両立支援制度、両立支援コーディネーターとは?【令和8年4月から施行】

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令和8年4月から、病気を抱えながら働く従業員を職場が積極的に支えることが努力義務化されました。本記事では、両立支援制度の概要・両立支援コーディネーターの役割・トライアングルサポートの仕組み・障害雇用との関係・企業の実務対応まで、人事・経営者が知るべき情報を網羅的に解説します。

両立支援制度とは何か

「両立支援制度」とは、病気を抱えながら働く従業員が、治療を続けながら仕事を継続できるよう、職場が積極的に環境を整えることを求める制度です。

令和8年4月から、この支援を職場が推進することが努力義務として法律に明記されました。努力義務とは罰則を伴う強制ではありませんが、対応が不十分な場合は労働基準監督署による調査・指導の対象となり得ます。また、今後さらに規制が強化される可能性も十分にあります。

 

従来、病気を抱えた従業員への対応は「本人の問題」「主治医と本人の間で解決する話」として、職場が積極的に関与しないケースが少なくありませんでした。今回の法整備は、その姿勢を改め、職場・医療・支援機関が一体となって対応することを制度として位置づけるものです。

ポイント:両立支援制度は「病気になった従業員を辞めさせないための制度」ではなく、「病気を抱えながらも働ける環境を職場が主体的につくる制度」です。この視点の違いが、実務対応の質を大きく左右します。

なぜ今この法律が作られたのか

精神疾患の現状と職場への影響

日本で働く人の30〜40%が何らかの深刻な疾患を抱えているとされています。そのうち、1カ月以上の病気休職者の約40%を占めるのが精神疾患です。うつ病適応障害・パニック症・発達障害・双極症・統合失調症など、精神疾患は今や職場における最大の休職原因となっています。

精神疾患による休職者数は年々増加しており、休職中の従業員に支払われる傷病手当金の総額も右肩上がりで膨らんでいます。これは企業にとっての経済的損失であるだけでなく、社会保障費の増大という意味で国全体の問題でもあります。

指標 状況
働く人の疾患保有率 30〜40%が何らかの深刻な疾患を抱える
休職者に占める精神疾患の割合 1カ月以上の休職者の約40%
精神疾患による休職者の推移 年々増加傾向が続いている
傷病手当金の支給額 毎年増加し、社会問題化
精神疾患を持つ従業員の離職率 通常雇用の場合、1年以内に約40%が離職

従来の対策が機能しなかった理由

国はこれまで、時間外労働の上限規制やストレスチェック制度など、精神疾患対策のための法整備を進めてきました。しかしいずれも、休職者の増加に歯止めをかけるには至っていません。

最大の問題は、「治療している側(医療)」と「働いている側(職場)」の連携が制度として担保されていなかったことです。主治医が職場への配慮を求めても無視される、産業医が改善を勧告しても現場に反映されない、といった状況が慢性的に繰り返されてきました。

今回の両立支援制度は、この「医療と職場の断絶」を書面による三者連携の義務付けという形で解消しようとするものです。

 

■これまでの状況
  • ・医師の意見が職場に届かない
  • ・産業医の勧告が形骸化
  • ・従業員が一人で抱え込む
  • ・休職か退職かの二択になりがち
  • ・復職後すぐに再休職するケースが多い

 

■両立支援制度導入後
  • ・主治医・産業医・職場が書面で連携
  • ・職場の配慮義務が明確化
  • ・コーディネーターが橋渡し役を担う
  • ・段階的な就労継続が可能になる
  • ・計画的な復職支援が実施できる

 

令和8年4月から何が変わるのか

令和8年4月の法改正により、職場が積極的に両立支援を推進することが努力義務として明文化されました。具体的には以下の点が変わります。

  • 書面による連携の義務化:主治医・産業医・職場責任者の三者が書面で情報を共有し、職場の対応を文書として残すことが求められます。
  • 医師の指導への配慮:主治医や産業医から就業上の配慮を求める意見書が提出された場合、職場はその内容に積極的に配慮しなければなりません。
  • 両立支援コーディネーターの活用:従業員が産業医や人事に直接言い出しにくいケースに対応するため、外部の専門家が連絡調整役を担う仕組みが整備されます。

注意:努力義務であっても、対応が著しく不十分な場合は労働基準監督署による調査・勧告の対象になり得ます。また、法的義務化に向けた段階的な強化が今後も続く可能性があるため、早期に体制を整えることが企業リスクの軽減につながります。

従業員が職場を離れる本当の理由

国が実施したアンケートによると、精神疾患の治療中に退職に至った理由として多く挙げられているのは、医学的な症状そのものではありません。職場環境や対応の問題がほとんどです。

  • ・人間関係のトラブルが解消されなかった
  • ・部署の雰囲気が体調に悪影響を与えていた
  • ・通院や療養のために必要な休みが取れなかった
  • ・体調に合った業務量・スケジュールへの調整がされなかった
  • ・主治医から職場に申し入れをしても、職場のルールを理由に無視された
  • ・産業医に相談しても、改善が職場に反映されなかった

つまり、多くの従業員は「職場が少し配慮してくれれば続けられた」という状況で離職しているのです。これは企業にとっても、育成コストや採用コストの無駄という意味で、大きな損失です。両立支援制度は、こうした「防げたはずの離職」を制度的に防ぐための仕組みです。

両立支援コーディネーターとは

両立支援コーディネーターとは、病気を抱える従業員・主治医・職場(人事・産業医)の間に入り、情報の橋渡しと調整を担う専門家です。会社の外部から関与するため、従業員にとっては「職場の人間には言いにくいこと」を安心して話せる窓口になります。

担当するのは、カウンセラー・精神保健福祉士・社会保険労務士などの専門職です。企業に対しては外部EAP(従業員支援プログラム)機関がこの役割を担うことになります。

従業員が産業医や人事に直接言い出しにくいケースは少なくありません。「病気のことを職場に知られたくない」「相談したら評価が下がるのでは」といった不安が、申し出の最大の障壁になっています。コーディネーターはその心理的ハードルを下げる役割を果たします。

トライアングルサポートの仕組み

両立支援コーディネーターを中心とした三者連携の仕組みを「トライアングルサポート」と呼びます。主治医・職場(産業医・人事)・コーディネーターの三者が情報を共有しながら、従業員の就労継続を支える体制です。

 

 

両立支援コーディネーター導入のメリット

  • 早期発見・早期対応:従業員が不調を一人で抱え込まず、早い段階で相談できる窓口が生まれます。重症化・長期休職を防ぐ効果があります。
  • 復職支援の質の向上:復職のタイミングや業務調整について、医療側と職場側が連携して判断できるため、再休職リスクが下がります。
  • 管理職の負担軽減:「どう対応すればいいかわからない」という管理職の困惑を専門家がサポートすることで、現場の混乱を防げます。
  • 法的リスクの低減:書面による対応記録が残るため、後のトラブル発生時に企業が適切な対応を取ったことを示せます。
  • 離職率の低下:配慮を受けながら働き続けられる環境は従業員の定着率を高め、採用・教育コストの削減につながります。

両立支援の実務フロー

従業員から両立支援の申し出があった場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。標準的な流れは以下の通りです。

  1. 申し出の受付:従業員が上司または人事に両立支援を希望する旨を伝えます。この段階での情報は最小限にとどめ、病名の開示を強制しないことが大切です。
  2. 産業医面談:従業員と産業医が面談し、就業上の配慮が必要かどうかを確認します。必要に応じて主治医への情報提供を依頼します。
  3. 主治医の意見書取得:主治医が就業に関する意見書を作成します。「残業制限」「特定業務からの除外」「通院のための時間確保」など、具体的な配慮事項が記載されます。
  4. 職場での対応方針決定:産業医・人事・上司が意見書の内容をもとに、職場で実施できる配慮の内容を決定し、従業員本人と合意します。
  5. コーディネーターによる継続支援:配慮が適切に実施されているか、従業員の状況に変化がないかを定期的に確認し、必要に応じて対応を調整します。
  6. 記録の保存:一連の対応を書面で記録し、関係者間で共有します。

実務上の注意点:申し出やすい環境をつくるために、制度の存在と利用手順を社内で定期的に周知することが重要です。受け取る管理職が「どうすればいいかわからない」という状態だと、制度があっても機能しません。

障害雇用との関係

両立支援制度を利用しながら通常雇用の環境で働くことが難しい場合、もう一つの選択肢として「障害雇用」があります。精神疾患を持つ従業員が通常雇用の職場を1年以内に辞める割合は約40%と非常に高い数値です。一方、障害雇用では離職率が大幅に改善されることが調査で示されています。

項目 内容
雇用義務の対象企業 従業員40人以上の企業
法定雇用率(令和8年7月〜) 従業員数の2.7%以上
未達成の場合 不足1人あたり月額納付金の支払い
超過達成の場合 調整金・報奨金の支給
障害手帳の申請窓口 最寄りの市区町村役所(主治医の診断書が必要)

現在、障害雇用の実施が法定雇用率に届いていない企業は依然として多く、今後さらに雇用枠の拡大が求められます。法定雇用率の達成という観点からも、受け入れ体制を早期に整えることが企業の経営課題として重要性を増しています。

視点の整理:両立支援制度と障害雇用は、「同じ従業員が職場で働き続けるための、段階の違う選択肢」です。まず両立支援で通常雇用のまま継続を試み、それが難しい場合に障害雇用を検討する、という流れが実務では多く見られます。

企業が今すぐやるべきこと

両立支援制度への対応において、人事・経営者が今すぐ着手すべきことをまとめます。

  • ・両立支援の申し出があった際の社内対応フローを文書化する
  • ・制度の存在と利用方法を全従業員に周知する(特に管理職への研修)
  • ・産業医との連携体制を見直し、意見書対応の手順を整備する
  • ・両立支援コーディネーターの外部委託先を検討・選定する
  • ・就業規則・社内規程に両立支援に関する条項を追加する
  • ・法定雇用率の達成状況を確認し、障害雇用の受け入れ計画を策定する
  • ・休職・復職に関するガイドラインを整備し、書面管理の仕組みを作る
  • ・相談窓口の利用状況を定期的にモニタリングし、形骸化を防ぐ

特に優先度が高いのは「社内フローの文書化」と「管理職への周知」です。従業員が申し出たとき、受け取る側が適切に対応できる体制が、両立支援の出発点になります。

まとめ

・精神疾患を抱えた従業員が通常雇用で1年以内に離職する割合は40%、両立支援で防げるケースが多い。

・令和8年4月から治療と仕事の両立支援が職場の努力義務として施行。対応の遅れは企業リスクになる。

 

・令和8年7月からの法定障害雇用率。従業員40人以上の企業に義務付けられ、未達は納付金の対象。

 

両立支援制度は、病気を抱えた従業員を守るためだけの制度ではありません。適切な対応が「防げたはずの離職」を減らし、採用・育成コストを抑え、職場全体の生産性と心理的安全性を高めます。法的な義務への対応と、組織としての競争力強化が同時に実現できる仕組みとして、早期の体制整備を検討してください。

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