目次
はじめに:産業医の種類を理解する重要性
企業の健康経営を推進する上で欠かせない存在が産業医です。しかし、「嘱託産業医」と「専属産業医」という2つの選任形態があり、それぞれ役割や費用、勤務形態が大きく異なります。
本記事では、嘱託産業医と専属産業医の違いを詳しく解説し、自社にとって最適な産業医の選び方をご紹介します。人事担当者や経営者の方が適切な判断を下せるよう、選任基準から実際の運用方法まで、実務に役立つ情報を網羅的にお届けします。
嘱託産業医とは?基本的な定義と役割
嘱託産業医の定義
嘱託産業医とは、非常勤の産業医を指します。「嘱託」とは、正式に任命せずに業務に従事してもらうように依頼することを意味し、多くの場合、業務委託契約の形式で企業と契約を結びます。
日本における産業医の大部分は嘱託産業医であり、開業医や勤務医が日常診療の傍ら産業医の業務を担っている場合が多いのが実態です。
嘱託産業医の主な特徴
1. 勤務形態
一般的に月1回程度事業所を訪問して産業医業務にあたるケースが多く、1回あたりの訪問時間は通常1〜3時間程度です。勤務日数や時間は専属産業医より短く、複数の企業を掛け持ちすることも可能です。
2. 契約形態
多くの場合、企業と業務委託契約を締結します。正社員として雇用されることは稀で、柔軟な契約関係を保つことが一般的です。
3. 活動内容
月1回の訪問時に以下のような活動を実施します:
- 職場巡視:作業環境の確認と改善提案
- 衛生委員会への参加:労働衛生に関する助言
- 健康診断結果の確認:事後措置の指導
- 従業員との面談:健康相談やメンタルヘルス対応
- 長時間労働者への面接指導
- 復職支援:休職者の職場復帰サポート
専属産業医とは?基本的な定義と役割
専属産業医の定義
専属産業医は、特定の企業と契約した産業医であり、従業員のように事業場に常駐して働くのが特徴です。「専属」という名称の通り、基本的には1つの事業場専属で業務にあたります。
専属産業医の主な特徴
1. 勤務形態
専属産業医は週3〜5日ほど勤務し、従業員の健康・安全管理に努めます。1日あたり8時間程度の勤務が一般的で、他の従業員と同様の時間帯で業務を行うことが多いです。
2. 契約形態
専属産業医は企業と雇用契約を結ぶことが一般的です。正社員として雇用するケースもあれば、契約社員や嘱託社員として有期契約(1〜5年程度)を結ぶケースもあります。
3. 活動内容
常駐しているため、嘱託産業医と比べてより幅広く、深い関わりを持つことができます:
- 日常的な従業員の健康状態の把握
- 緊急時の迅速な対応
- 職場環境の継続的なモニタリング
- 経営層への定期的な報告と提案
- 包括的な健康増進プログラムの企画・実施
- 産業保健スタッフ(保健師、看護師など)の指導・育成
嘱託産業医と専属産業医の違い【徹底比較】
1. 選任基準の違い
嘱託産業医の選任基準
常時50人以上〜999人以下の労働者を使用する事業場では、嘱託(非常勤)産業医の選任が認められています。
選任が必要なケース
- 従業員数:50名〜999名の事業場
- 有害業務従事者が499名以下の事業場
専属産業医の選任基準
常時1000人以上の労働者を使用する事業場と、有害業務に携わる事業場で常時500人以上の労働者を使用する場合は専属産業医を選任する必要があります。
選任が必要なケース
- 従業員数:1,000名以上の事業場
- 有害業務従事者が500名以上の事業場
- 従業員数:3,000名以上の事業場は専属産業医を2名以上
2. 勤務形態の違い
|
項目 |
嘱託産業医 |
専属産業医 |
|
勤務頻度 |
月1回〜2ヶ月に1回 |
週3〜5日 |
|
1回の勤務時間 |
1〜3時間程度 |
8時間程度 |
|
勤務形態 |
非常勤 |
常勤 |
|
複数事業場の兼務 |
可能(一般的) |
原則不可(条件付きで可能) |
|
他の医療機関との兼務 |
可能 |
原則専属 |
4. 費用の違い
嘱託産業医の費用相場
産業医の訪問回数や訪問時間、従業員数などで決まります。
一般的な費用相場
- 月1回訪問(1〜2時間):月額3万円〜8万円
- 月2回訪問:月額6万円〜15万円
- 年間コスト:36万円〜180万円程度
専属産業医の費用相場
専属産業医は、企業や勤務日数などにもよりますが年俸800万円〜1,500万円が報酬の相場になっています。
一般的な費用相場
- 年俸:800万円〜1,500万円
- 週3日勤務:年俸600万円〜900万円程度
- 週4〜5日勤務:年俸800万円〜1,500万円程度
- 年間総コスト:1,000万円〜2,000万円程度(社会保険料等含む)
嘱託産業医のメリット・デメリット
メリット
- コストパフォーマンスが高い
専属産業医と比較して、費用を大幅に抑えることができます。中小企業にとっては現実的な選択肢となります。
- 柔軟な契約が可能
業務委託契約のため、訪問頻度や契約内容を柔軟に調整できます。
- 幅広い知見を活用できる
複数の企業や医療機関で得た知見を活かしたアドバイスが期待できます。
デメリット
- 訪問頻度が限定的
月1回程度の訪問では、従業員の健康状態の変化を細かく把握することが難しい場合があります。
- 緊急時の対応が困難
常駐していないため、急な健康問題や職場トラブルへの即座の対応が難しいことがあります。
まとめ:適切な産業医選任で健康経営を実現
嘱託産業医と専属産業医の選択基準
嘱託産業医を選ぶべきケース
- 従業員数が50〜999名の事業場
- オフィスワーク中心で健康リスクが比較的低い
- 予算が限られている
- 初めて産業医を選任する
専属産業医を選ぶべきケース
- 従業員数が1,000名以上(法的義務)
- 有害業務従事者が500名以上(法的義務)
- メンタルヘルス問題が深刻
- 包括的な健康経営を推進したい
最後に
嘱託産業医と専属産業医は、それぞれ異なる特徴とメリットを持っています。自社の規模、業種、健康課題、予算などを総合的に考慮し、最適な産業医を選任することが、従業員の健康を守り、企業の持続的な成長につながります。
産業医は単なる法令遵守のための存在ではなく、企業の健康経営を推進する重要なパートナーです。本記事を参考に、自社にとって最適な産業医の選任を実現してください。
