自律神経失調症の意味【精神科医がわかりやすく解説】

自律神経失調症は正式な病名ではありません。

  

 めまい、息苦しさ、倦怠感が続き、何かの病気かと思って内科で一通り検査をしたところ、「異常がないので、自律神経失調症ですね」と、医師から告げられることがあります。大概、安定剤を処方されて、「ストレスが原因だと思うので、ゆっくり休んでください」で終わってしまいます。まるで「病気でなく、気のせい」と言われたようで傷ついてしまう患者さんもいるでしょう。

他にも、胸の不快感、咳、微熱、冷え性、寝汗、食欲低下、吐き気、便秘や下痢がありながら、検査で異常がなく、原因を特定できない症状を不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼びます。日本では、不定愁訴の病気を習慣的に「自律神経失調症」と呼んでいます。

よく耳にする病名ですが、意外とその正体については知られていないようです。そこで今回は、自律神経失調症の正体について解説しましょう。

 

自律神経失調症について6つのこと

 

1 そもそも自律神経とは?

私たちの体は、自分の意志で動かせる部分と動かせない部分の2つがあります。例えば、手足の筋肉は自分の意志で自由に動かせますが、心臓などの内臓は、私たちの意志と関係なく自動で動いています。

内臓はそれぞれが自分勝手に動いているのでなく、脳の中脳(ちゅうのう)という部分の命令で動いています。中脳が司令塔になって体全体がうまく機能するようにコントロールされているのです。この中脳と内臓を電線のようにつないでいるのが自律神経です。自律神経は私たちの意志に関係なく、中脳の命令で内臓を動かして体の健康を維持しています。このシステムを自律神経系と呼びます。

 

 

2 自律神経には交感神経と副交感神経がある

自律神経には、内臓を活発にさせる交感神経と、内臓の活動を抑える副交感神経の2種類があります。どちらの神経が優位に活動するかで内臓の動きがコントロールされる仕組みです。活動的な時は交感神経が優位に働き、リラックスしている時は副交感神経が働いているという感じです。

例えば、体を激しく動かすと、中脳がそれを察知し、交感神経に命令を出して心臓の鼓動を増やし、体中にたくさんの血液を送ります。体を激しく動かしていると心臓がドキドキしてくるのはこのような仕組みになっているのです。

 

3 自律神経はなぜ失調するのか?

心や体が弱ってくると、自律神経系の働きにも問題が起きるようになります。何でもないのに息切れや動悸がしたり、疲れが取れなかったりといったように、交感神経と副交感神経の働きのバランスが悪くなります。これが自律神経失調症です。

自律神経が失調する原因としては、生活の乱れ、ストレス、気候の急激な変化などが代表的なものです。生活の乱れ、ストレス、気候の急激な変化から心や体が弱ると、自律神経の働きが悪くなり、そこから不定愁訴が現れます。これが自律神経失調症の正体です。

 

4 自律神経失調症の本当の病名

実は自律神経失調症は正式な病名ではありません。1960年代に東邦大学の阿部教授が命名したもので、日本だけの呼び方です。海外にも似た呼び方はありますが、一般的には「心身症」と呼ばれています。正式にはそれぞれの症状によって「機能性胃腸炎」「緊張性頭痛」といった病名が使われています。慢性化している不定愁訴の場合、精神科での正式な病名は「身体症状症」です。

これらの病名は日本では馴染みがないので、理解しやすい自律神経失調症の名前が現在も広く使われています。

 

5 自律神経失調症を治すためには?

自律神経失調症を治すのに最も必要なのは、十分な睡眠と規則正しい生活です。心配事も解消されることが必要でしょう。緊張による交感神経の使い過ぎが良くないため、特に寝る前の1~2時間前はリラックスして過ごすようにします。スマホはいじらないようにして、ストレッチをしたり、ぬるめのお風呂に10分程度つかったりすることがお薦めです。

 

6 背後に心の病気があることも

 生活を改善させても良くならない自律神経失調症の場合、背後にうつ病や不安症などの精神疾患が隠れていることがあります。心の病気で脳の働きが弱ってくると、自律神経失調症の症状が現れるのです。

ところが、体の症状にばかり意識を囚われていると、気分の落ち込みや不安などの心の不調に気づけないこともあります。「体調不良で仕事に行けない」、「毎朝お腹が痛くて学校へ行けない」といった状況はもしかするとうつ病かも知れません。

 

最後に

 

 自律神経失調症は体が弱っているSOSです。ストレスを減らすようにして、休みをとって無理のない生活を心がけましょう。内科で検査をしても大きな異常がみつからず、全身の倦怠感、微熱、胸の不快感、息苦しさ、めまい、下痢や便秘などが数カ月間と続く場合は、心の病気があることを疑ってみることが必要です。

また、うつ病などの精神疾患を治療中に自律神経失調症が起こることもあります。これは治療中の精神疾患が悪くなりつつあるサインです。うつ病では再発の予兆の可能性があります。治療中なのに何か無理のし過ぎはないでしょうか?薬の飲み忘れはどうでしょうか?立ち止まって生活を見直してみましょう。