世の中でいくら問題になっても、職場の過重労働・ハラスメント・いじめは終わることがありません。それでも要領の良い人ならば、どんな職場でもうまく潜り抜け、「流石にこの職場はまずい」と感じたら、さっさと辞めてしまいます。要領の良い人とは、コミュニケーション能力の高い人です。
ところが、コミュニケーション能力に問題があれば、要領よく世の中を生きていけません。残念ながら、生まれつきコミュニケーション能力に問題がある人もいて、これが自閉スペクトラム症、略してASDです。

ASDは、アスペルガー症候群とも呼ばれている発達障害の一つです。小学生の頃までに気づかれるのが普通ですが、社会に出てから初めて診断される場合もあります。場の空気を読めず、自分の気持ちを伝えることも苦手なため、職場では損な役回りばかりです。一生懸命頑張っているのに、むしろ悪い評価をされて、いつも貧乏くじを引いています。酷い仕打ちをされながらも、真面目さや融通の利かなさが祟(たた)り、職場をやめることは考えません。どんどん心が病んで行き、ついには、うつ病や適応障害になります。ASDの人がうつ病や適応障害になる確率は、健常者に比べて3~4倍も高いのです。
こうしたことを防ぐためには、本人だけでなく、職場の管理者も、ASDがどのようなものか理解することは大切です。今回の記事では、ASDの人が職場で陥りやすい6つの状況を説明しましょう。
目次
【職場で気づかれる6つのサイン】
1 誤解されて嫌われる
職場で一番起きることは、周囲の人から気持ちを誤解されることです。先輩から色々やってもらっても、反応が薄いので、「ポーカーフェイスで、何を考えているのか分からない」と嫌われます。辛いこと、できないことを伝えられないので、「平気なんだ」と誤解されて、嫌な仕事を無理にやらされることもあります。
また、真面目にやっているのに、「挨拶ができない」、「失礼なことを平気で言う」、「話が一方的」といったことから周りを怒らせることもあるでしょう。
もちろん、本人としては、相手が嫌いだとか、馬鹿にしてやっている訳ではありません。「目を合わせられない」、「表情に乏しい」、「冗談を真(ま)に受ける」、「雑談ができない」といったことは、ASDの特徴なのです。
2 会社がブラックでも辞めない
職場で酷い仕打ちをされて、家族や周りの人に「会社が辛い」と訴えるものの、それでも辞めようとしません。周りからは、「そこはブラックだよ、辞めた方がいいよ。」と、アドバイスされますが、「自分で決めるから」と言って、結局仕事を続けます。
これは、嫌という気持ちを直接相手に伝えられないからです。また、頑固で、変化を嫌い、新しいことにチャレンジするのが苦手ということもあるでしょう。
辛くても我慢し続けるので、うつ病や適応障害になるリスクがとても高くなります。早めに逃げていれば病気にならないで済むので、とても残念なことです。
3 丸め込まれて利用されてしまう
酷いケースですと、上司のパシリにされたり、無給で働かされたり、金を脅し取られることもあります。つよく要求されると、嫌と言えないからです。要領よく逃げ回わることも苦手なので、悪い人に利用されてしまいます。「辛いので職場を辞めたい」と訴えても、延々と説得されて、辞めさせてもらえないということもあります。
4 疲れに鈍感でストレスをためやすい
ASDの人は、ふつうならば問題にならないような音・光・匂いを不快に感じるという感覚過敏(かんかくかびん)があります。実はそれだけでなく、「空腹感や疲労感に鈍感で、無理をしてしまう」、「痛みに鈍感なため、ケガや病気に気づかない」、「暑さ寒さに鈍感なため、気温に応じた服装を着られない」、といったように、自分の体の感覚に鈍感という症状もあります。これを感覚鈍麻(かんかくどんま)と呼ぶことがあります。
特に困るのは、疲労感を感じない人です。仕事に集中し過ぎて、心身に負担が来ていることに気づきません。これは、過労〇や過労自〇につながることもあります。
5 突然仕事に穴をあける
自分が無理をしていることに気づかないので、限界が来て突然体調を崩します。生まれつき自律神経系やホルモン系が崩れやすい傾向もあります。前日まで問題がなかったのに、朝から、倦怠感、頭痛、めまい、下痢などで外に出られず、仕事に穴を明けてしまうのです。
天候の影響も受けやすいという傾向もあります。急な寒暖の変化、雨・雪・台風・気圧の変化などでも体調不良になり、職場を休むことがあるでしょう。
6 仲間をつくれない
大人数での会話に参加できません。飲み会は大切な社交の場ですが、それが大の苦手です。いろいろな人の言葉を、どう処理して返したら良いのかが分かりません。付き合いが悪くなり、仲間を作れず、職場に居づらくなります。
最後に
不思議なことですが、ASDの症状は一定ではなく、状況や体調などに左右されます。「相性の悪い人がいる」、「ブラックな職場で働く」、「体調がすぐれない」などの状況で、よけいに対人関係に問題が出たり、こだわりや感覚過敏も悪くなるのです。いかに自分に合った職場で働くかが大切なのです。
例えば、大谷選手は野球をやっているから大成功しているのであって、小柄な人が有利な体操選手になっていたら成功はしなかったでしょう。人には向き不向きがあるのです。ASDの人は、興味があるものに高い集中力を持ち、決まったスケジュールに沿った規則的な仕事では力を発揮できます。一概には言えませんが、工場や厨房での作業、プログラミング、設計、デザイン、研究などが向いていると言われています。逆に接客、営業、お客様対応窓口など、人間関係が多く、臨機応変さを求められる仕事には向いていません。
