休職制度はなくても良いの?「休職なし」の就業規則が会社を危うくする理由と中小企業向けの制度設計

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「休職制度は法律で決められていないなら、うちは設けなくてもいいのでは?」「長く休まれると困るので、最初から制度を作らないでおきたい」――人員に余裕のない会社の経営者や人事担当者の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

結論からお伝えすると、休職制度を設けないこと自体は法律上可能です。しかし、制度がないことで、かえって会社がトラブルを抱えやすくなるという側面があります。

本記事では、休職制度の法的な位置付けと本来の役割を確認したうえで、制度がない場合に何が起きるのか、そして中小企業でも取り入れやすい現実的な制度設計のポイントを解説します。

目次

休職制度は法律上の義務ではない

法律上の一律の義務や最低期間はない

私傷病(業務外の病気やけが)による休職制度は、労働基準法などの法律で設置が義務付けられた制度ではありません。休職制度の設置や休職期間について、法律上の一律の義務や最低期間は定められていないため、会社の実情に応じた制度設計が可能です。

ただし、休職制度を設ける場合には、その内容を就業規則に記載する必要があります。また、規定の内容が合理的であることや、既存の就業規則を従業員に不利益な内容へ変更する場合の要件など、既存の労働条件との関係には注意が必要です。

約7割の企業が病気休職制度を設けている

では、実際に休職制度を設けている会社はどのくらいあるのでしょうか。労働政策研究・研修機構(JILPT)が正社員10人以上の企業を対象に2022年に実施した調査では、病気休職制度がある企業の割合は69.5%でした。企業規模が大きいほど導入率が高い傾向にあります。

正社員規模

病気休職制度が「ある」企業の割合

10~29人

65.1%

30~49人

73.4%

50~99人

79.4%

100~299人

84.0%

300~999人

89.8%

1,000人以上

95.1%

出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)「調査シリーズNo.240」(2022年12月実施の企業調査)

法律上の義務ではないにもかかわらず、多くの企業が休職制度を設けています。これには、はっきりとした理由があります。

休職制度の本来の役割は「解雇の猶予」

休職制度は、従業員のための福利厚生と思われがちです。もちろんその面もありますが、会社にとっても重要な役割を持っています。それが「解雇の猶予」という役割です。

回復を待つ期間と、その後のルールをあらかじめ決めておく仕組み

病気やけがで長期間働けなくなった従業員について、会社はすぐに雇用契約を終了させるのではなく、一定期間、回復を待ちます。そして、その期間内に回復すれば復職、回復しなければ退職、というルールをあらかじめ定めておく。これが休職制度の基本的な仕組みです。

「自然退職」の定めで雇用終了のルールを明確にする

休職期間満了時に復職できない場合、就業規則に「自然退職とする」規定を設けておくことで、所定の要件を満たしたときに雇用関係が終了する仕組みを整えることができます。

ただし、自然退職の規定があれば必ず雇用関係を終了できるわけではありません。休職期間満了時に復職可能な状態だったか、配置転換などによって就労できる可能性があったかなど、従業員の回復状況や復職可能性、会社の対応を踏まえて有効性が判断されます。

休職制度は、従業員に療養の機会を保障すると同時に、会社にとっては雇用関係を終了させるための明確なルールでもあるのです。

休職制度がない場合に起きること

では、休職制度がない会社で、従業員がメンタルヘルス不調などにより長期間働けなくなった場合はどうなるのでしょうか。一般的には、まず年次有給休暇を使い、それを使い切った後は「欠勤」という扱いになります。

「いつまで欠勤を認めるか」の基準がない

ここで問題になるのが、「いつまで欠勤を認めるのか」が決まっていないことです。1か月で判断するのか、半年待つのか。基準がないまま対応すると、上司や担当者によって判断がばらつき、「ある従業員は長く待ってもらえたのに、別の従業員はすぐに退職を迫られた」という不公平が生じかねません。

従業員の側から見ても、いつまで療養できるのか、いつ戻らなければならないのかが分からないため、落ち着いて治療に専念することができません。

会社から雇用を終了させる場合は「普通解雇」の有効性が問題になる

欠勤が長く続いた場合でも、回復を待つ、個別に休業の合意をする、本人との合意により退職するといった対応は考えられます。しかし、合意が得られないまま会社側から雇用関係を終了させようとすると、「普通解雇」を検討することになり、その有効性が問題となります。

病気を理由とする解雇には厳しい制約がある

解雇には厳しい制約があります。労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、無効とされています。病気を理由とする解雇の場合、裁判では主に次のような点が重視されます。

  • 回復の見込みがあったかどうか
  • 会社が療養の機会を与えたかどうか
  • 他の業務に就かせる可能性を検討したかどうか

つまり、休職制度がないからといって、すぐに解雇できるわけではありません。療養の機会を与えずに解雇すれば、解雇権の濫用として無効と判断されるおそれがあります。解雇が無効となれば、その間の賃金の支払いを命じられることもあります。

休職制度をなくせば手続きが簡単になると思われがちですが、実際にはその逆です。退職に至るまでのルールがないため、一つひとつのケースで難しい判断を迫られ、紛争のリスクが高まってしまうのです。

休職制度の「あり」「なし」比較

比較項目

休職制度あり

休職制度なし

療養期間の基準

就業規則で明確

不明確(担当者ごとに判断がばらつく)

回復しない場合の雇用終了

期間満了による退職(自然退職)の仕組みを整えられる(有効性は個別に判断)

合意できなければ普通解雇の検討が必要

解雇無効のリスク

療養の機会を与えた根拠になる

療養の機会がなかったとして無効となるおそれ

従業員の安心感

治療に専念しやすい

不調を隠して働き続けやすい

 

休職制度がなくても変わらない3つのルール

休職制度の有無にかかわらず、会社が必ず守らなければならないルールもあります。

1.解雇予告(原則30日前の予告または解雇予告手当)

従業員を解雇する場合、原則として30日前までの予告、または不足日数分の解雇予告手当(平均賃金)の支払いが必要です。予告と手当を組み合わせることもできます。ただし、法律上の例外もあります。

2.業務上の傷病による休業中の解雇制限

長時間労働やハラスメントなど、仕事が原因で精神疾患を発症した場合は、労災として扱われる可能性があります。業務上の傷病で療養のために休業している期間と、その後30日間は、原則として解雇することができません。休職制度がないからといって、この制限がなくなるわけではありません。

3.「慣行」が事実上の制度とみなされる可能性

就業規則に休職の定めがなくても、過去に病気の従業員を数か月間休ませて復帰させた実績が繰り返しあれば、それが事実上の制度として扱われる可能性があります。「規定がないから制度はない」とは言い切れないのです。

なお、健康保険の傷病手当金は、会社の休職制度とは関係なく、支給要件を満たせば受給できます。

休職制度をなくすことの経営上のデメリット

法律面だけでなく、職場の運営という面でもデメリットがあります。

不調を隠して働き続ける従業員が増える

「休めば職を失うかもしれない」と感じれば、従業員は不調を打ち明けにくくなります。その結果、症状が悪化してから問題が表面化したり、ミスや事故につながったりするおそれがあります。

安全配慮義務違反を問われるおそれ

会社には、従業員の心身の健康に配慮する義務(安全配慮義務)があります。不調のサインがありながら、休ませる仕組みもないまま働かせ続けた結果、症状が悪化すれば、会社の責任が問われる可能性もあります。

なお、安全配慮義務があるからといって、私傷病休職制度を必ず設けなければならないわけではありません。ただ、休職制度は、不調のある従業員を就労から離して療養させる手段を、あらかじめ用意しておく仕組みとして役立ちます。

職場全体の不安が高まり、離職・採用にも影響する

「この会社では病気になったら終わり」という受け止め方が広がると、周囲の従業員の不安が高まり、離職や採用の面でもマイナスになります。

治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務に

社会的な流れとの関係も見逃せません。2026年4月から、治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務となりました。(両立支援制度)これは休職制度の設置そのものを義務付けるものではありませんが、休職制度を含め、治療を続けながら働ける環境をどのように整備するかが、これまで以上に重要になっています。

人員に余裕のない中小企業でも取り入れやすい休職制度の設計ポイント

とはいえ、中小企業にとって、長い休職期間を設けることは簡単ではありません。ここでは、会社の負担を抑えながら制度を整えるための4つのポイントをご紹介します。

ポイント1.勤続年数に応じて対象や期間を区切る

たとえば、勤続1年未満の従業員は休職の対象外とする、あるいは1か月程度とする。そして勤続年数が長くなるにつれて期間を延ばしていく、という設計です。

ポイント2.期間満了時の扱いを明記する

「休職期間が満了しても復職できないときは、期間満了の日をもって退職とする」と定めておくことで、雇用関係を終了させる際の根拠が明確になります。

ポイント3.通算規定を設ける

復職後、一定期間内に同一または類似の理由で再び休職した場合は、前の休職期間と通算する、と定めておきます。これにより、休職と復職を繰り返すことによる期間のリセットを防げます。メンタルヘルス不調は再発しやすいことから、特に重要な規定です。

ポイント4.休職の開始と復職の判断に医師の意見を取り入れる

主治医の診断書だけでなく、産業医との面談を通じて職場の実情を踏まえた判断を行う。こうした手順を規程に定めておくことで、判断の客観性が高まります。

従業員50人未満の事業場には産業医の選任義務がありません。産業医がいない場合は、「産業医または会社が指定する医師等の意見を参考にする」と規定しておくとよいでしょう。

また、主治医が「復職可能」と判断しても、会社がそのまま復職を認めなければならないわけではありません。主治医の診断は日常生活が送れるかどうかに重点が置かれることもあるため、元の業務を遂行できるか、どのような就業上の配慮が必要かといった点を踏まえて、会社として判断することが重要です。

制度設計のチェックリスト

設計項目

規定のポイント

対象者・期間

勤続年数に応じて対象外/短期間/長期間を区分

期間満了時の扱い

「期間満了の日をもって退職とする」と明記

通算規定

復職後一定期間内の同一・類似理由による休職は通算

医師の関与

休職開始・復職判断に産業医(不在の場合は会社指定の医師等)の意見を取り入れる手順を規定

 

短い期間であっても、ルールがあることそのものに大きな意味があります。「休職なし」ではなく、「自社に合った長さの休職制度」を設けることが、会社と従業員の双方を守ることにつながります。

休職制度に関するよくある質問

Q.休職制度を就業規則に定めないことは違法ですか?

A.違法ではありません。私傷病休職制度は法律上の義務ではなく、設けるかどうかは会社が自由に決められます。ただし、制度を設ける場合は就業規則への記載が必要です。

Q.休職制度がなければ、長期欠勤者をすぐに解雇できますか?

A.すぐに解雇できるわけではありません。療養の機会を与えずに解雇した場合、労働契約法第16条により解雇権の濫用として無効と判断されるおそれがあります。

Q.休職期間は最低何か月必要ですか?

A.法律上の最低期間はありません。勤続年数に応じて期間を区切るなど、自社の体制に合った長さを設定できます。ただし、既存の休職期間を短縮する場合は、就業規則の不利益変更にあたるため注意が必要です。

Q.休職制度がない会社の従業員は傷病手当金を受け取れませんか?

A.受け取れます。健康保険の傷病手当金は、会社の休職制度とは関係なく、支給要件を満たせば受給できます。

まとめ

  • 休職制度は法律上の義務ではなく、設けないこと自体は可能
  • 休職制度には「解雇の猶予」と「雇用終了のルールを明確にする」という重要な役割がある
  • 制度がない場合は対応基準が不明確になり、普通解雇の有効性が問題になるなど労務トラブルにつながるおそれがある
  • 解雇予告や業務上傷病の解雇制限は、制度の有無にかかわらず適用される
  • 中小企業こそ、勤続年数による区分・満了時の扱い・通算規定・医師の関与を工夫し、無理のない休職制度を整えることが大切

なお、個別の規定の作り方や解雇の有効性は、事案によって判断が分かれます。就業規則を見直す際には、社会保険労務士や弁護士などの専門家にもご相談ください。→別コラム:休職期間は何ヶ月が適切?3ヶ月と1年6ヶ月のメリット・リスクと就業規則の決め方

休職制度の整備・休職者対応はミーデン株式会社へご相談ください

ミーデン株式会社では、精神科クリニックを母体とする専門性を生かし、産業医の紹介、休職者支援や職場復帰支援、休職規程の運用に関するご相談まで、企業のメンタルヘルス対策をトータルでサポートしています。

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