メンタルヘルス

2021年11月

2021.11.26

過敏性腸症候群とは

 

 電車に乗ると腹痛と便意をもよおし、次の駅でトイレにかけこむという病気があります。ドアが閉まったとたんに腹痛が始まり、次の駅に止まるまでの間、痛みと便意をこらえて冷や汗が出ることもあります。内科に行って大腸カメラなどの精密検査をしても大きな問題がありません。

                 

悪化すると、トイレに行けることが保証されない限り乗り物に乗れなくなります。さらに、学校や会社へ行けなくなり、ひきこもりの原因になることもあります。

 これは腸の病気ではなく、過敏性腸症候群という自律神経系の病気です。

 今回は過敏性腸症候群について説明します。

  

【過敏性腸症候群とは】

 過敏性腸症候群は乗り物だけでなく、テスト、発表、仕事で大切な人と会う、などの緊張する場面でも起こります。大切なテストが腹痛で集中できなかったり、発表中に便意をもよおして辛い思いをします。このような腹痛と下痢がおきる「下痢型」だけでなく、腹痛と便秘という「便秘型」もあります。テストや発表の日が近づくと便秘になり、お腹が張って痛みもあるのですが、便が出ません。なんとか出たとしてもウサギのフンのようなコロコロした小さな硬い便です。

 さらに「下痢型」と「便秘型」の両方が混じっている「混合型」というものもあります。

             

【脳と腸は密接につながっている】

 脳と腸は、自律神経やホルモンで密接につながっています。これを「脳腸相関」と呼び、脳の状態は腸へ影響を与え、また腸の状態も脳へ影響を与えています。ストレスから脳の緊張状態が続くことで異常な命令が腸に伝わり、下痢や便秘を繰り返してしまいます。これが過敏性腸症候群の正体と言われています。

【過敏性腸症候群とうつ病】

 過敏性腸症候群は、うつ病が原因で起こることがあります。心の状態が腸に敏感に現れるのです。下痢や便秘が続いて内科で調べても異常が見つからず、精神科を紹介され、過敏性腸症候群といっしょにうつ病も診断されるケースもあります。

【治療法】

 治すためには、原因となるストレスをとることが必要ですが、テストや発表は避けられるものではありません。ましてやストレスの原因が職場の場合、すぐに退職することができません。まずは、生活習慣を見直すところから始めましょう。

 規則正しい生活を心がけ、その人によって下痢を起こしやすい食べ物があるので、それを控えましょう。特に脂っこいもの、香辛料などの刺激物、コーヒーお酒などが多いようです。また、食物繊維が多く含まれたものやヨーグルトなどの発酵食品は多く取るようにしましょう。食事だけでなく、運動や睡眠も大切な要素です。

 しかし、子供の頃から胃腸が弱い人がいるように体質的な原因もあるため、生活習慣の改善だけでは良くならないこともあります。下痢のためにテスト前は食べられない、乗り物に乗らなくなる、と生活が縛られるようでしたら積極的に薬を使いましょう。

 下痢型の場合、ドラッグストアで「ストッパ」などの下痢止めが売っています。便秘型は「コーラック」などの下剤を使う人が多いようです。「ビオフェルミン」などの整腸剤はどちらのタイプにも効くことがあります。薬の量が増えない限りは、薬に頼るようにして、外出先でお守り代わりに持っているだけでも安心につながります。

 市販の薬が効かなかったり、量が増えてしまう場合は病院を受診しましょう。内科では、「セレキノン」、「イリボー」、漢方薬などの胃腸薬が処方されます。下痢型で痛みがつよい場合は、「トランコロン」などの即効性のある薬も処方されます。

                 

【重症の場合】

 重症の場合は抗うつ薬、特にSSRIや三環系抗うつ薬が処方されます。不安で乗り物に乗れない、学校や会社へ行けない、と生活に支障が出ている場合は精神科や心療内科で治療を受けるのが良いでしょう。背景にうつ病がある場合もあります。

 軽症でも重症でも過敏性腸症候群の治療は長くかかりますので、焦って薬をやめないことが大切です。

   

          

まとめ

 過敏性腸症候群は大事なイベントが排便の事情で台無しになってしまう病気です。進学や就職にも影響が出ることもあります。また、過敏性腸症候群の背後にうつ病が隠れていることもあります。生活が縛られ、市販薬でも対処できない場合は、早めに治療を受けられることをお勧めします。

 

2021.11.20

アルコール依存症になりやすい人

 コロナ禍のために家でお酒を飲む人が増えたようです。次第に量も増えるようになり、どのくらい飲んだら依存症になってしまうのか、どのような状態が依存症なのか、不安に感じている人も多いようです。

              

  

【依存症とは】

 依存症とは、大切な人や物事を犠牲にしてまで飲んでしまう状態です。明日大事な仕事があるのに遅くまで飲んでしまい仕事に失敗する、家事や育児があるのにそれをしないで昼から飲酒してしまう、糖尿病や肝臓の病気になっているのに酒がやめられない、こういった感じです。依存症は単にその人の体質や性格の問題だけでなく、置かれている環境の問題なども絡みながら起こります。

今回はアルコール依存症になりやすい人について説明します。ここに当てはまる方はお酒の飲み方に注意してください。

            

【アルコール依存症になりやすい人】

1.十代から飲酒していた

 飲酒を開始する年齢が早いほど、依存症になる危険性が高いことが統計的に知られています。飲酒の開始が1年早まるたびに依存症になる可能性が5%ずつ上がるとも言われています。

             

2.家族や親友に酒飲みが多い

 家族に飲酒する習慣があると、依存症への警戒心が低いことがあります。未成年の子供に飲酒を認めてしまうこともあります。また、よく会う親友が酒飲みであるとその影響も受けやすくなります。

3.親がアルコール依存症

 アルコール依存症の親をもつと、その人が依存症になる確率は4倍に上がります。依存症の原因の半分は遺伝にあると言われています。またアルコール依存症の家庭は、夫婦喧嘩が悪く、子供が暴力を振るわれることもあります。子供の情緒が不安定になり、大人になってからアルコール依存症になりやすい家庭環境と言えるでしょう。

 

    

4.男性よりも女性

 アルコール依存症の数は男性の方が多いのですが、最近は若い女性が増える傾向にあります。依存症になるまでの期間は男性よりも女性の方が短く、同じ飲酒量でも女性の方が血液のアルコール濃度が高くなり、さまざまな問題が起きやすいと言われています。

5.孤独

 最近はお年寄りのアルコール依存症も増えています。きっかけは退職や配偶者との別れなどによる孤独が原因です。お酒は酔うことで一時的に孤独感を解消してくれます。本来なら人間関係で満足されるべき心の満足感や安心感が簡単に得られるのです。しかし、これは幻想の充実感です。酔いがさめたとたんに現実に引きずり戻されます。その度に飲酒で解決していると飲酒量が多くなりアルコール依存症になってしまいます。

6.うつ病やパニック症の人

 うつ病の人の4割にお酒の飲み過ぎの問題があると言われています。お酒は一時的にうつ気分をなくしてくれます。脳のドーパミンを増やしてくれる手っ取り早い薬みたいなものです。そのためにうつ病からアルコール依存症になることも多く、またアルコール依存症の人がうつ病になることもあります。

 実は、お酒の飲み過ぎはうつ病を長引かせている原因でもあります。うつ病から回復を遅らせたり、抗うつ薬も効きにくくなります。自殺率も上昇し、酔って人間関係が壊れることもあります。

              

【アルコール依存症の治療法】

 少し前までは、アルコール依存症になったら、ともかく酒をやめなければならない、いわゆる断酒が治療であると言われていました。しかし、最近では少しでも量を減らすことが大切であると考えられています。量が減れば減るほど、それに比例してアルコールに伴う問題は少なくなります。できれば問題が起きにくい低リスク飲酒量というところまで減らせることができたら良いでしょう。

 WHOの定める低リスク飲酒量とは、1日のアルコール量が男性で40g、女性で20gまでです。具体的には、

・5%のビールやサワーでは、男性は500mL缶で2本まで、女性は500mL缶で1本まで。

・15%の日本酒では、男性は2合・360mLまで、女性は1合・180mLまで。

・12%のワインでは、男性は400mLまで、女性は200mLまで。

・43%のウイスキーやブランデーでは、男性は120mLまで、女性は60mLまで。

 お酒の減らし方は、まず毎日の飲酒量の記録をつけることから始めます。空けた缶を捨てる前に、飲んだ本数をカレンダーに書いておきましょう。

 お酒を飲むことは、脳のドーパミンを上昇させ、本来は人間関係で満たされる喜びをバーチャルで体験していることです。それならばお酒を減らすためには本来の人間関係で喜びを満たしていけば良いわけです。お酒から逃げて、それに代わる楽しみを見つけましょう。飲みたくない体質になることは難しいことですが、飲むのを忘れるような環境作りならばできるはずです。

              

まとめ

 すでに日本のアルコール依存症は100万人とも言われています。ところが治療を受けている人はその1割もいません。9割の人が治療を受けていないのです。なぜなら、病院へ行って酒をやめさせられるのが嫌だからです。「酒をやめるなら死んだ方がまし」と言う人も多いのです。しかし、最近の治療は断酒だけでなく、減酒もあります。お酒を飲みたい気持ちを減らしてくれる減酒薬を使う治療もあります。アルコール依存の問題は一人で抱えずに精神科に相談してみてください。

2021.11.17

強迫症とそれに関連する病気

    コロナ予防で常に手洗い消毒をしなくてはなりません。しかし相手は見えないウイルスです。どれだけ洗ったウイルスがいなくなるのか見当がつきません。普通なら適当なところで切り上げて、次のことをするために洗面所を離れますが、それができない人がいます。ウイルスがいつまでも手についているように思えて、手を洗うのを止められないのです。


納得がいくまで数十分も手を洗い続けます。そのために信じられないくらいの水道代がかかります。周りで見かねた人がストップをかけようものなら不安で何も考えられなくなります。

                

             

万が一手を洗わないで食事をしたら、後からコロナが心配で夜も眠られず、PCR検査を受けるまで気が済みません。このように潔癖症の度が過ぎて、仕事や日常生活ができなくなる病気があります。これを強迫神経症とか強迫性障害、最近では強迫症と呼んでいます。

 ここでは強迫症とそれに関連する病気について説明します。

  

【強迫症】

 強迫症とは、自分でも気にしない方が良いと思いつつも、不安にとらわれて、それを払いのけるために確認を続けてしまうものです。とらわれてしまう不安な思いを強迫観念と呼びます。

    

症状がつよいと強迫観念が妄想のようになります。例えば、ウイルス、細菌、発がん物質などが手からとれない不安で、手を洗い続ける。泥棒に入られる不安から、何度も戸締りを確認する。火事になる不安から、火の消し忘れを何度も確認する、などが典型的なものです。

 また、確認行為には心の中で行う呪文のような場合もあります。コンビニに入ると自分が万引きをするのではないかという強迫観念にとらわれ、それを打ち消すために「とっていない」というような呪文を何度も唱える、といった感じです。まるで儀式のように延々と続ける場合もあります。

 次に紹介する病気も強迫症に似たものです。

【その他の病気】

1.醜形恐怖(しゅうけいきょうふ)

 体のどこかが醜いという不安がとれない病気です。顔のある部分が気になり、何度も美容整形を繰り返します。自分の筋肉量が気になり、筋トレを繰り返す人もいます。背が低いことを気にし過ぎて、ホルモン治療を繰り返す人もいます。

             

               

2.心気症(しんきしょう)

 ちょっとした体調の変化を癌ではないか、心臓病ではないか、という不安がとれず、何度も病院で検査を受ける病気です。医師からは異常がない、と言われても納得ができません。もしかすると誤診かも知れないと、別の病院で同じ検査をします。これをドクターショッピングと呼んでいます。

3.ためこみ症

 ごみが貴重なものに思えて捨てられず、拾い集める病気です。テレビのニュースで潰れそうなゴミ屋敷が紹介されることがありますが、床が抜けても、自分が寝るスペースがなくなってもゴミを捨てられません。家主が一見普通の人のようですが、集めたごみを見ながら「全部大事なものだ」と言い張ります。これはためこみ症という病気なのです。

           

4.抜毛症、皮膚むしり症

 イライラや不安から髪の毛を抜いたり、顔や腕の皮膚をかきむしる病気です。自傷行為に分類されることもあります。

5.アルコールや薬物の依存症

 強迫症の人はアルコールや薬物の依存症になりやすい傾向があります。アルコールや薬で気分が良くなったことが頭から離れなくなり、それが悪いことであると分かっていても止められなくなってしまいます。

            

【神経症とかノイローゼという言葉は使わなくなった】

 ところで、これらの病気に対して神経症とかノイローゼという名前の方が馴染みある人が多いと思います。しかし、精神医学において、神経症やノイローゼという言葉は20年くらい前から使われなくなっています。

 神経症とは幼児期の心の葛藤が症状となって現れるものと考えられ、20世紀初めにフロイトによって名付けられたものです。精神分析治療により、無意識に隠れてしまった心の葛藤を処理することによって治っていくと考えられました。

            

 しかし、神経症の症状は動物にも観察され、抗うつ薬で改善されることも分かり、神経症は脳神経の働きの異常と考えられようになりました。これによって神経症は公式な病名からは消えてしまいました。現在の精神医学において、強迫症の原因は、脳のセロトニン分泌の低下と考えられており、うつ病に近い病気と考えられています。そのためうつ病と強迫症が合併することが大変多くあります。

【軽症の強迫症の治療法】

 軽症の強迫症の場合は、森田療法、認知行動療法、マインドフルネスなどの心理療法に効果があります。どれも心に浮かぶ不安に巻き込まれず、それを客観的に捉えて、気にしなくするテクニックです。これらの治療の方法は、仏教の「あるがまま」という人生観にヒントを得ています。

【重症の強迫症の治療法】

 日常生活に支障がでるほどの症状ならば、薬物治療を受ける方が良いでしょう。治療には、脳のセロトニンを増やすレクサプロやジェイゾロフトなどのSSRIが使われています。強迫観念が妄想と区別がつけられないような重症の場合は抗精神病薬も処方されることがあります。

                            

【子供でも多い強迫症】

強迫症は、子供に多く、発達障害でも見られます。手洗いをずっと続ける子供を叱ったり、力づくで無理にやめさせても逆効果です。まず子供の不安の原因を取り除いてあげることが先決です。コロナや汚れを必要以上に心配しているならば、そんなに怖いものではないことを教えてあげましょう。あまり重症の場合は子供でも薬の治療が必要になります。

 今回は強迫症とそれに関連する病気について説明しました。薬で治療が可能な病気ですので、自分だけで抱え込まずに早めに精神科に相談してみてください。

2021.11.13

燃え尽き症候群とは

 

  ボクシング漫画の名作「あしたのジョー」のラストシーンを憶えていますか?チャンピオンとの死闘を終えて、すべてを出し尽くしたジョーはコーナーに座ったまま立ち上がれません。そして、最後に「燃え尽きたぜ、真っ白にな」とつぶやきます。

 顧客サービスを提供する仕事では、頑張り過ぎでジョーのように燃え尽き、働く意欲を失ってしまう現象があります。本来の元気な姿が消耗しきって別人のようになるため、そのまま「燃え尽き症候群」とか「バーンアウト」と呼ばれています。

  今回は燃え尽き症候群について説明します。

 

  

【医療従事者や介護職に多い】

 コロナ医療を担当する医療者たちにも燃え尽き症候群になる人がたくさんいます。次から次と運ばれてくる患者さんに休む暇もありません。「困っている人に奉仕して、その人たちの喜ぶ顔が見たい」と理想を抱いて医療現場に入ったものの現実は違いました。患者さんから感謝の言葉すら聞くことができず、ただ仕事に追われる毎日に情緒は枯れていきます。

その上、通常の医療が縮小されたために病院の経営も危うくなり、以前よりも頑張っているのに給料は下がってしまいました。人によっては同僚や患者さんに不愛想になったり、冷たい態度をとるようになりました。さらに仕事への意欲を失った人もいます。

【燃え尽き症候群とは】

 燃え尽き症候群とは正式な病名ではなく、情緒の使い過ぎで発症するうつ病と考えたら良いでしょう。そもそも優しさや思いやりなどの情は、人からもらわないで、ただ人に与えるだけでは心が枯れてしまうのです。 

 どんな病院にも愛想がなくて冷たい医師や看護師がいます。患者さんたちはその態度や言葉に傷ついてしまうことがあります。もしかするとその医師や看護師は燃え尽きを起こしているのかも知れません。実は、医師や看護師には精神科に通って抗うつ薬や睡眠薬を飲んでいる人がとても多いのです。

【その他の職種でも起こる】

 燃え尽き症候群は、医療や介護だけでなく、教員、レジャーや宿泊施設の従業員、CA、営業職、飲食店での接客など、顧客サービスを提供する仕事全般に起きることがあります。特にやる気がある人、ひたむきな人、人との関りが好きな人がなりやすいと言われています。

 顧客サービスを提供する仕事の方で、次のような症状がある場合は燃え尽き症候群かも知れません。ぜひチェックしてみてください。

【燃え尽き症候群6つのチェック項目】

1.心も体も疲れ果てている

 希望をもって仕事を始めたのに、最初の頃の満足感はなくなり、最近ではともかく疲れが残ってしまいます。肩こりがひどく、頭も重く、ただ寝ていたい、という感じです。

2 .お客さんへの気配りが面倒くさいし、顔を見るのも嫌

 あれほどお客さんと話すのが好きだったのに、今ではお客さんが来ないことを願ってしまいます。お客さんが来ても、以前のように気持ちよく接待することができず、早く用件だけ済ませて帰ってもらいたいと感じます。気持ちが伴わずに機械的に働いてしまいます。

3.同僚と話したくない

 同僚とは仕事終わりに飲みに行ったり、仲良くやっていたのに、最近はあまり関わりたくありません。嫌いになった訳ではないのですが、付き合いが面倒になりました。できれば仕事中も話したくありません。

4.職場に行くのが辛く、仕事中はいつも早く帰りたいと思っている

 眠りが浅く、早朝に目が覚め、職場に行くことを考えると辛い気持ちになります。日曜の夜は1週間が始まるかと思うと暗い気持ちになります。仕事中は早く帰ることばかり考えて、しょっちゅう時計を見てしまいます。

                   

5.仕事がつまらないし、辞めたい

 この職業につくためにあれほど努力してきたのに、不思議なくらい興味がなくなりました。今では仕事の嫌な部分ばかりが目につきます。お金にゆとりがあれば、仕事を変えたいというのが本音です。

6.仕事の実績や評価はどうでも良くなった

 最初の頃は仕事で優秀な成績を上げて、出世するのが目標でした。最近はどうでも良くなっています。1日の仕事を終わらせることしか頭にありません。

 

 これらの症状が思い当たる方は燃え尽き症候群かも知れません。どうしたら良くなるのでしょうか。

              

【良くなる方法】

 燃え尽き症候群の治療は基本的にうつ病の治療と同じです。まず仕事量を減らして、できるだけ休む時間を増やしましょう。十分に休みがとれないならば、休職や仕事をやめることも考えましょう。

 仕事への向き合い方を変えることも大切です。ただ仕事の手を抜けば良いわけではありません。燃え尽き症候群は、仕事だけに幸福を求めている人がなりやすいと言われています。家族や友人との交流、趣味の時間など、仕事以外で楽しい時間や生きがいをつくりましょう。こうした時間は、心の中の情をはぐくむ大切な時間です。

プライベートが充実すれば、患者さんやお客さんにいくら情を使っても枯れることはありません。仕事の中に幸福を感じ続けるためには、仕事ばかりせずにプライべートも充実させることがコツです。仕事とプライベートのバランスのとれた生活を送りましょう。

 ただし、不眠や食欲不振があるようならば薬の治療も必要です。十分な休養をとっても改善がない場合は精神科を受診することをお勧めします。

2021.11.08

自殺の直前9つのサイン

 日本の自殺者は2003年から減少傾向にありましたが、コロナ禍の2020年から増加傾向に変わりました。2019年の自殺者はおよそ2万人でしたが、2020年は2万1000人を越えています。特に女性や若い人の自殺が増えています。コロナ禍での女性雇用の問題、学校生活の問題などが原因と考えられています。

                 

 

【自殺の原因は一つではない】

 自殺された方の7割には遺書がありません。亡くなった方からは話を聞けませんから、自殺した方の多くは本当の原因が分かりません。残された家族の話などから、自殺の原因を推測して、ようやく7割くらいの方の原因が判明します。

原因は一つでなく、お金の問題、家庭の問題、仕事の問題など、さまざまなことが重なり起こるようです。また、一人暮らしや失業中など、孤独な状態にある人がかなりの数を占めていました。自殺と孤独は関係が深いのです。

【精神疾患と自殺の問題】

 自殺者の半数以上に精神疾患があることも分かっています。そのうち、うつ病が半分を占め、次に統合失調症アルコール依存症が続きます。病院にかかっているからと言って安心ではないのです。

回復の過程で衝動性がつよくなる場合もありますし、病気を告知されて絶望的になることもあります。また治療の薬を自殺目的で使ってしまう場合もあります。

【衝動的に自殺を実行してしまう】

 救命センターには、飛び降りや過量服薬などの自殺を試みて、一命をとりとめた人が運ばれてきます。体の状態が落ち着いたところで、精神科医が心のケアをするために、どうして自殺を試みたのか尋ねます。しかし、不思議なことにほとんどの人が前後のことを憶えていません。

辛いことが重なりパニック状態となり、気が付いたら救命センターのベッドの上にいた、という感じです。自殺を実行した瞬間は混乱して普通の精神状態ではないのです。普通ならば、「痛いだろうな」、「家族が悲しむだろうな」などという思いが湧いてきて自殺にブレーキがかかるのですが、それがなくなってしまうのです。

 借金、仕事の失敗、失恋、いじめなど、辛いことが重なり生きる意欲をなくした人、うつ病や統合失調症の症状で死にたい気分がある人、子供の頃からいつも死にたい気分がとれない人、こうした人が何らかの出来事が引き金となり、衝動的に自殺を試みることが多いようです。

引き金とは、頼りにしている人に裏切られた、恋人との別れ話、友人から突き放すような言葉、家族とけんかをした、などの人間関係のトラブルが多いようです。お酒や薬の飲み過ぎ、違法薬物により理性が弱って衝動に負けてしまうこともあります。

 自殺の危険を示すサインに気づき、自殺をくいとどめてくれる人を「命の門番」という意味で「ゲートキーパー」と呼びます。世の中にゲートキーパーが増えれば自殺者も減ってくるでしょう。誰もがゲートキーパーになれるように、ここでは自殺の直前のサインを9つ紹介します。

【自殺の直前9つのサイン】

1.いつもと雰囲気が変わる

 表現が暗く元気がなく、以前と雰囲気が違います。情緒が不安定で、不機嫌であったり、怒りっぽかったりもします。逆に不自然に明るく振舞うこともあります。

 今まで関心があったものに興味がなくなり、趣味の場に参加しなくなります。身なりにも構わなくなり、おしゃれだった人が化粧もせず、何日も同じ服を着ても平気でいられます。

2.自殺をほのめかす

 ストレートに「死にたい」と訴えることもありますが、遠回しに「目が覚めたくない」「明日が来ないで欲しい」「知っている人がいないところへ行きたい」と自殺をほのめかす言葉を言うことがあります。

 ネットで自殺について調べたり、具体的な計画をしたり、そのために練炭や薬品などを買います。パソコンに遺書を書いたり、自殺の名所を訪れることもあります。大切なものを整理して人にあげる場合もあります。

3.飲酒が増える

 いつもより飲酒量が増え、毎日意識がなくなるまで飲もうとします。酔って事故や怪我をすることもあります。過度の飲酒は理性を失わせるために、飲酒状態での自殺はたいへん多くあります。

       

4.命をかえりみない危険な行為をする

 決められた量よりもたくさんの薬を飲んでしまいます。お酒と薬をいっしょに飲み、意識を失うこともあります。飲酒運転などの危険運転をします。違法薬物を乱用することもあります。

5.体調が悪くなる

 食欲がなく痩せる、眠れない、頭痛などの体の痛み、などの体調不調を訴えることがあります。これらは、うつ病統合失調症の初期症状の場合があります。すでに通院中であるならば、治療の薬を勝手にやめてしまったり、病状が悪化しているサインでもあります。

6.ひきこもる

 学校へ行かなくなったり、仕事をやめたりして、家にひきこもります。心配した友人からの電話にも出ません。人付き合いがなくなり、社会的に孤立します。孤独は自殺の大きな要因になります。

               

7.突然の家出、失踪、放浪

 これは衝動性があることを示しています。もしかすると解離症状と言って、自分の意識がなくなり、誰かに操られるようにどこかへ行ってしまう症状かも知れません。自殺のリスクの高い危険な状態です。

8.家族や友人とけんかをする

 些細なことで家族、友人、恋人とけんかをします。けんかで興奮すると、衝動性がつよくなり自殺の危険性が高まります。親子げんかの末に「ベランダから飛び降りて死んでやる!」と吐き捨てたところ、「やれるものならやってみろ!」と親が返してしまい、実際に飛び降り自殺してしまったケースもあります。

                  

9.家族や知人、憧れていた人の死

 大切な家族や恋人が突然亡くなった、憧れていたアイドルが自殺した、こうした喪失体験から、その後を追うように自殺することがあります。

 

まとめ

 以上、自殺の直前のサインを9つ紹介しました。周囲の人の目には、死のうと考えている人がわがままに見えてしまうことがあります。そんな時によけい追い詰めてしまったり、口論になってしまうこともあります。けんかの後に相手が死を選んだら、残された人は一生後悔が残ってしまいます。ここに紹介したサインに気づいたら、争いはやめて手を差し伸べるようにしましょう。まずは冷静になって話を聞いてみることが大切です。

その他ブログ:死にたいと打ち明けられた時の対応の仕方

2021.11.05

HSPと心の病気

 最近、「HSP」という言葉をよく聞きませんか?ハイリー・センシティブ・パーソンの略で、周囲のできごとへの感受性がきわめて高い人を指します。

これは人のパーソナリティの特徴の一つをとらえた心理学の言葉であり、病気の名前ではありません。「HSPで困っています」と訴えて精神科を受診しても、よく知らない精神科医もたくさんいます。

       

 そもそもHSPとはどのようなことでしょうか?

  

【HSPとは?】

 同じ状況でも人によって感じ方が違います。例えば、ホラー映画を見て何とも感じない人もいれば、怖くてその晩は眠れない人もいます。上司に仕事を褒められて、当たり前のように感じる人もいれば、とてもテンションが上がる人もいます。このように周囲のできごとに鈍感な人から敏感な人までいますが、それをパーソナリティの特徴の一つとして考えることができます。

そして、その感受性のきわめて高いグループをHSPと呼びます。HSPの人は、相手の言葉やしぐさ、さらに物理的な光・音・臭いなどの刺激に敏感で影響を受けやすく、ものごとを深く考える傾向があります。これによってストレスをためて、日常生活に生きづらさを感じやすいと言われています。

          

【日本で大流行のHSP】

 HSPの話題は日本で大流行です。ネット記事や出版物も山ほどあります。HSPで困っている人の日常生活の対処法だけでなく、仕事選び、恋愛関係などのアドバイスまで多岐に渡ります。自己啓発本のような内容や占いに近いものもあります。これだけ流行しているのはなぜでしょうか。その理由として、日本人は民族的にHSPの傾向があるために共感する人が多いからと考えられています。

 そもそも日本人は周囲のできごとに繊細で、他人の目をつよく意識する傾向があります。日本人を観察したアメリカ人は、「恥の文化」と呼びました。

日本人は他人の目が気になり、恥をかかないことに大きな意識を注ぎます。アメリカ人はキリスト教の影響から神の目を気にするので、それほど他人の目を気にしません。HSPは日本人の民族的特徴をとてもよく表現しているのです。それでたくさんの日本人がHSPという考え方に共感しているのです。

【HSPと心の病気】

 HSPと心の病気の関係はどのように考えたら良いのでしょうか。自閉症やアスペルガー障害などの発達障害には感覚過敏という症状があります。音・光・臭いなどの物理的な刺激に敏感に反応してしまうものです。自閉症の人がちょっとした物音でパニックを起こしてしまう映画のシーンが記憶にある人もいるでしょう。

                

これは、脳に入ってくる刺激の情報を制御する能力に欠けているためと考えられています。感覚過敏はHSPとほぼ同じ現象を表したものです。ただし、感覚過敏は生理学的に観察される症状として、HSPは心理学的なパーソナリティの特徴として、同じ現象を違う物差しで測っているので比べることはできません。

 お母さんが「息子がHSPでちょっとした物音でパニックを起こします」と病院に来られることがあります。間違ってはいませんが、正確には感覚過敏でしょう。こういうケースは発達障害の疑いがあります。

【社交不安症とHSP】

 社交不安症という病気は、相手の視線を意識し過ぎて、変に思われていないかと悩んでしまう病気です。重症になると人前に出ることが苦痛になり、子供のひきこもりの大きな原因になっています。以前は対人恐怖と呼ばれていました。他人の視線に敏感であったり、「変に思われている」と考え過ぎてしまうことはHSPと非常に似ています。

社交不安症の人は、ネットにある質問票を答えていくと必ずHSPと診断されてしまうでしょう。SSRIという抗うつ薬が効きやすいので、精神科を受診して治療を受けることをお勧めします。

                

【うつ病とHSP】

 また、うつ病では脳の機能が低下することで、感覚過敏が起きることがあります。光・音・臭いなどの刺激に意識が奪われて、集中ができなくなります。

例えば、テレビの画面に出てくる色々なものが気になってドラマの内容が理解できない、隣や上の階の人の生活音が気になる、道路の車の音が気に障る、音楽がうるさくて聞きたくない、といったものです。よく「うつ病からHSPになった」と訴える方もいますが、これも正確には感覚過敏でしょう。

まとめ

 HSPはネットに掲載されている質問票に答えるだけで簡単に自己診断できてしまいます。これはあくまでもパーソナリティの特徴の一つです。しかし、HSPと思われても、発達障害、社交不安症、うつ病などの精神疾患の可能性があります。こうした病気である場合は、治療や社会的な援助が受けられることがありますので、自分だけで抱え込まずに精神科に相談してみてください。

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