として脳の中で合成されます。トリプトファンが含まれている食べ物は、肉、魚、豆、ナッツ、豆乳、乳製品などのタンパク質が多く含まれているものです。
一人暮らしでカップラーメンやコンビニのおにぎりだけで済ませているという方は、このような食物を多く食べるように意識するのも良いかもしれません。特に女性は男性よりもトリプトファン不足がセロトニン不足につながりやすいと言われています。
ドラッグストアにはサプリメントやプロテインもありますが、逆に取り過ぎになる危険性があります。多く取ると肝臓などに害があるため、できるだけ食べ物から取るようにしましょう。
運動も大事
セロトニンを増やすためには、運動も大切な要素です。激しい運動でなく、早歩きのウォーキングなどの有酸素運動が良いでしょう。ヨガなどの呼吸法を伴う運動も効果があります。1回に長時間をやるのでなく、1回は20~30分、週4日程度がお勧めです。
まとめ
日本はストレス社会であり、メンタルヘルスに支障をきたす人がたくさんいます。過剰なストレスは脳のセロトニン分泌を低下させることで様々な病気をつくり出します。仕事などで無理をし過ぎないように注意し、食事、睡眠、運動に気を配った規則正しい生活を心がけましょう。
2021.10.19
解離性同一性障害について
ヒッチコックの「サイコ」に代表されるように、サスペンス映画やドラマで多重人格が描かれることがあります。2人の全く別の人物が登場しますが、実は同一人物だったという結末に驚かされます。別人に見えていたのは、1つの体に2つの人格が宿っている多重人格というトリックです。
このような多重人格は本当にあるのでしょうか?
【解離性同一性障害|多重人格】
実際にも、心の中に別の人格がいて、それが目の前に現れたり、話しかけてきて、いつの間にかその人格に体が乗っ取られるという現象があります。精神医学では、心が別の人格に分かれる=解離するという意味で、多重人格を解離性同一性障害と呼んでいます。
解離という言葉は19世紀にフランスの心理学者ジャネが考えたもので、虐待などの耐え難いトラウマから逃れるために人格が分かれてしまうのではないか、と考えました。現在も精神医学は基本的にこの考え方を引き継いでいます。
実際に観察される別人格は、興奮や混乱した状態で現れることが多く、怒りや悲しみなどの衝動が引き金になっています。
【事例】
例えば、とても大人しい人が、気に入らないことがあって突然怒り出し、鬼のような顔つきの別人みたいになるのが代表的なものです。普段は絶対に使わないようなやくざのような口調で話し始め、大暴れすることもあります。数時間から数日すると元に戻り、暴れていた時のことを思い出せません。
こんな例もあります。女性がつらいことがあって興奮して泣き叫んでいます。そのうちに、「バブバブ」と突然赤ちゃん言葉で話し出し、動作も子供のようになりました。注意を引くためにわざとやっているようにも見えます。周りの人がなだめて落ち着くと、いつもの様子に戻りましたが、赤ちゃんになってしまったことは思い出せません。
【解離性同一性障害か統合失調症か】
このように解離性同一性障害には興奮や混乱があり、さらに別人格の声が聞こえる幻聴の症状もあるため、精神科医は統合失調症と診断することが多いようです。
ふつう統合失調症は、論理的な思考に異常が出たり、無関心無気力になり、解離性同一性障害と違う経過をたどりますが、このような症状がない人は、後から解離性同一性障害であると診断が変更されることがあります。
また、不安で激怒するということから境界型人格障害と診断されるケースも多いようです。
【16の人格を持ったシビルという女性】
16の人格をもったシビルという女性の記録が、1973年に発表されました。この本によって、多重人格が実際に存在することが世界中に知らされました。日本でも「失われた私」という題名で翻訳されています。シビルが幼児期に親から虐待を受けて、人格が16人に解離する様子や、精神分析治療で解離した人格たちが統合されていく様子が記録されています。1976年には「シビル」という題名で映画化されました。
「シビル」は、精神医学にも大きな影響を与えました。人格の解離は幼児虐待によるもので、治療には精神分析による人格の統合が必要と説明されました。それまで統合失調症と診断されていた人が、解離性同一性障害に診断が変更されたり、あらたに診断されるケースは前の年の100倍に増えました。
40年たった後、シビルの症例は再度検証されました。なんと医師と患者とジャーナリストがグルになって捏造していたことが2011年に暴露されています。わざわざ捏造したのは、幼児虐待をなくすための社会運動を盛り上げる理由もあったようです。
【解離性同一性障害の原因】
解離性同一性障害は、シビルで強調された虐待やトラウマがないケースもたくさんあります。実際には、遺伝的な要素や孤独などの環境の影響が関わっているようです。解離した人格を一つにする治療が必要と言われていましたが、現実には抗精神病薬や抗うつ薬の治療でうまく行っていることも多いようです。情緒が安定するに従い、解離することも減っていきます。
【まだ分からないことが多い解離性同一性障害】
多重人格を精神医学の観点から説明していきましたが、世の中には古くから霊の憑依という考え方があります。人格が分かれるのでなく、見えない人格に体を乗っ取られると考える方が私たちには馴染みが深いでしょう。日本では、悪霊やキツネに憑かれて別人のようになって風変りなことをする病気を憑依精神病と呼びました。
昭和の初めくらいまでは大変多く見られた病気です。精神医学では、憑依という言葉は非科学的ということで、解離という言葉を使うようになりました。現在、憑依状態は解離性同一性障害に含められています。
女の子に憑依した悪霊を払う「エクソシスト」という映画をご存じですか?悪魔払いは映画だけのものと思われている方もいるかも知れませんが、イタリアでは現在も行われています。精神科医が統合失調症でないと診断し、カトリック教会に所属するエクソシストが悪霊の憑依であると判断できた場合、悪魔祓いの儀式を行います。実際に軽快する人もいるので、解離性同一性障害はまだ解明されていないことが多いのです。
2021.10.12
うつ病はどれくらいで治るの?
「病院でうつ病と診断されて、医師からは3ヶ月くらいで治ると言われたのに、気付いたら薬を10年以上飲み続けている。仕事はできているが、薬をやめると具合が悪くなる。」こんな話をよく聞きます。実際にうつ病はどれくらいで治るのでしょうか?薬はやめられないのでしょうか?
【再発の多いうつ病】
通常、うつ病は休養をとることで3ヶ月から1年くらいで自然に改善されると言われています。しかし、仕事のストレスで発症した場合、十分に回復できないまま元の職場に戻ることや、復職後の仕事内容に十分な配慮をなされていないこともあります。せっかく回復してきたのに、発病した時と同じストレスを受けることになります。そのために半数の人が再発するというデータがあります。
再発と言うのは、何かのきっかけで治ったはずのうつ病をぶり返すことです。骨が折れたら、くっついても他の部分よりも弱く折れやすくなっています。以前と同じように使っていたらまた折れてしまいます。うつ病も同じで、発病した時と同じような無理をするとまたぶり返してしまいます。
骨折の後は、折れた部分をできるだけ使わないようにする、サポーターをするなどをして保護してあげます。うつ病の場合も、職場のストレスが原因で発病した場合は、元の職場に戻れば何らかの予防をしない限り、再発する可能性は高いのです。
【薬の治療が効果的】
薬の治療をすると回復は早まり、再発の予防効果もあります。病院でうつ病と診断されて、軽症で休養がとれる場合は薬が処方されませんが、通常は早く回復してもらうために薬の治療が行われます。改善してから1年くらいが最も再発しやすいので、良くなっても最低1年は予防のために服薬をつづけます。
しかし、実際に仕事を再開してから、1年以上服用を続けることの方が多いようです。なぜなら、職場にもどっても発病した時と同じようなストレスが変わらないことが多く、また、ストレスの多い職場を辞めて、転職したからといっても、そこでうまく行くとも限りません。年齢とともに子供の教育費や家のローンなどの経済的な負担が増えます。
仕事上の責任も増えると、ストレスは増える一方です。それ以外にも体の病気や事故など、人生は何が起きるか分かりません。生活が落ち着き、そろそろ薬をやめられそうになっても、何かストレスになることが増えて、結局薬を継続することになる人が多いようです。10年どころか、現役時代の30年は抗うつ薬をずっと飲んでいた人も少なくありません。
【抗うつ薬は長期に服用しても問題ない】
基本的に抗うつ薬は長期に服用しても大きな問題はありません。ただし、体の代謝が落ちやすく、食欲を上げる作用があるので、体重が増えることがあります。食事と運動には気をつけて、メタボリックシンドロームにならないように注意しましょう。定期的に健康診断を受けてチェックすることも大切です。
【うつ病とともに生きていく】
ストレスに溢れた社会ですから、予防のために薬を飲みながらでも日常生活が普通ならうつ病は治ったと考えるのも手かも知れません。年齢を重ねても病気一つないと完全無欠である必要はありません。薬を飲みながらでも元気に生活できているなら良いと考えればクヨクヨしないで済みます。苦痛の伴う手術やリハビリでなく、薬を何粒か飲むだけで解決するならばそれで良いと考えてはどうでしょうか。
【普通のうつ病でない可能性】
ここまでは薬でうつ病が良くなる人の話でしたが、実はうつ病で薬を飲んでも仕事に戻れない人が3割もいます。それは、うつ病と診断されていても普通のうつ病でない可能性があります。一つは基礎に発達障害があり二次的にうつ病が起きているケースです。もう一つはうつ病でなく本当は双極性障害Ⅱ型であるケースがあります。また、孤独や経済困難などの悪循環に陥ってしまい回復のきっかけをつかめないでいるケースもあります。
こうした人たちのために、障害者雇用や障害者年金といった公的な支援制度があります。大きな企業での障害者雇用枠は年々増えており、同じ職種でも仕事量や時間の束縛が少なかったり、病気を抱えながら働ける工夫がされています。以前と同じレベルの仕事ができないことは大変辛いことですが、できるところから始めることも必要です。公的な支援を受けることがきっかけとなり、病状がよくなっていく引き金になる人もいます。
2021.10.09
EAP 導入率
企業におけるメンタルヘルス対策が注目される中、EAPを導入する企業も増えてきております。職場で過度なストレスや不安症状、うつ状態などのメンタル不調を抱えたまま仕事をすることで、業務パフォーマンスが落ちたり、ミスが多くなったりし、企業としての業績も落ちていきます。
また、休職者、退職者がでてしまうことで損失も計り知れません。
【EAP導入率】
アメリカでは、8割近くの企業でEAPを導入していると言われており、従業員数が5人以上の企業ではほとんどの企業で導入されていると言われております。日本では、まだまだ少なく、今後グローバル化が進むにつれて、日本でも多くの企業でEAPの導入が進むと考えられます。
EAPには内部EAPと外部EAPがあります。内部EAPは自社で産業医やカウンセラーを雇用し、メンタルヘルス対策を行うもので、外部EAPは外部の専門機関に委託するというものです。
アメリカは基本的に外部EAPです。内部EAPは、自社で専門家を雇用もしくは契約しなくてはいけないことから、費用面で多くの中小企業が実践するには難しいため、今後の日本でも外部EAPの必要性が高まっていくでしょう。
日本はアメリカと異なり、産業医制度というものがあり、事業所が抱える労働者が50名以上の企業では、産業医の選任が求められます。
厚生労働省の指針では、メンタルヘルス対策の推奨において、次の4つのケアを必要としています。
1.セルフケア
2.ラインケア
3.事業場内産業保健スタッフによるケア(内部EAP)
4.事業場外資源によるケア(外部EAP)
つまり、内部EAPと外部EAPどちらも導入することを推奨しております。
内部EAPの特徴として、社内に専門家がいるため、すぐに相談・対応が行えることがメリットとしてあげられます。社内に専門家がいるため、職場の状況を考慮しての職場改善や従業員対応が行えます。
外部EAPは外部に対応機関があるため、従業員の相談のしやすさがメリットとしてあげられます。そのため、社内のカウンセラーには相談できなかったが、外部のカウンセラーには相談できるというケースも多くあります。また、外部EAPではメンタルヘルスに関する専門家が連携を行っており、専門性が高いのが特徴です。
日本では産業医制度があるので、産業医制度を土台としながら、EAPを活用し、メンタルヘルス対策をより強固なものにしていくと良いでしょう。産業医の中には、メンタルヘルス分野を苦手とする方もいます。外部EAPを導入することで、メンタルヘルス分野で産業医をサポートしていけることが期待できます。
【EAP利用率】
従業員のEAPの利用率は3~10%であると言われております。しかし、一般的に職場でストレスを感じているという報告は、働く人の6割にもおよぶ調査があることから、EAPの利用率を上げていくことが課題となっています。
一般的に従業員が少ない企業でのEAPの利用率が下がると言われています。これは、ストレスが低いというよりも、EAPを利用したことが社内で知られてしまうのを心配しているのが理由です。
外部EAPは外部機関に相談機関があることから、内部EAPよりも従業員が利用しやすいと言われています。それでもEAPを利用することに抵抗がある人が多いようで、今後もEAPの利用率をあげていくことが必要であると言えます。
しかし、EAP利用率が低いことが一概に悪いことかと言うとそうではありません。職場によってストレス度合いは異なります。健康的な職場であれば、利用率が下がるのは当然のことで、職場環境が良いというサインの可能性もあります。
実際にストレス度合いが高いのに、利用率が低いのか、ストレス度合いが低くて、利用率が低いのかを把握することが必要になります。職場のストレス度合いをチェックするにはストレスチェックが適しており、集団分析を行うことで職場の状況を把握することができます。
ストレスチェックをうまく活用し、自社が健康的な職場であるかどうかを確認しながら、EAPの利用率を見ていくことが大切です。
EAPはすぐに効果が出るものではありません。導入してから数年の期間が必要です。その際に従業員がEAPをより利用しやすくできるよう、EAPの委託先と相談しながら、改善を図っていくことが大切です。
2021.10.07
うつ病と体の痛み
うつ病は気分が落ち込む心の病気ですが、体にもさまざまな症状が出ます。心と体は脳を仲介としてつながっているためです。うつ病の人が訴える体の症状の一つに痛みがあります。
痛みの場所は、特に頭、首、背中、腰が多いのですが、それ以外にも顔面、顎関節、四肢、四肢の関節、陰部、肛門と数え上げたらきりがありません。実は、うつ病の患者さんの6割に何らかの体の痛みがあるとも言われています。痛みで病院に行ったら、うつ病があることが分かったというケースもあります。
今回はうつ病でなぜ体の痛みが出るのかを説明します。
【うつ病の痛み】
うつ病の痛みは、内科や整形外科を受診してレントゲンやMRIなどの検査をしても大きな異常が見つかりません。痛みの場所から緊張性頭痛、頚椎症、腰痛症などの病名がつけられることが多いのですが、普通の痛み止めはあまり効果がなく、リハビリに通って牽引やマッサージを受けても改善がないことも多いようです。しかし、うつ病の改善に伴い良くなります。
痛みの場所は、レントゲンやMRIに映らないくらいの小さな骨の歪みや神経の傷があるのかも知れませんが、検査結果から想像できる以上に痛みを訴えるので医師に怪訝(けげん)そうにされることがあります。心因性の痛みと説明されて、「実際に痛いのにまるで気のせいのような言い方をされた」と傷ついてしまう患者さんもいるようです。
これは、うつ病では、脳の痛みを感じる部分に異常が起きて、痛みを感じやすくなっているのが原因です。実際に感じるはずの痛みよりも何倍、何十倍も痛みを感じてしまうのです。うつ病でセロトニンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物資の分泌が低下し、偏桃体という部分が異常に反応していると考えられています。脳の中で痛みが増幅されているのです。心因性の痛みと呼ばれていますが、決して気のせいではありません。
首や腰の痛みは体を支える重要な部分であるため、体を動かす度に痛みを感じてしまい、気分を落ち込ませてうつ病を悪化させてしまいます。さらに、うつ病が痛みをつよめてしまうという悪循環に陥ってしまいます。
【検査をしても見つからない病気】
慢性疼痛(まんせいとうつう)という病気があります。検査をしても大きな異常が見つからないのに、激しい痛みがずっと治らない病気で、顔面神経痛、頚椎症、腰痛症などに見られます。
通常の痛み止めや手術、リハビリでは改善しません。慢性疼痛もうつ病の痛みと同じように、脳の偏桃体に異常が起きていると考えられています。最近ではリリカのような脳内の神経伝達物質に作用する鎮痛剤が処方されますが、ふらつきや眠気の副作用がつよいために飲めなくなる人もいるようです。
慢性疼痛でも、痛みが気分を落ち込ませ、うつ病になってしまうケースがあります。うつ病の痛みと同様、痛みがうつを悪化させ、うつが痛みを悪化させるという悪循環に陥ってしまいます。「卵が先か、ニワトリが先か」の問題と同じで、うつ病と慢性疼痛ではどちらが先に起きていたのか分からないことも多いようです。
【治療法】
うつ病の痛みも慢性疼痛も、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの分泌が低下していることが考えられているので、これらを改善させる抗うつ薬が治療に使われます。特にサインバルタなどのSNRI、トリプタノールなどの三環系抗うつ薬が処方されています。
ロキソニンやボルタレンなどの普通の痛み止めは、痛む部分で作られるプロスタグランジンという痛み物資を作らせない効果があります。痛みの物質が減っても、うつ病や慢性疼痛の痛みは、痛みを感じる部分が過剰に反応しているので、このような普通の痛み止めは効きにくいのです。
以前は慢性疼痛で整形外科に通っていると、「心因性の痛みなので精神科へ行きなさい」と言われて傷つく患者さんが多かったようです。最近は抗うつ薬を処方してくれる整形外科医も増えています。しかし、出されたものがうつ病の薬と説明されて、「実際に痛いのに心の問題にされている」と飲むのを好まない人もいるようです。抗うつ薬を飲むのは、痛みが気のせいだからではありません。脳が痛みを過剰に感じていることを改善させるために飲むのです。
うつ病と痛みについて説明しました。治療しているにも関わらず、なかなか治らない痛みをお持ちの方は、うつ病が関わっている可能性があります。こうした痛みで苦しまれている方は、一度専門家と相談してみるのも良いかも知れません。
2021.10.04
産業医による従業員のうつ対策
2015年12月から従業員50名以上の事業所には年1回以上のストレスチェックが義務化されました。メンタルヘルス対策として産業医の選任も義務化され、大企業では専属の雇用契約、中小企業では嘱託産業医との契約が多くなっています。産業医はメンタルヘルス対策や、うつ症状などのメンタルヘルス不調を訴える従業員にどう関わっているのでしょうか?
産業医とは
産業医とは、「事業場において、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事を行えるよう、専門的な立場から指導・助言を行う医師」と定義しています。※1
(ブログ:産業医とは?普通のお医者さんとの違い)
産業医には職場環境を整備し、従業員に生じるメンタルヘルス不調や健康被害を軽減する役割があるのです。従業員のメンタルヘルス対策への意識が社会で高まる中で、産業医は企業ができる対策の柱の一つです。産業医と契約することは義務化されていますが、企業にとっても多くのメリットがあります。
具体的には次のようなものです。
・職場外の人間なので相談がしやすい
・専門職としての立場から指導やアドバイスがもらえる
・従業員からは言いにくいことでも、職場内外と情報共有してくれる
・心身の不調があれば受診の判断をしてもらえる
・休職中~復職のサポートが受けられる
・職場環境改善の検討に医師の視点から参加してもらえる
メンタルヘルス不調は従業員の意欲や生産性の低下へと結びつきやすく、企業にとっては悩ましい問題です。産業医は専門職としての中立的な立場から、従業員へのアドバイスも行えるため、メンタルヘルス対策としてメリットが多いです。
産業医は内科医が多いとされますが、最近ではメンタルヘルス対策の観点から精神科医を望む企業も多くなっています。
(ブログ:嘱託産業医は精神科医が良いのか)
産業医と契約する上で、あらかじめ覚えておいて欲しい知識があります。それは、
・診断書の発行ができない
・治療は行えない
というものです。産業医が行うのはストレスチェックで問題のあった従業員や心身の不調を訴える希望者との面談なので、直接治療や診断は行えません。その代わりに職場との連携と、治療する病院への情報共有を行うといった形で従業員をサポートしてくれます。
休職するほどメンタルヘルス不調が現れている場合、復職までには産業医との面談も必須です。治療や診断は行えない分、復帰支援してくれるのが産業医という認識になります。
産業医のメンタルヘルス対策の役割
前述のとおり、産業医には役割やメリットがあることは紹介しました。そのうえで、産業医が企業で果たすメンタルヘルス対策には大きく分けて次のものを知っておきましょう。
●従業員との面談・相談
●休職者・復職者のサポート
●職場環境改善に向けた検討
従業員との面談・相談
メンタルヘルス不調を抱えている従業員がいる場合、月1回程度は産業医との面談をしましょう。メンタルヘルス不調は早期に対処するほど回復が早く、面談で話をするだけでもストレス改善が見られます。産業医には個人情報の保護も求められているため、従業員が「職場に知られたくない」と言えば、緊急性の高いケースでない限り情報が知られる心配もありません。
(ブログ:産業医面談って意味ないの?)
管理監督者や同僚の方も、メンタルヘルス不調が疑われる従業員を見かけたら産業医への面談・相談を勧めることが大事です。
休職者・復職者のサポート
産業医の役割には休職中~復職までのサポートも含まれます。休職から復職するにあたっては、産業医が主治医と情報共有して職場復帰が妥当か判断するため、休職中から従業員をサポートすることになります。
メンタルヘルス不調で休職している場合、頻繁な面談は本人にとっても負担となるため、月1回程度の面談を行うことになるでしょう。産業医は復職前に従業員の就労意欲、体力、生活リズムなどの総合的な観点から、復帰して仕事に耐えられるか判断します。面談で得た情報を職場の上司や人事課とも相談することで、復職後の業務調整や部署異動もアドバイスされます。
(ブログ:社員が休職した場合の対応)
(ブログ:復職後の手順を解説|再発を予防するために)
職場環境改善に向けた検討
メンタルヘルス不調の従業員の有無にかかわらず、産業医は職場環境改善のための検討会議等に参加します。また労働安全衛生法第13条5項の定めによると、「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。」とされています。※2
産業医には職場環境改善を指導し、企業にはその指導に従う必要があるのです。職場環境改善の観点からも、産業医の役割は非常に大きいと言えます。
うつ症状の早期発見をし面談する
メンタルヘルス不調やうつ病は、身体的な症状として現れやすいものです。本人が自覚していないケースもあるため、管理監督者や同僚は次のような症状があれば産業医との面談を勧めましょう。
・食欲がない
・頭痛やめまいが長時間続く
・強い不安感やイライラが続く
・仕事や私生活での意欲の低下
・気分の落ち込み
・睡眠不足が続く
メンタルヘルス不調は早期発見するほど回復が早く、職場復帰も早くなります。上記の症状に当てはまる従業員がいる場合は、産業医への面談を勧めることと、業務量調整、職場環境改善が必要です。
(ブログ:うつ病を予防しよう)
まとめ
産業医の役割は従業員の面談、休職・復職、職場環境改善までメンタルヘルス対策全般を担っています。しかし産業医は診断・治療に関わることはありません。
そのため産業医の役割を重要視しない方もいますが、産業医は企業と従業員から中立的な立場で職場環境を判断してくれます。メンタルヘルス不調を防ぎ、ストレスの少ない職場を目指すうえでは必須の存在です。産業医の役割を理解し、メンタルヘルス対策に活用しましょう。
※1:東京都医師会よりhttps://www.tokyo.med.or.jp/sangyoi/whats
※2:労働安全衛生法よりhttps://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057
2021.10.01
躁うつ病について(双極性障害、うつ病、躁うつ病の違い)
マライアキャリーが、躁うつ病の治療を受けていることを2018年のインタビューで公表しました。躁うつ病と言えば、古くは作曲家ベートヴェン、シューマンが有名です。
日本の作家でも、夏目漱石、宮沢賢治、太宰治なども躁うつ病であったことが知られています。エネルギッシュな芸術活動や派手な私生活をしたかと思うと、いつの間にか表舞台から消えてひきこもることを何度も繰り返すのが特徴です。躁状態とうつ状態を繰り返すために躁うつ病と呼ばれています。
【躁状態とは】
躁状態とはあまり聞かない言葉ですが、気が大きくなり、活動的で寝ないでも元気な状態です。色々なアイディアが頭に浮かび、よく話し社交的になります。しかし、良いことばかりではありません。落ち着きがなくなり、浪費が多く、ブランド品を買い漁ったり、何度も海外旅行をして、ついにはクレジットカード破産してしまうこともあります。不注意で交通事故を起こしたり、喧嘩っ早くなって、警察沙汰になることもあります。
【うつ病と躁うつ病の違い】
うつ病と躁うつ病の違いは、躁状態があるかないかのように考えられていましたが、10年ほど前からうつ病と躁うつ病はかなり違う病気であることが分かりました。きちんと区別するために、最近では躁うつ病を双極性障害と呼ぶようになっています。双極とは躁とうつが感情の両極であることから来ています。
うつ病とは、ストレスから誰でもなりうる病気であり、休養と治療で数か月~数年間で治る病気です。躁うつ病はやはりストレスが引き金になりますが、10~20代で発症し、遺伝的な要素がつよく、治りにくい病気です。
躁うつ病でも、軽い躁状態であると本人は不快感がないために病院を受診することはありません。うつ状態になった時に初めて受診するようになります。受診した時に躁状態があったことを医師に伝えられると躁うつ病の診断がつけられるのですが、気付かなかったなどの理由で申告されないことが多いようです。そのために躁うつ病でありながら、うつ病と診断がつけられることがあります。
では、うつ病と診断された躁うつ病がどのようにして判別されるかと言うと、うつ病治療の薬が効かなかったり、治療の途中で躁状態になることで改めて診断されます。統計では、最初にうつ病と診断された人の2割が、後に躁うつ病と診断されると言われています。うつ病と言われて10年目にして改めて躁うつ病と診断されたということも少なくありません。
【躁うつ病のタイプ】
躁うつ病には2つのタイプがあります。躁状態とうつ状態があらわれるⅠ型と呼ばれるものと、躁状態は軽く短く、うつ状態が重く長くⅡ型と呼ばれるものです。特にⅡ型はうつ病と間違えられやすい傾向があります。うつ病と診断されてなかなか治らない場合は、このⅡ型の躁うつ病の可能性があります。
【うつ病と躁うつ病を区別する方法】
うつ病と躁うつ病を区別できる検査法として光トポグラフィーという検査があります。椅子に座って装置を頭につけ、脳の血流を測定するものです。脳の血流の変化の違いでうつ病、躁うつ病、統合失調症かを区別することができます。健康保険の適応があり、2000円程度で受けることができます。自費になりますが、10000円程度で希望すれば誰でも受けさせてもらえる病院もあるようです。
ただし、光トポグラフィーの信頼度は7割前後のために、診断を確定できるものではありません。あくまでも補助的に行われるもので、すべてのうつ病の患者さんに行うことはありません。
【躁うつ病の原因と治療】
躁うつ病の原因として、脳のいくつかの部分の働きに異常があることが認められています。気分安定剤や抗精神病薬という薬により脳の働きを改善させることで治療の効果があります。デパケン、リーマス、ラミクタールなどの気分安定薬、ジプレキサ、エビリファイ、セロクエル、リスパダールなどの抗精神病薬がよく処方されます。
ただし、この薬なら必ず効くという確実な薬はありません。いくつかの薬を組み合わせたり、うつ状態がつよい場合は抗うつ薬を使うこともあります。躁うつ病に抗うつ薬を使ってはいけないと言われていた時期もありましたが、最近は効果があるケースには処方されることがあります。
躁うつ病の治療は長くかかります。治ったと思っても何かのきっかけで再発することが多く、再発率は9割と言われています。ほとんどの人は再発するために、いかに再発させずに予防するか、万が一再発しても早めに対処することが必要になってきます。
これは、糖尿病や高血圧の治療に似ています。糖尿病や高血圧は長く薬を服用し、日頃から食事や運動を心がけて予防します。病気を追い出すことを考えるのでなく、むしろ病気があることを受け入れて、病気をコントロールすることを目標にするのです。
躁うつ病の場合も長く薬を服用しながら、過度のストレスは避けるようにして、規則正しい生活を心がけます。特に睡眠をきちんととることが重要で、過眠や不眠などの睡眠の変化が再発のサインであることが多くあります。病気を理解し、医師や家族と協力しながら自分で病気をコントロールする手段を学んでいくことが大切なのです。
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