ストレスチェック57項目と80項目の違いとは?23・120項目も含めて徹底比較

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目次

ストレスチェックの調査票は「義務」と「種類」が別の話

ストレスチェックについて調べると「57項目」「80項目」という言葉が頻繁に出てきますが、「どの項目数から義務になるのか」という点で混乱される方が多いです。まずここを整理しましょう。

実施義務の対象

労働安全衛生法第66条の10により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は年1回以上のストレスチェック実施と、労働基準監督署への報告が義務付けられています(2015年12月施行)。報告義務を怠った場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

なお、2025年5月に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が公布され、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場にも義務が拡大されることが決定しました。施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、最長でも2028年5月までに全事業場が義務化される見込みです。

調査票の種類と義務の関係

法令上、使用する調査票の種類(項目数)は指定されていません。ただし次の3領域すべてをカバーし、かつ一定の科学的根拠があることが条件です。

  1. 仕事のストレス要因(業務負荷・裁量・対人関係など)
  2. 心身のストレス反応(精神的・身体的な自覚症状)
  3. 周囲のサポート(上司・同僚からの支援)

ただし、労働基準監督署への報告書(様式第6号の3)の作成には、57項目版以上の情報が事実上必要です。23項目版は3領域こそ満たすものの、報告書に必要なデータが揃わないケースがあります。実務上の最低ライン = 57項目版と理解しておくのが適切です。


4種類の調査票を一覧で確認

種類 正式名称 項目数 所要時間 位置づけ
簡略版 職業性ストレス簡易調査票(簡略版) 23項目 約3〜5分 努力義務・試験導入向け
標準版(推奨) 職業性ストレス簡易調査票 57項目 約5〜10分 厚労省推奨・義務対応の基本
拡張版 新職業性ストレス簡易調査票(簡易版) 80項目 約10〜15分 健康経営・組織改善向け
完全版 新職業性ストレス簡易調査票(標準版) 120項目 約20〜30分 研究・精緻分析向け

23項目版(職業性ストレス簡易調査票 簡略版)

概要

23項目版は57項目版を中小規模事業場向けに簡略化した調査票です。厚生労働省が公式に公開しており、57項目版から主要な設問を抜粋して構成されています。もともと「産業医の選任義務がない50人未満の事業場でも最低限の実施ができるように」という設計思想で作られています。

設問内訳の比較

領域 57項目版 23項目版
A. 仕事のストレス要因 17項目 6項目
B. 心身のストレス反応 29項目 11項目
C. 周囲のサポート 9項目 6項目
D. 満足度 2項目 0項目
合計 57項目 23項目

A. 仕事のストレス要因(6項目)の具体的な設問

仕事量・コントロール感を中心に絞り込んだ6問です。57項目版にある「身体的負荷」「職場環境(温度・明るさ)」「対人関係」「仕事の適性・やりがい」などはすべて省かれています。

  • ・非常にたくさんの仕事をしなければならない
  • ・時間内に仕事が処理しきれない
  • ・一生懸命働かなければならない
  • ・自分のペースで仕事ができる(逆転項目)
  • ・自分で仕事の順番・やり方を決めることができる(逆転項目)
  • ・職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる(逆転項目)

B. 心身のストレス反応(11項目)の具体的な設問

疲労・不安・抑うつなどの自覚症状を問う11問です。57項目版にある「頭が重い・頭痛」「首・肩・腰の痛み」「目の疲れ」「動悸・息切れ」などの身体愁訴は含まれていません。

  • ・活気がわいてくる/元気がいっぱいだ/生き生きする(ポジティブ指標3問)
  • ・怒りを感じる/内心腹立たしい/イライラしている(怒り3問)
  • ・ひどく疲れた/へとへとだ(疲労2問)
  • ・食欲がない(臨床的観点から追加)
  • ・よく眠れない(臨床的観点から追加)
  • ・悲しいと感じる(抑うつ1問)

C. 周囲のサポート(6項目)の具体的な設問

・上司・同僚・配偶者や家族から個人的な問題を相談したときにどの程度聞いてもらえるか、を問う6問です。

23項目版のメリット・デメリット

メリット

  • ・回答時間が約3〜5分と最短で従業員の負担が最も少ない
  • ・50人未満の事業場が制度を試験的に導入するのに最適
  • ・厚生労働省サイトからPDFを無料ダウンロードできる

デメリット

  • ・「職場の雰囲気」「作業環境」「対人関係」「仕事の適性」などが省かれており、ストレスの背景を深掘りしにくい
  • ・報告書作成に必要な情報が不足する場合がある
  • ・集団分析には不向き

向いている事業場:50人未満でまず試してみたい事業場、回答率を最優先したい事業場


57項目版(職業性ストレス簡易調査票)

概要

57項目版は厚生労働省が推奨する標準的な調査票で、「職業性ストレス簡易調査票」とも呼ばれます。2015年のストレスチェック制度義務化以降、最も多くの企業で採用されており、実務上の義務対応における基本形です。

設問内訳

領域 項目数 主な内容
A. 仕事のストレス要因 17項目 量的負担、質的負担、身体的負担、仕事のコントロール、技術の活用、対人関係、職場環境(温度・明るさ・騒音など)、仕事の適性・やりがい
B. 心身のストレス反応 29項目 活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴(目・首・肩・腰・胃・食欲・動悸・息切れ・頭痛・睡眠)
C. 周囲のサポート 9項目 上司・同僚・配偶者や家族からの情緒的サポート
D. 満足度 2項目 仕事への満足度、生活全般の満足度

高ストレス者の選定方法

57項目版では以下のいずれかに該当する場合、高ストレス者と判定します。

  • 領域B(心身のストレス反応)の合計点が77点以上(最高点:4×29=116点)
  • 領域AとCの合算が76点以上、かつ領域Bが63点以上

57項目版のメリット・デメリット

メリット

  • ・回答時間が約5〜10分と短く高い回答率を確保しやすい
  • ・採用企業が多く統計データが豊富なため同業他社・業界平均との比較が可能
  • ・高ストレス者の選定・労基署への報告に完全対応
  • ・厚生労働省の無料プログラムで集団分析(仕事のストレス判定図)が利用できる

デメリット

  • ・ハラスメント、ワークエンゲージメントなど近年重視される測定ができない
  • ・職場環境そのものの課題特定には情報量が不足しがち
  • ・集団分析でわかることが「全体傾向の把握」にとどまり具体的な改善策立案には限界がある

向いている企業:ストレスチェックを初めて導入する企業、義務対応を確実に行いたい企業、同業他社との比較を重視する企業


80項目版(新職業性ストレス簡易調査票 簡易版)

概要

80項目版は「新職業性ストレス簡易調査票(推奨尺度セット短縮版)」とも呼ばれ、57項目版に23項目を追加した拡張版です。近年の健康経営への関心の高まりとともに採用企業が急増しており、産業保健の現場では主流になりつつあります。

57項目版と80項目版の最大の違い

57項目版は個人のストレス状態の把握を主目的としているのに対し、80項目版は組織・職場環境レベルの課題の把握まで対象を広げています。

測定できること 57項目版 80項目版
個人のストレス状態
職場環境の問題 △(限定的)
ハラスメントの有無
上司のマネジメント
ワークエンゲージメント
組織風土・経営層との関係

追加された23項目の具体的な内容

追加カテゴリ 具体的な設問内容
情緒的負担・役割葛藤 感情を抑えて働かなければならない、矛盾した指示を受けることがある、など
仕事の資源(作業レベル) 仕事を通じて成長できている、自分の仕事に誇りを持てる、スキルを活かせている、など
仕事の資源(部署レベル) チームで協力して仕事ができている、上司から適切なフィードバックを受けている、など
仕事の資源(事業場レベル) 経営層が従業員の健康を大切にしている、会社の目標・方針を理解できている、など
ワークエンゲージメント 仕事によって生活が充実している、仕事に誇りを持っている、仕事に熱中している、など
ハラスメント 上司・同僚から不当な扱いを受けることがある、精神的に追い詰められることがある、など
上司のマネジメント 上司は部下の意見を尊重する、上司は部下の仕事を適切に評価する、など

80項目版のメリット・デメリット

メリット

  • ・ハラスメント・マネジメント・エンゲージメントを一度に測定できる
  • ・集団分析の精度が格段に上がり部署ごとの具体的な改善策を立案しやすい
  • ・健康経営優良法人の認定申請に活用できるデータが得られる
  • ・管理職向けのフィードバックや研修プログラムの設計に直結する

デメリット

  • ・回答時間が約10〜15分と長くなり従業員の負担が増す
  • ・厚生労働省の無料Webシステムが80項目版に対応していないため外部サービスや自社の分析環境が必要
  • ・データ解析・活用には専門的な知識・体制が必要

向いている企業:健康経営優良法人の認定を目指す企業、ハラスメント対策・組織改善に本格的に取り組む企業、産業医や外部専門機関と連携できる体制がある企業


120項目版(新職業性ストレス簡易調査票 標準版)

概要

120項目版は「新職業性ストレス簡易調査票(推奨尺度セット標準版)」であり、57項目版に63項目を追加した最も詳細な調査票です。全部で42尺度を測定しますが、80項目版が各尺度1〜2項目で構成されているのに対し、120項目版は各尺度2〜5項目で構成されており、測定精度が大幅に向上します。

尺度数の変化:57項目版(20尺度)→ 80項目版(42尺度・各1〜2問)→ 120項目版(42尺度・各2〜5問で精度向上)

80項目版からさらに追加される設問領域

E・F領域(仕事と職場についての詳細)

  • ・仕事への動機・使命感の有無
  • ・上司による適切なフィードバックと承認行動(部下の貢献を言語化して伝えているか)
  • ・成長機会・キャリア形成支援の状況
  • ・職場内の心理的安全性(意見を言いやすい雰囲気か)
  • ・仕事のやりがい・自分の存在意義の実感

G領域(会社・組織について)

  • ・人事権の行使に関する説明の透明性・納得感
  • ・経営層との距離感・関係性
  • ・評価制度の公正性・納得感
  • ・会社のビジョン・方針への共感

H領域(仕事の状況・成果について)

  • ・自分の仕事の成果が可視化されているか
  • ・仕事に対する達成感・充実感の有無
  • ・役割に対する手応えと負荷のバランス

120項目版のメリット・デメリット

メリット

  • ・42尺度を精度高く測定でき、職場環境の課題を最も正確に把握できる
  • ・組織改善のための原因特定と対策立案に最も役立つデータが得られる
  • ・研究・学術目的での活用にも対応できる信頼性がある

デメリット

  • ・回答に約20〜30分かかり従業員の負担が最も大きい
  • ・解析・活用には高い専門性と分析体制が必要
  • ・法定のストレスチェック実施で使われることはほぼなく現場導入には重すぎる
  • ・無償の実施システムがなく外部委託が前提となる

向いている場面:職場環境の学術研究・大規模組織調査、産業保健の専門家が精緻な分析を行う場合、健康経営を高度化したい大企業の専門チームによる活用


4種類の一覧比較表

調査票 時間 義務 高St選定 無料版 集団分析 ハラスメント等
23項目 3〜5分
57項目 5〜10分 ○※
80項目 10〜15分
120項目 20〜30分

※57項目が実務上の義務対応の最低ライン


57項目版と80項目版 どちらを選ぶべきか

「義務対応のため」なら57項目版、「組織改善・健康経営のため」なら80項目版が、コストと効果のバランスが最もよい選択です。

57項目版が向いているケース

  • ・ストレスチェックを初めて導入する企業
  • ・従業員の回答負担をできるだけ抑えたい
  • ・同業他社や全国平均との比較データを活用したい
  • ・高ストレス者の早期発見と面談対応を主目的としている
  • ・分析・活用の社内体制がまだ整っていない

80項目版が向いているケース

  • ・健康経営優良法人の認定を目指している
  • ・ハラスメント対策を定量的に把握・評価したい
  • ・ワークエンゲージメント向上を経営課題として取り組んでいる
  • ・管理職のマネジメント改善につながる集団分析を行いたい
  • ・産業医や外部専門機関と連携した分析・フォローアップ体制がある

ステップアップのすすめ:迷った場合は、まず57項目版で制度を定着させ、産業保健の体制が整ったところで80項目版に切り替えるアプローチも合理的です。


集団分析・健康経営への活用

57項目版での集団分析

57項目版では「仕事のストレス判定図」(量-コントロール判定図・職場の支援判定図)を使った集団分析が可能です。厚生労働省の無料プログラムで実施でき、部署ごとのリスク把握と職場環境改善の優先順位づけに役立ちます。

80項目版での集団分析

80項目版では57項目版の集団分析に加え、ハラスメントの発生リスク・上司のマネジメント評価・ワークエンゲージメントスコアも部署・チーム単位で可視化できます。管理職向けのフィードバックや研修設計、人事施策の立案にも直結するデータが得られます。


よくある質問(FAQ)

Q. 23項目版でも法定のストレスチェックとして認められますか? A. 3領域を含んでいるため、ストレスチェックを実施したとはみなされます。ただし労働基準監督署への報告書作成に必要な情報が不足する場合があるため、義務対応の観点からは57項目版以上の使用を推奨します。

Q. 義務化されているのは何項目の調査票ですか? A. 法令上、項目数の指定はありません。3領域をカバーした科学的根拠のある調査票であれば何項目でも構いません。ただし実務上は57項目版が義務対応の事実上の最低ラインとなっています。

Q. 50人未満の事業場はいつからストレスチェックが義務になりますか? A. 2025年5月に改正労働安全衛生法が公布されており、最長2028年5月までに義務化される見込みです。施行日は政令で別途定められます。
→別コラム:ストレスチェック2028年すべての企業で義務化

Q. 80項目版は57項目版の完全な上位互換ですか? A. 情報量は多いですが、必ずしも全企業にとって「上位互換」とは言えません。分析・活用の体制が整っていない場合、57項目版の方が運用コストと効果のバランスが良いこともあります。

Q. 年度途中で57項目から80項目に変更できますか? A. 年度内の変更は推奨されません。次年度からの切り替えとし、衛生委員会での審議を経ることが必要です。

Q. 57項目版に独自の設問を追加することはできますか? A. 可能です。ただし衛生委員会での審議と実施者の意見聴取が必要で、追加項目には科学的根拠が求められます。なお、性格検査・うつ病スクリーニング・希死念慮を問う設問の追加は不適切とされています。


まとめ:調査票選びのポイント

調査票 位置づけ 強み 注意点
23項目 簡易版 負担最小 報告書に不足
57項目 標準形 バランス良 組織課題に限界
80項目 健康経営版 集団分析◎ 専門体制が必要
120項目 研究用 精度最高 導入には重い

ストレスチェックの調査票選びに「正解」はありません。「何のために実施するか」を明確にしたうえで、従業員の回答負担・分析体制・活用目的のバランスを見て選ぶことが重要です。


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参考:厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票」「新職業性ストレス簡易調査票について」「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要(2025年)」