世の中が悪くなると、心も荒(すさ)んで来ます。新型コロナのパンデミックは、まさにそのような状況でした。その上、人と会えず、楽しみや気晴らしもなくなってしまえば、気力も萎(な)えてきます。ついに生きるエネルギーが尽きてしまったような状態がうつ病と言えるでしょう。
WHOの発表によると、コロナ禍を通して、うつ病が世界的に増えました。いまでは、世界人口の4%に当たる3億5000万人以上の人が患っています。特殊な病気でなく、誰でもなる危険性があるのです。
また、うつ病ほどたくさんの症状がある病気はありません。いろいろな症状があるために、最初からうつ病を疑って、精神科を訪ねる人はごく稀です。体調不良を理由に、ほとんどの人が内科や整形外科を受診しています。そのために、発見までに時間がかかるのもうつ病の特徴です。
早めに気づいて治療を始められるように、今回は、うつ病の絶対に知って欲しい10の症状を紹介しましょう。
目次
1. 不安感
ほとんどのうつ病の人がつよい不安を感じます。仕事のこと、お金のこと、将来のことなど、心配がつきません。ネガティブな考えが頭の中をグルグル回って止まらず、心が圧(お)し潰されそうになります。
不安が高じると、焦りになります。「このままではいけない」、「何とかしなくては」とジッとしていられません。しかし、集中力も落ちているので、何も手につきません。
2. 何をしてもつまらない
仕事が嫌になるのは、うつ病の大きな特徴です。それだけでなく、いままで楽しめていたことが、すべてつまらなくなります。趣味に時間を使っていると、「こんなことをしても無意味だ」とも感じます。何事にも興味を持てなくなるのです。
好きだったエンタメにも関心が行きません。欠かさずチェックしていた番組もどうでもよくなります。時間の短い動画や今まで見たことのある映画の好きなシーンだけを見ることはできますが、1本の映画、ドラマを全話通して見ることはできません。
3. イライラして怒りっぽい
うつ病というと落ち込んでいるイメージがありますが、イライラして怒りっぽくなることがあります。普通にしているつもりでも、「顔が怖い」、「怒ってるの?」と言われることもあるでしょう。情緒が不安定になり、感情のコントロールができなくなるためです。
以前は大人しかった人が、些細なことでもカーッと怒るようになると、うつ病の疑いがあります。
4. 孤独
孤独はうつ病になる大きなきっかけですが、うつ病の症状でも孤独を感じます。人が近くにいても、まるで壁ができたようで、取り残されたようなさみしさを感じます。
みんなが楽しんでいると、そのテンションについていけません。自分だけ仲間外れのようで、よけいに辛くなります。
5. 後悔
大きな理由もないのに、過去の成功は色褪(いろあ)せてしまい、失敗や挫折したことばかりが思い出されるのはうつ病の症状です。
「なんてダメな人間なのだろう」、「取り返しのつかないことをしてしまった」と自分を責め続けます。
「世の中に必要のない人間である」と感じるようになり、人生をリセットするために自殺を考えることもあるでしょう。
6. 何もしたくない
仕事がやりたくないだけでなく、掃除、洗濯、買い物や料理もしたくありません。部屋が汚れていても、何日も風呂に入らなくても平気です。
体全体が重く、「手足に鉛が入っているようだ」と感じる人もいます。疲れやすく、1日無理をすると何日も寝込んでしまうようになります。
人に気を遣う気力がないので、人と会うことも苦痛です。虫歯があっても歯医者に行けない、髪が伸びても美容院に行けない、ということもあります。電話やインターフォンに出られないこともあるでしょう。
7. 体調不良
体の症状が多いことも大きな特徴です。いくら寝ても疲れがとれず、特に胃腸の調子が悪くなる人が多くいます。
食欲がなく吐き気がしたり、下痢や便秘を繰り返すので、内科を受診すると、逆流性食道炎や過敏性腸症候群と診断されます。しかし、薬を飲んでも完全には良くなりません。
胃腸自体が悪いのでなく、うつ病のために、胃腸の動きを調整する自律神経に乱れが起きているからです。
8. 体の痛み
頭痛、首の痛み、肩などの関節の痛み、腰痛など、うつ病による体の痛みは、大変よくみられる症状です。
内科や整形外科を受診しても、レントゲンや血液検査では異常が見つかりません。そのために医師から気のせいだと言われることがあります。
痛み止めが効かず、うつ病が良くなるとともに痛みが消えて行きます。
体の痛みは脳の扁桃体(へんとうたい)という部分で感じ取りますが、うつ病ではこの扁桃体が過敏になっています。そのために、本来感じる痛みの10倍、100倍も強く感じてしまうのです。
9. 睡眠のトラブル
「なかなか寝つけない」、「朝早くに目が覚める」といった、不眠症がよくみられます。
これとは逆に、「朝が起きられない」、「一日中眠気がとれない」といった過眠症になる人もいます。
こうした睡眠のトラブルは、脳の生活リズムをつくる働きが弱っているために起きており、うつ病で大変多く見られる症状です。
10. お酒・タバコ・スイーツの量が増える
お酒やタバコには、一時的に気分を上げる効果があり、うつ気分や不安を和らげるために量が増えてしまいます。
実は、甘い物にも似たような効果があり、常に甘いお菓子やジュースを飲み続けている人もいるでしょう。
どれも一時的に気分を上げますが、切れてくるとよけいに気分が下がります。それで習慣になってしまい、依存症や糖尿病などの生活習慣病の問題も起きてしまいます。
まとめ|うつ病は治る病気、早めの受診が大切
うつ病は、心に症状が出ますが、心の持ち方が問題なのではありません。心が弱いからなるのではなく、ストレスで脳の働きが弱っているために起きています。
詳しく言うと、脳の中のセロトニンという物質の分泌が減ってしまい、脳全体の働きが弱っているのです。
例えば、寒い中を薄着でいたり、夜更しなどの不摂生をしていると風邪をひきますが、風邪の直接の原因はウイルスに感染したことから起きています。
これと似たように、ストレスがうつ病の引き金になりますが、直接の原因は脳のセロトニンという物質が少なくなることから起きているのです。
「頑張ること」「無理をすること」「我慢すること」――こうしたことはすばらしいことですが、限界を超えてしまった時に、脳のセロトニンの分泌に異変が起きてしまいます。
脳の中で異変が起きている証拠が、今回紹介した10の症状です。半分以上当てはまるものがあったら、一旦立ち止まってみることが必要です。
早めに対処すれば、それだけ早く回復します。うつ病は休養と薬の治療で治る病気ですので、精神科に相談してみましょう。