本来、発達障害とは小学校低学年くらいまでに気づかれるものですが、大人になってから気づかれるケースもあります。これを大人の発達障害と呼びますが、広く世の中に知られるようになり、生きづらさの原因として理解も進むようになりました。ネットには簡単なセルフチェックが掲載されており、精神科に行くきっかけになった人もいます。では実際に精神科ではどのようにして大人の発達障害が診断されるのでしょうか?今回は、これから診断を希望される方やその関係者のために、大人の発達障害の診断について詳しく説明しましょう。
1 そもそも大人の発達障害って何?
子供の時から「何かみんなと違う」と感じながら、社会に出てみると「職場の人とうまくコミュニケーションがとれない」「みんながやっていることができない」といった生きづらさを感じるのが大人の発達障害です。知能や言葉には問題はなく、人の気持ちを読み取ること、物事への関心や集中、感情のコントロールなどの脳の働きに問題があるのが特徴です。
大人の発達障害には大きく分けて自閉スペクトラム症・ASDと注意欠如多動症・ADHDがあります。ASDは対人関係を築けないことと物事へのこだわりが特徴で、ADHDには不注意・落ち着きのなさ・衝動性が見られます。昔からよく知られている「アスペルガー障害」はASDの1つです。これを発見したアスペルガー医師がナチスの協力者であったことが判明したため、アスペルガー障害という名称は公式から削除されました。
ASDとADHDの2つがあると言いましたが、実際には発達障害の60%以上の人が両方をもっています。10年前までは診断名は1つというルールがあったので混乱がありましたが、現在では同時に両方を診断することが可能です。必ずどちらかでなくてはいけないということはなく、両方あるでも良いのです。
ASDは、「広汎性(こうはんせい)発達障害」と呼ばれることがあります。これはICD10(アイシーディー・テン)という古い国際基準にある診断名ですが、ASDという呼び方よりも障害のイメージが湧きやすいので、現在でもよく使われています。
2 大人の発達障害の診断の仕方
大人の発達障害は、ストレスからうつ病や適応障害を発症して、その通院中に精神科医によって発見されるケースが多いようです。それ以外にも、職場の上司に指摘されて精神科を来院する人、ネットのセルフチェックで来院する人もいます。
発達障害はあくまでも子供の頃から症状が現れていることが診断に必要です。そのために本人の話だけでなく、小中学校の成績表を見せてもらうことや、子供の頃の様子を知っている第三者から情報を得ることもあります。
また、CAARS(カーズ)、AQ(エイキュウ)といった心理検査や、WAIS(ウエイス)という知能検査を実施することもあります。発達障害は、これを調べれば必ず診断できるという検査の指標はありません。心理検査や知能検査はあくまでも診断の補助です。
このように診断は何回か通院してもらいながら時間をかけて行われるものであり、1回受診してすぐにできるものではありません。脳波をとってすぐに診断するというクリニックもありますが、精神医学の常識ではありえない話です。
3 ADHDの診断の問題
最近多いのが、仕事や勉強に集中できないことから、ADHDを疑って精神科を訪ねてくる人です。ネットのセルフチェックではひっかかるのに、実際に精神科で発達障害を診断される人は半数以下だそうです。
これは不注意・落ち着きのなさ・衝動性はストレスの影響を受けるからです。ストレスがある時にADHDのような状態であっても、ストレスがなくなって生活に支障がなくなるならば診断はされません。ADHDのようでも、周りの人の対応が変わったり、仕事や勉強が楽になったりすれば改善することもあるのです。診断には日常生活に関係なく症状が生活を障害していることが必要です。
ところが、これとは逆にADHDの診断が過剰に行われてしまうこともあるようです。診断にはマニュアルがありますが、実際のところは精神科医によって診断の基準にバラツキがあります。ネットの知識をもとに、思い込みで自分の状態をADHDとして作り上げてしまっている患者さんもいて、それを精神科医が鵜呑みにして、安易に診断されてしまうのです。
不注意・落ち着きのなさ・衝動性はストレスで悪化します。発達の問題を疑う前に、職場や人間関係のストレスを見直すことが先決です。それでも改善されない場合に精神科を訪ねて見ましょう。
4 大人の発達障害とIQの高さは関係ない
精神科医がASDの診断をつけても、知能検査でIQが高いのになぜ発達障害なのかという質問を受けることがあります。IQはあくまでも知的能力を中心に脳の働きの一部を測定したものです。IQは学校の成績に比例する内容で、どんなに学校の成績が良くても対人関係をうまく作れない人がいるように、IQが高いから発達障害でないということはありません。脳の機能には数字では測れないたくさんの要素があり、発達障害は脳の働きのバランスの問題と考えたらよいでしょう。
5 生い立ちの影響を受けている
子供の頃に適切な養育を受けられなかったり、いじめなどの被害を受けたりすると、対人関係や刺激への反応など、ASDやADHDと同じような症状が出ることがあります。これは、複雑性PTSDやパーソナリティ症と言われるものです。発達障害に複雑性PTSDが合併することもあり、どこからどこまでが発達障害で複雑性PTSDなのかと区別がつかないこともあります。
複雑性PTSDやパーソナリティ症は、発達障害のように固定したものでなく、愛着やトラウマが原因になっているもので、大人になってからの人間関係によって改善されていくことがあります。
以上、大人の発達障害の診断について説明しました。
今回説明したように、大人の発達障害の診断は大変難しい問題です。しかし、発達障害の診断を受けることを通して、生きづらさの原因が解明され、障害雇用や福祉の援助を受けることで、生活が楽になる人もたくさんいます。気になる方は精神科に相談してみてください。
