企業経営において、従業員の健康管理は生産性や安全性の向上に直結します。その中で中心的な役割を果たすのが「産業医」です。
本記事では、産業医の基本から法的義務、実務内容、そして検索で多くの人が知りたい質問をQ&A形式で解説します。
目次
- 1 産業医とは
- 2 産業医の主な役割
- 3 産業医の資格と選任義務
- 4 産業医の働き方
- 5 メンタルヘルス対策における産業医の重要性
- 6 産業医に関するよくある質問(Q&A)
- 6.1 Q1:産業医は治療できますか?
- 6.2 Q2:産業医面談には意味がありますか?
- 6.3 Q3:産業医は会社と従業員、どちらの味方ですか?
- 6.4 Q4:常勤と非常勤、どちらを選ぶべきですか?
- 6.5 Q5:産業医はメンタルヘルスにも対応できますか?
- 6.6 Q6:健康診断だけで十分ですか?
- 6.7 Q7:従業員が産業医に相談しても会社に伝わりますか?
- 6.8 Q8:産業医は何人必要ですか?
- 6.9 Q9:何科の産業医を選ぶべきですか?(精神科が良いですか?)
- 6.10 Q10:小規模企業でも産業医は必要ですか?
- 6.11 Q11:ストレスチェック制度とは何ですか?
- 6.12 Q12:過重労働者とは誰ですか?
- 6.13 Q13:産業医は社員のメンタル相談に対応できますか?
- 6.14 Q14:労働災害が起きた場合、産業医は関与しますか?
- 6.15 Q15:産業医は残業の管理もできますか?
- 6.16 Q16:産業医はパワハラ・セクハラに関与できますか?
- 6.17 Q17:産業医の選任が義務違反だとどうなりますか?
- 6.18 Q18:オンラインで産業医面談は可能ですか?
- 6.19 Q19:産業医は法定三六協定の確認もしますか?
- 6.20 Q20:産業医に相談しても昇進や評価に影響しますか?
- 7 まとめ
産業医とは
産業医とは、企業や事業所で働く労働者の健康管理を専門に行う医師です。労働安全衛生法に基づき、従業員の健康保持・増進や安全な職場環境の確保を目的に活動します。
単に病気を診る医師ではなく、職場環境や働き方の改善を通じて健康リスクを未然に防ぐ専門家です。

産業医の主な役割
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健康診断・面談:定期健康診断の結果をもとに面談し、生活習慣改善や受診勧奨を行う。
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職場環境改善:作業環境や勤務形態の分析、改善策の提案。メンタルヘルスの負荷軽減も含む。
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法的助言:労働時間管理、過重労働防止、ストレスチェック制度の活用など、労働安全衛生法に基づく助言。
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健康教育・研修:従業員向け研修で生活習慣病予防やストレス対策の知識提供。
産業医の資格と選任義務
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資格:医師免許 + 厚生労働省認定の産業医研修修了
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選任義務:常時50人以上の従業員を雇用する事業場は産業医の選任が必須
産業医の働き方
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常勤産業医:毎日勤務、従業員の健康管理を直接担当(会社が直接雇用)
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非常勤産業医:月に一回、月数回訪問し、面談や助言を行う(嘱託産業医)
メンタルヘルス対策における産業医の重要性
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従業員の約6割が仕事で強いストレスを感じている
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過重労働や心理的負荷による休職・離職は年間約2万人以上
産業医はストレスチェックや面談を通じ、早期に問題を発見・対応します。
産業医に関するよくある質問(Q&A)
Q1:産業医は治療できますか?
A1: 産業医の活動は「医療行為」ではなく、あくまで職場における健康管理や予防的なサポートが中心です。そのため、病名をつける診断行為や薬の処方、治療そのものは行えません。産業医の役割は、従業員の健康状態を確認したり、体調不良の兆候を早期に発見したりして、必要に応じて医療機関への受診を勧めることです。つまり、治療の入口に立ち、従業員が適切に専門医へつながるように支援する存在といえます。
Q2:産業医面談には意味がありますか?
A2: 産業医との面談は、従業員の健康リスクを早期に発見するための重要な場です。例えば、長時間労働や強いストレスによって心身の不調が進行する前に、休養や勤務形態の調整などを検討するきっかけになります。面談は「病気が出てから対応する」のではなく「予防や早期対応のための仕組み」であり、従業員にとっても会社にとっても大きな意味があります。
Q3:産業医は会社と従業員、どちらの味方ですか?
A3: 産業医は会社と従業員の双方に関わる立場を担っています。会社には安全衛生や職場環境改善に関する助言を行い、従業員には健康保持のための面談や指導を行います。つまり「どちらか一方の味方」ではなく、中立的な立場で両方を支える存在です。この中立性を守ることが、従業員の安心感や会社からの信頼を得る上で不可欠です。
Q4:常勤と非常勤、どちらを選ぶべきですか?
A4: 企業規模や業種によって選び方は変わります。従業員数が多い大企業や、健康リスクが高い業種(製造業・建設業など)では常勤の産業医を配置するのが望ましいでしょう。一方で、従業員数が少ない中小企業や、常時の対応が不要な業種では非常勤の産業医を選ぶことが一般的です。コストや必要な対応範囲を考慮して選択することがポイントです。
Q5:産業医はメンタルヘルスにも対応できますか?
A5: はい。産業医は心の健康に関しても対応可能です。ストレスチェックの実施や結果分析、従業員との面談を通じて、メンタル不調を早期に発見し、適切な受診勧奨や勤務調整につなげます。また、必要に応じて精神科医やカウンセラーなどの専門機関と連携し、より適切な支援体制を整えることもできます。

Q6:健康診断だけで十分ですか?
A6: 健康診断は従業員の健康状態を把握する大切な手段ですが、それだけでは十分ではありません。健康診断の結果を踏まえて面談を行い、生活習慣の改善や勤務環境の見直しにつなげることが必要です。さらに、職場環境改善やメンタルヘルス対策、過重労働防止など、包括的な健康管理が重要であり、産業医はそれを担います。
Q7:従業員が産業医に相談しても会社に伝わりますか?
A7: 原則として、従業員が産業医に相談した内容は秘密保持の対象となり、会社にそのまま伝わることはありません。法律によって守秘義務が課されており、本人の同意がない限り個人情報は共有されません。従業員が安心して相談できる体制があることで、早期の支援や予防につながります。
Q8:産業医は何人必要ですか?
A8: 法律では、従業員が50人以上の事業場には1名以上の産業医を選任することが義務付けられています。ただし、従業員数が多い企業や、健康リスクが高い業種(製造業、化学工場など)では、1名だけでは十分な対応が難しいため、複数名を配置する場合もあります。職場の規模や特性に応じて柔軟に対応することが望まれます。
Q9:何科の産業医を選ぶべきですか?(精神科が良いですか?)
A9: 産業医の役割は「治療」ではなく「職場の健康管理と予防」であるため、どの診療科が良いかで判断するのは適切ではありません。それよりも、「産業医活動をしっかり行えるか」「企業文化や職場と相性が良いか」「従業員と円滑にコミュニケーションが取れるか」が選定の重要なポイントです。臨床医としての得意分野で選ぶのではなく、産業医としての資質や対応力を基準にすべきです。
Q10:小規模企業でも産業医は必要ですか?
A10: 法的には従業員が50人未満の事業場では産業医の選任義務はありません。しかし、小規模企業でも従業員の健康保持や安全管理は重要です。非常勤の形で産業医を導入することで、健康相談の窓口やメンタルケア、職場改善の助言を受けられるため、従業員の安心感や会社の信頼性向上につながります。
Q11:ストレスチェック制度とは何ですか?
A11: ストレスチェック制度は、従業員の心理的負荷を把握するために行われる制度です。定期的に質問票を用いてストレスの程度を確認し、結果を分析して産業医が改善策を提案します。従業員本人が自分のストレス状態に気づくきっかけになると同時に、企業にとっては職場環境の改善につながる重要な取り組みです。
Q12:過重労働者とは誰ですか?
A12: 過重労働者とは、長時間の時間外労働や深夜労働が継続し、心身に大きな負担がかかっている従業員を指します。産業医は、過重労働者に対して面談を実施し、健康リスクの評価や生活習慣・勤務時間の改善に関する助言を行います。これにより、過労による健康障害や労災の発生を未然に防ぐことができます。
Q13:産業医は社員のメンタル相談に対応できますか?
A13: はい、可能です。産業医は従業員の精神的な負担を軽減するために、相談内容を丁寧に聞き取り、必要に応じて受診を勧めたり、勤務内容の調整を提案したりします。さらに、職場のストレス要因を把握し、改善策を会社に助言することもできます。従業員が安心して働ける環境を整える役割を担っています。
Q14:労働災害が起きた場合、産業医は関与しますか?
A14: はい。労働災害が発生した場合、産業医は従業員の健康管理や過重労働の有無といった観点から、事後対応や再発防止策について助言します。職場環境の改善や労務管理の適正化につなげることで、同様の事故や健康障害が繰り返されないように取り組みます。
Q15:産業医は残業の管理もできますか?
A15: 産業医は直接的に労働時間を管理する立場ではありませんが、長時間労働による健康リスクを踏まえて、会社に改善策を提案することができます。例えば、残業が慢性的に多い部署については人員配置や業務量の見直しを助言するなど、健康を守る観点からのサポートを行います。
Q16:産業医はパワハラ・セクハラに関与できますか?
A16: パワハラやセクハラそのものの対応は労務部門やコンプライアンス部門が担うべき領域ですが、産業医も心理的負荷が従業員の健康に影響している場合に関与します。具体的には、相談を受けてメンタル不調の兆候を把握したり、職場環境改善の必要性を会社に助言したりします。
Q17:産業医の選任が義務違反だとどうなりますか?
A17: 法律で定められた産業医の選任を怠ると、労働安全衛生法違反となります。その場合、労働基準監督署から行政指導を受けたり、最終的には30万円以下の罰金が科される可能性があります。企業にとっては法的リスクだけでなく、社会的信用を損なう重大な問題にもなります。
Q18:オンラインで産業医面談は可能ですか?
A18: 近年ではオンライン面談の導入が広がっており、遠隔地の従業員や在宅勤務者に対しても健康相談や面談を実施することが可能になっています。移動時間を削減できるため、従業員にとっても企業にとっても効率的です。

Q19:産業医は法定三六協定の確認もしますか?
A19: 三六協定(時間外・休日労働に関する協定)の確認自体は労務部門や法務部門が行う業務ですが、産業医は過重労働による健康障害を防ぐ観点から助言を行います。例えば、時間外労働が長期にわたる従業員に対して面談を行い、リスクの早期発見や改善提案を行うことで、会社に健康管理上の注意を促します。
Q20:産業医に相談しても昇進や評価に影響しますか?
A20: 産業医に相談したことが昇進や人事評価に直結することはありません。産業医には秘密保持の義務があり、相談内容が勝手に会社へ共有されることはありません。従業員が安心して健康相談を行える環境を整えることが、企業にとっても長期的な人材活用につながります。
まとめ
産業医は企業と従業員の健康をつなぐ専門家です。健康診断、面談、職場環境改善、メンタルヘルス対策など多面的に活動します。
従業員50人以上の企業では産業医の選任が法律で義務付けられています。産業医を適切に活用することで、従業員の健康保持、離職率低下、生産性向上が期待できます。
