2026年4月24日、厚生労働省は「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」を公表しました。同年10月1日に施行されるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策・求職者等セクシュアルハラスメント対策の義務化に合わせ、企業が実務上抱える疑問に答えるQ&A形式の解釈文書です。
全41問にわたり、カスハラ、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、求職者等セクハラにまたがる運用上の論点が整理されています。本記事では、その全問を5つのカテゴリに分けて解説します。
目次
この記事でわかること
- カスタマーハラスメントの「顧客等」「職場」の範囲(潜在顧客・近隣住民・訪問先も含まれる?)
- 相談窓口の設置・体制整備の実務的な疑問への回答
- パワハラ・セクハラに関する既存ルールの運用上の論点
- 求職者等セクハラ(2026年10月義務化)の対象範囲と対応方法
- 全ハラスメントに共通する「相談窓口」「参考人」の取り扱い
1. カスタマーハラスメント関係(問1〜問21)
カスハラの「顧客等」とは誰か
問1:まだ商品を購入していない、契約関係が発生していない者からの言動もカスハラに該当するか?
「潜在的な顧客」もカスハラの対象となる「顧客等」に含まれます。3つの要素(①顧客等の言動、②社会通念上許容される範囲を超えるもの、③労働者の就業環境を害するもの)をすべて満たす場合には、カスハラに該当します。まだ購入していないから関係ないとは言えません。
問2:今後顧客になることが想定されない、施設の近隣住民からの言動もカスハラに該当するか?
カスハラ防止指針において「施設の近隣住民」が顧客等の例として明示されています。将来的に顧客になるかどうかを問わず、3要素を満たせばカスハラになります。たとえば、近隣の住民が「うるさい」「営業をやめろ」と繰り返し従業員を怒鳴りつけるような場合が想定されます。
問3:業務で訪問した先(取引先・利用者の自宅等)で受ける言動もカスハラか?
「職場」には、労働者が業務を遂行する場所であれば、通常の事業所外も含まれます。取引先の事務所、顧客宅、施設・サービスの利用者宅(訪問介護・訪問看護等)も対象です。訪問先での迷惑行為についても、事業主は対応義務を負います。
「社会通念上許容される範囲」の判断基準
問4:社会通念上許容される範囲を超えているかどうか、どう判断するか?
「言動の内容」と「手段・態様」の両面から総合的に判断します。一方のみが範囲を超える場合も該当しえます。判断に際しては、言動の目的、経緯・状況、業種・業態、頻度・継続性、労働者の属性・心身の状況、行為者との関係性なども考慮します。また、事業主・労働者側の不適切な対応が原因・背景となっている場合もあることに留意が必要です。
問5:「無断での撮影」は一律にカスハラか?
カスハラ防止指針で「無断での撮影」は精神的攻撃の典型例として示されていますが、顧客による店舗内の撮影が全てカスハラになるわけではありません。たとえば「やめてください」と言われても撮影を続けるといった、3要素を満たすケースがカスハラに該当します。
問6:カスハラの該当性判断は都道府県労働局がしてくれるのか?
都道府県労働局は個々の事案についてカスハラ該当性の判断を行いません。事実関係の確認と判断は事業主の義務です。カスハラ防止指針の「職場におけるカスタマーハラスメントの内容」を踏まえて自社で対応する必要があります。
カスハラへの対処・体制整備
問7:カスハラの発生原因・背景を解消するには、どんな取り組みが必要か?
商品・サービス・接客における問題や顧客とのコミュニケーション不足が原因・背景になることがあります。具体的には、接客研修・苦情対応研修の実施、消費者心理・障害特性についての研修・資料配布などが有効です。防止措置としての方針策定と並行して、発生しにくい職場環境づくりの取り組みも重要です。
問8:カスハラへの対処方針は顧客等にも周知する必要があるのか?
カスハラ防止指針では、方針を顧客等にも周知することが「望ましい取組」とされています(義務ではなく努力目標)。店舗掲示、ウェブサイト掲載などが一般的な手段です。従業員だけでなく顧客側の意識醸成にもつながるため、積極的に取り組むことが推奨されます。
問9:顧客対応のない部署の従業員にもカスハラに関する方針周知・研修が必要か?
顧客対応のない部署も含めた全従業員への周知・研修が必要です。カスハラは直接対応する部署だけでなく、間接的に関与する可能性もあるためです。
更問:実際に社外の人と接する機会がある労働者にのみ、対処内容を周知すればよいか?
カスハラへの対処の内容(対応マニュアル等)については、実際に顧客等と接する機会のある労働者への周知が中心となりますが、組織全体での意識共有の観点から、全社的な周知が望ましいとされています。
録音・録画と個人情報保護の関係
問10:顧客等とのやり取りを録音・録画したものを、事実関係の確認にも使ってよいか?
カスハラへの対処として行った録音・録画は、事実関係の確認にも使用できます。ただし、使用にあたっては個人情報保護法の観点から適切な管理が必要です。
問11:録音・録画を行う場合、その場で顧客等に通知していなくても個人情報保護法上問題ないか?
個人情報保護法上、個人情報の利用目的はあらかじめ「公表」すれば足ります。その場での顧客への口頭通知がなくても、ホームページや店舗掲示等で利用目的を公表しておけば問題ありません。ただし事前の公表は必須です。
相談体制・窓口の整備
問12:カスハラの相談窓口はパワハラ・セクハラ等の窓口と同じでなければならないか?また部署の上司が受け付ける体制でよいか?
カスハラの相談窓口はパワハラ・セクハラ等と同一である必要はなく、別々でも構いません。また、まずは部署の上司が受け付ける体制とすることも可能です。ただし、相談者の利益保護の観点から、上司が相談窓口となる場合はプライバシー保護や不利益取扱いの禁止が確実に守られる仕組みが必要です。
問13:顧客が既に立ち去っており連絡先もわからない。どうやって事実確認すればよいか?
行為者に直接話を聞けない場合でも、相談者本人や目撃した従業員等から事実確認を行う必要があります。防犯カメラの映像や録音記録があればこれも活用できます。行為者に確認できないこと自体が、措置を怠る理由にはなりません。
問14:行為者の勤務先を把握しているが、プライベートな場面でのカスハラだった。その勤務先に協力を求める必要があるのか?
行為者がプライベートな場面で行った行為については、その勤務先の業務との関連性がないため、その勤務先への協力要請は不要です。
実務的な対応の判断
問15:従業員が1名の店舗で、管理監督者が代わりに対応したり行為者を引き離したりできない場合はどうすればよいか?
ワンオペ状況であっても、対応できる範囲での措置(一人での対応は危険と判断した場合の電話等での応援要請、警察への通報体制の確保など)を整えておくことが求められます。完全な対応が困難な状況でも、できる限りの体制を整備する姿勢が重要です。
問16:出入り禁止の方針を定めた場合、悪質な顧客には必ず出入り禁止にしなければならないか?
出入り禁止を「方針に定める」ことと、個々の事案に実際に適用するかは別問題です。事案の内容・程度に応じて判断することになり、全件に機械的に適用する義務はありません。
問17:特に悪質なカスハラへの対処方針は、通常の対処方針とは別に作成しなければならないか?
別文書として作成することは必須ではありません。通常の対処方針の中に「特に悪質な場合」の対応として盛り込む形でも問題ありません。
問18:法改正によって、事業主はカスハラ行為者にどのような対応が可能になるのか?
今回の法改正によって事業主に新たな法的権限が付与されたわけではありません。従来から可能だった対応(サービス提供の拒否、警察への通報、法的手続き等)をより明確に方針として定め、実行しやすくなる、という位置付けです。
問19:自社の労働者が取引先等に対してカスハラを行った場合、就業規則にカスハラ独自の懲戒規定が必要か?
カスハラ独自の規定がなくても、既存の懲戒規定(業務命令違反、信用失墜行為等)を適用することが可能です。ただし、カスハラを明確に禁止する旨の規定を設けておくことが望ましいとされています。
問20:行為者の勤務先に協力を求めたが応じてもらえない場合、都道府県労働局に相談できるか?
相談自体は可能です。ただし、労働局が他社に対して協力を強制する権限はありません。法令上、他の事業主は必要な協力に「努める」という努力義務が課されているにとどまります。
問21・更問:業界団体が作成したマニュアルを活用した場合、個別の措置義務を果たしたことになるか?
業界団体が策定したマニュアルを自社の労働者に周知することは有効な取り組みです。ただし、それだけで指針の措置を完全に果たしたことにはなりません。自社の実態に合わせた方針の明確化と周知を個別に行う必要があります。業界マニュアルはあくまで「ベースとなる素材」として活用するものです。
2. パワーハラスメント関係(問22〜問26)
※問22〜問26は令和8年4月24日から適用
問22:同僚や部下からの言動は「優越的な関係を背景とした言動」に該当しないか?
職場のパワハラは上司から部下への行為だけを指しません。同僚間であっても、業務上の関係性・状況によっては「優越的な関係を背景とした言動」に該当しえます。たとえば専門知識・経験・人間関係において優位に立つ者からの言動は、役職の上下にかかわらずパワハラになり得ます。
問23:「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」かどうかはどう判断するか?
言動の目的・内容・頻度・継続性、相手の状況、業種・業務の内容・性質など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断します。業務上の指導・注意と区別するためには、指導の必要性・相当性を具体的に検証することが重要です。
問24:性的指向・ジェンダーアイデンティティについてカミングアウトを強要(または禁止)する行為はパワハラか?
カミングアウトを強要する行為は、「個の侵害」に当たるパワハラになり得ます。また、アウティング(本人の了解なく暴露する行為)も同様です。一方、本人が望まないのにカミングアウトを禁止する行為もハラスメントにつながり得ることに留意が必要です。2026年10月からの指針改正でSOGIへの配慮が明確化されます。
問25:勤務時間外の懇親の場でのパワハラ相談も対応が必要か?
懇親の場であっても、参加がほぼ義務である場合等、実質的に職務の延長とみなされる場合は「職場」に含まれます。そのような場でのパワハラについて相談があった場合は、通常の職場内での相談と同様に対応する必要があります。
問26:パワハラの発生原因・背景を解消するための取り組みとは?
コミュニケーション不足や職場内の人間関係の問題、過度なプレッシャー、労働者同士の価値観の違いなどが背景にある場合が多いとされています。こうした背景を解消するための研修、職場環境のアセスメント、1on1の定期実施、外部相談窓口の活用などが有効です。
3. カスタマーハラスメント・パワーハラスメント共通(問27)
問27:「労働者の就業環境が害されたかどうか」はどう判断するか?
平均的な労働者の感じ方を基準とし、当該事案の具体的な状況(言動の内容・頻度・継続性・相手との関係性等)を総合的に考慮して判断します。これはカスハラ・パワハラの両方に共通する判断基準です。主観的な不快感だけでなく、客観的に見て就業環境が害されていると認められるかどうかが重要です。
4. 求職者等セクシュアルハラスメント関係(問28〜問37)
対象範囲の確認
問28:内定者へのセクハラはセクハラ防止指針と求職者等セクハラ防止指針のどちらで対応すべきか?
内定者は「求職者等」に含まれます。内定者に対するセクハラは、求職者等セクシュアルハラスメント防止指針で対応します。採用内定後であっても、労働契約が実質的に始まっていない段階は求職者等の扱いとなります。
問29:「求職者等」にはどのような者が含まれるか?小中学生の社会科見学参加者も含まれるか?
「求職者等」には、就職活動中の学生・インターンシップ参加者・OB/OG訪問を行う学生などが含まれます。小中学生の社会科見学のように、就職・採用との関連性がない場合は「求職者等」には含まれません。ただし、高校生・大学生が職業体験やインターンシップとして参加する場合は含まれます。
問30:「求職活動等」の範囲は?懇親会の場や求職活動時間外も含まれるか?
求職活動と実質的に関連する飲食や懇親の場も、参加がほぼ義務的な状況などでは「求職活動等」に含まれます。採用面接が終わった後の懇親会や、OB/OG訪問後の食事会なども含まれ得ます。
更問:「労働者と求職者等との関係性を考慮する」とは具体的にどういうことか?
求職者等は採用の可否を握る側(採用担当者・面接官)に対して弱い立場にあり、断りにくい状況に置かれやすいという関係性を考慮する必要があります。この非対称な力関係があることを踏まえ、より慎重な対応が求められます。
役員・外部からのセクハラ
問31:役員や事業主本人による求職者等へのセクハラをどう防止するか?
役員・事業主は「事業主が雇用する労働者」ではないため、措置義務の対象外となる部分もあります。しかし防止指針では、役員・事業主自身のセクハラ防止に向けた取り組みを行うことが「望ましい」とされています。役員向け研修の実施、行動規範への明記などが対応例として挙げられます。
更問:インターン中に取引先企業の労働者等から性的な言動を受けた場合はどう対応するか?
取引先等の外部の者からの言動については、求職者等セクハラ防止指針の直接的な措置義務の対象ではありませんが、インターン生を受け入れた事業主として、できる限り保護する対応(取引先への申し入れ、インターン中止等)を取ることが望ましいとされています。
具体的な対応方法
問32:自社製品に性的な内容を含むものがある場合、求職者等にそれを配布することは求職者等セクハラになるか?
自社製品を業務として説明・配布する場合は、「求職活動等におけるセクシュアルハラスメント」への該当性を総合的に判断する必要があります。内容・状況・態様によっては該当しえますが、単に商品を業務上配布すること自体が直ちに該当するわけではありません。
問33:「求職者等と面談等を行う際の規則」にはどのようなことを定めるとよいか?
複数の面接官が対応すること、密室での1対1面談を避けること、録音・録画の可否、面接後の個人的な連絡の禁止、SNSによる個人的なアプローチの禁止などを規則として定めることが考えられます。
問34:求職者等への相談窓口はどのような形で設置し、どう周知するか?
採用選考の案内や説明会の資料に相談窓口の連絡先を記載する、採用ページや自社ウェブサイトに掲示するなどの方法が有効です。既存の社内相談窓口と兼用することも可能ですが、求職者が利用しやすいアクセス方法を確保することが重要です。
更問:求職者等への相談窓口担当者は人事担当者以外の方がよいか?
求職者は採用担当者(人事)に対して率直に相談しにくい立場にあるため、人事担当者以外(外部委託を含む)が担当することが望ましいとされています。利益相反を避けるという観点から、独立性のある窓口体制が推奨されます。
問35:学生が求職活動中にセクハラを受けた場合、事業主の相談窓口と教育機関の窓口のどちらに相談するのが適切か?
どちらの窓口に相談してもよく、学生が相談しやすい方を選んで構いません。事業主としては自社窓口に相談があった場合に適切に対応する義務があります。教育機関と連携して対応する場合もありえます。
問36:採用面接官からの高圧的な言動(パワハラに類する行為)はどう対応するか?
求職者等セクシュアルハラスメント防止指針はセクハラを対象としており、パワハラ類似の行為を直接の対象としていません。ただし、こうした行為は社会的な信用失墜やレピュテーションリスクに直結するため、採用担当者向けの研修や行動規範の明確化で対応することが望まれます。
問37:定期的に採用活動をしていない場合でも全ての措置義務に対応する必要があるか?
採用活動の頻度にかかわらず、採用活動を行う可能性がある限り、全ての措置義務(相談窓口の設置・方針の明確化等)への対応が必要です。「採用がない時期だから不要」とは言えません。
5. セクシュアルハラスメント関係(問38〜問39)
※問38〜問39は令和8年4月24日から適用
問38:自社の労働者が取引先の社員から性的な言動を受けた場合、セクハラに該当するか?
取引先・顧客等の外部の者からの性的な言動も、就業環境を害する場合にはセクシュアルハラスメントに該当します。自社の労働者が他社の労働者からセクハラを受けた場合、事業主は相談に対応し、必要に応じて相手方の事業主に事実確認や再発防止への協力を求めることが求められます。
問39:同性に対する性的な言動はセクハラに該当しないか?
同性に対する性的な言動もセクシュアルハラスメントに該当します。セクハラは「性的な言動」に起因する問題であり、行為者・被害者の性別の組み合わせを問いません。また、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する言動(SOGIハラ)についても、2026年10月施行の指針改正でより明確に位置付けられます。
6. 全ハラスメント共通事項(問40〜問41)
問40:「相談に対応する担当者」と「相談窓口」は同じものか?
「相談窓口」は相談を受け付ける窓口(電話番号・メールアドレス・担当部署など)を指し、「相談に対応する担当者」は実際に相談に対応する人を指します。両者は別の概念ですが、実務上は一体で整備することが多いです。重要なのは、労働者が実際に相談しやすい体制が整っているかどうかです。
問41:調停のために召喚できる「その他の参考人」に顧客等や求職者等は含まれるか?
労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法上の調停において召喚できる「その他の参考人」に、顧客等や求職者等は含まれます。ただし、参考人として出頭を求めることができるかどうかは実務上の状況によります。
まとめ:2026年10月施行に向けた企業の対応チェックリスト
今回のQ&Aを踏まえると、企業が2026年10月1日までに対応すべき主な事項は以下のとおりです。
■カスハラ対策(新規義務)
- ・カスハラを容認しない旨の方針を明確化し、全従業員に周知する
- ・現場でのカスハラ発生時の対処マニュアルを策定・周知する
- ・カスハラに関する相談窓口(既存窓口との兼用可)を整備する
- ・相談者のプライバシー保護・不利益取扱い禁止を明文化する
- ・特に悪質な行為への対処方針(出入り禁止・警察通報等)を定める
■求職者等セクハラ対策(新規義務)
- ・採用関連ページ・説明会資料に相談窓口を明示する
- ・面談時の複数対応・密室回避等を規則として定める
- ・採用担当者・役員向けのセクハラ防止研修を実施する
■既存ハラスメント(パワハラ・セクハラ等)の運用見直し
- ・SOGIハラ・アウティングへの対応を方針・規程に追記する
- ・外部(取引先等)からのセクハラへの対応フローを整備する
- ・相談窓口と担当者の関係を整理・明文化する
参考情報
本記事は、厚生労働省が2026年4月24日に公表した「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年10月1日適用)をもとに作成しました。原文PDFは厚生労働省ウェブサイトから入手できます。
カスハラ対策や各種ハラスメント防止体制の整備にあたって、専門家や外部の相談窓口サービスを活用することも有効な選択肢の一つです。
