人事はストレスチェックの実施事務従事者になれる?個人結果を見てよい人・見てはいけない人を徹底解説

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ストレスチェックを社内で運用していると、「高ストレスと判定された社員を人事部が把握してもよいのか」「人事担当者が調査票の回収やデータ入力をしても問題ないのか」「社長は結果を確認できるのか」といった疑問がよく寄せられます。

ストレスチェックの個人結果は、心身の状態にかかわる非常にデリケートな健康情報です。取り扱いを誤れば法令違反となるおそれがあるだけでなく、「会社に知られるなら正直に答えられない」という不信感を生み、制度そのものが形骸化してしまいます。

この疑問を解くカギは、「個人結果を見られるのは誰なのか」というルールにあります。本記事では、ストレスチェックに関わる役割を整理したうえで、人事担当者や社長が実施事務従事者になれるのか、なった場合にどこまで個人結果を見てよいのかを、労働安全衛生規則と厚生労働省の通達・マニュアルに沿って順番に解説します。

この記事でわかること

□ ストレスチェックの個人結果を本人の同意なく見られるのは誰か

□ 人事担当者・人事部長が実施事務従事者になれる条件

□ 社長・代表取締役がストレスチェックで担える役割

□ 実施事務従事者になった人事担当者が守るべきルール

□ 面接指導の申出時の情報の扱いと、外部委託という選択肢

 

目次

ストレスチェック制度に関わる3つの役割

まずは、ストレスチェック制度に関わる主な役割を確認しておきましょう。「誰が個人結果を見てよいか」は、この役割分担によって決まります。

■ ①実施者:医師・保健師などの有資格者

実施者になれるのは、医師、保健師、そして厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師に限られます。実施者はストレスチェックの実施について専門的な責任を負い、調査票の選定や評価方法の決定、結果の評価、高ストレス者の選定、本人への結果通知などに関与します。ストレスチェックを行ううえで、実施者は必ず置かなければならない存在です。

■ ②実施事務従事者:実施者の指示で事務を補助する人

実施事務従事者は、実施者の指示のもとで、調査票の配布・回収、データ入力、結果の通知、個人情報の保管・管理といった事務作業を補助する人です。特別な国家資格は必要ありません。なお、実施者が事務作業をすべて自ら担当する場合には、実施事務従事者を別に置く必要はありません。

■ ③事業者側の制度担当者:社内で制度運営を担う人

制度担当者は、企業の中でストレスチェック制度の運営を担う人です。実施日程の調整、社内への周知や受検案内、受検状況の把握、実施体制の整備などを担当します。人事部や総務部の担当者が就くケースが多い役割ですが、後述のとおり、制度担当者であることを理由に個人結果を見ることはできません。

個人結果を本人の同意なく見られるのは「実施者」と「実施事務従事者」だけ

ここが本記事でもっとも大切なポイントです。

ストレスチェックの個人結果や高ストレス判定を、本人の同意なく取り扱うことができるのは、実施者と、適法に選ばれた実施事務従事者に限られます。しかも、いずれも実施業務のうえで必要な範囲に限って取り扱うことができる、という位置づけです。産業医についても、実施者などとして関与している場合には確認が可能です。

これに対して、一般の人事担当者、総務担当者、人事部長、社長・代表取締役、そして社員の上司や管理職は、原則として個人結果を見ることはできません。先ほどの制度担当者も同様です。「人事部でストレスチェックを担当している」という立場だけでは、個人結果を見る権限はないことを押さえておきましょう。

立場

本人の同意なく個人結果を見られるか

実施者(医師・保健師など)

見られる(実施に必要な範囲)

実施事務従事者

見られる(実施者の指示のもと、業務に必要な範囲)

産業医

実施者などとして関与している場合は見られる

制度担当者

見られない

一般の人事・総務担当者

見られない

人事部長・社長・代表取締役

見られない

上司・管理職

見られない

 

■ 例外は「本人の同意」がある場合

例外は、本人が同意した場合です。本人が適切な方法で同意すれば、事業者は実施者から個人結果の提供を受けることができます。

注意したいのは同意を取るタイミングです。この同意は、結果が本人に通知された後に、本人の意思を確認して取得する必要があります。受検前や受検時にまとめて同意を取っておく方法は認められていません。自分の結果を知らないまま「会社への提供に同意する」ことは、本人の意思に基づく判断とはいえないためです。

つまり、本人の同意がない状態で人事担当者が個人結果を取り扱えるのは、人事担当者自身が実施事務従事者になっている場合だけということになります。そこで問題になるのが、「人事担当者は実施事務従事者になってよいのか」という点です。

人事担当者はストレスチェックの実施事務従事者になれるのか

結論から申し上げますと、人事担当者であっても、一定の条件を満たせば実施事務従事者になることができます。

■ 判断基準は労働安全衛生規則第52条の10

ポイントになるのは、労働安全衛生規則第52条の10です。この規定では、ストレスチェックを受ける労働者について、解雇、昇進または異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、ストレスチェックの実施の事務に従事してはならないと定められています。

さらに厚生労働省の通達では、ここでいう「直接の権限」には、人事を最終的に決定する権限だけでなく、人事について一定の判断を行う権限も含まれるとされています。あわせて、人事を担当する部署に所属していても、こうした権限を持たない人は該当しないことも示されています。

つまり判断の基準は、「人事部に所属しているかどうか」ではありません。「対象となる社員の人事について、決定や判断を行う権限を持っているかどうか」です。

■ 一般の人事・労務担当者の場合

一般の人事・労務担当者や、給与計算・勤怠管理を担当している方で、社員の解雇・昇進・異動について決定する権限や一定の判断を行う権限を持たない場合は、原則として実施事務従事者になることができます。

■ 人事部長・人事責任者の場合

人事部長については、肩書きだけで一律に判断するのではなく、実際にどのような権限を持っているかで判断します。社員の解雇・昇進・異動について決定や一定の判断を行う権限を持つ人事責任者は、その社員に対するストレスチェックの実施事務に従事することはできません。

■ 「人事部」以外の部署が人事を担っている場合

これは、部署の名前が「人事部」でない場合も同じです。特に中小企業では、管理部や総務部が人事業務を兼ねていることがよくあります。部署名が人事部でなくても、社員の解雇・昇進・異動について一定の判断を行う権限を持っている方は、実施事務従事者になることはできません。反対に、部署名にかかわらず、こうした権限を持たない方であれば実施事務従事者になることができます。

実施事務従事者を選ぶ際のチェックポイント

□ 対象社員の解雇・昇進・異動を決定する権限を持っていないか

□ 人事評価の一次評価や異動案の作成など、人事について一定の判断を行う立場にないか

□ 肩書きや部署名ではなく、実際の職務権限で確認したか

□ 選任した理由や権限の有無を記録として残しているか

 

社長・代表取締役は実施事務従事者になれるのか

では、社長や代表取締役の場合はどうでしょうか。結論としては、社長・代表取締役は原則として実施事務従事者になることはできません。

社長や代表取締役は、通常、社員の解雇・昇進・異動について最終的な決定権を持つ立場にあります。そのため、労働安全衛生規則第52条の10の制限に該当すると考えられます。ただし、ここでも肩書きだけで機械的に判断するのではなく、対象となる社員に対する実際の人事権限によって判断することになります。

実施事務従事者になれないということは、本人の同意がない限り、社長は個人結果を見ることができないということです。実施事務従事者から個人結果を受け取ることもできません。また、本人の同意を得て取得した個人結果であっても、不当な人事評価や配置転換など、従業員に不利益な取り扱いをする目的で利用することは認められません。

■ 社長がストレスチェックで担うべき役割

とはいえ、社長がストレスチェックに一切関われないわけではありません。経営者には、次のような大切な役割があります。

・ストレスチェックの実施方針を決め、社内に表明する

・実施計画や実施体制を承認・整備する

・社員に受検を呼びかけ、安心して回答できる雰囲気をつくる

・外部委託会社と契約し、必要な予算を確保する

・個人が特定されない集団分析の結果を活用し、職場環境の改善に取り組む

 

制度の運営に責任を負うことと、個人結果を見ることは別のものです。経営トップが「本人の同意なく、個人結果が会社に提供されることはない(法令に基づく面接指導の申出などの場合を除く)」と明言することは、受検率や回答の正確さを高めるうえでも大きな意味を持ちます。

人事が実施事務従事者になった場合、個人結果はどこまで見てよいのか

人事担当者が適法に実施事務従事者として選ばれた場合、個人結果や高ストレス判定を取り扱うことができます。ただし、それは「人事担当者として見てよい」ということではありません。あくまで「実施事務従事者として、実施者の指示のもとで、業務に必要な範囲で見てよい」ということです。

■ 実施事務従事者が守るべき5つのルール

・個人情報は、実施業務に必要な範囲でのみ取り扱う

・実施者の指示に従って業務を行う

・業務で得た情報を、人事評価・昇進・異動などの判断に流用しない

・業務上知り得た秘密を守る(実施事務従事者には法律上の守秘義務が課されています)

・本人の同意なく、個人結果を社長や上司、人事部内のほかの担当者に伝えない

 

守秘義務は、ストレスチェックの実施事務に従事した人に対して労働安全衛生法で定められているもので、違反した場合には罰則の対象となります。異動や退職で担当を外れた後も、在任中に知った情報を漏らしてはならない点にも注意が必要です。

■ 社員の不安への配慮も欠かせない

人事担当者が実施事務従事者になること自体は違法ではありません。しかし、人事という立場上、社員からは「結果が評価に影響するのではないか」と受け止められやすいのも事実です。

社内の担当者を選ぶ場合には、こうした社員の不安にも配慮することが大切です。たとえば、実施事務従事者の氏名や役割、個人結果の保管場所とアクセスできる人の範囲、人事評価には一切利用しないことなどを社内規程に定め、受検前に周知しておくと安心感につながります。人事評価と担当業務を明確に切り分け、データへのアクセス権限を限定するといった運用面の工夫も有効です。

高ストレス者が面接指導を申し出た場合の情報の扱い

もう一つ、本人の同意によって事業者が結果を知ることになる場面があります。高ストレスと判定された社員が、医師による面接指導を申し出た場合です。

面接指導は、社員が事業者に申し出ることで実施されます。事業者は、申し出た社員が面接指導の対象者に該当するかどうかを確認する必要があるため、面接指導の申出があった場合には、その社員のストレスチェック結果を事業者に提供することについて、本人の同意があったものとして扱われます。

厚生労働省のマニュアルでも、結果通知の際に「面接指導を申し出た場合は結果が会社に提供されること」をあらかじめ社員に伝えておくことが示されています。社員が知らないうちに結果が会社に渡ることがないよう、結果通知書や案内文に明記しておきましょう。

■ 不利益な取り扱いの禁止

面接指導の結果に基づいて医師の意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮や作業の転換などの就業上の措置を講じることは、事業者の義務です。その一方で、次のような理由で解雇や不当な配置転換などの不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

・面接指導を申し出たこと

・面接指導を申し出なかったこと

・ストレスチェックを受検しなかったこと

・個人結果の事業者への提供に同意しなかったこと

 

面接指導の申出は、社員が自らの健康を守るための大切な行動です。申出をためらわせるような運用になっていないか、定期的に見直すことが求められます。

個人情報の管理に不安があるなら「外部委託」という選択肢

ここまで見てきたように、社内で実施事務従事者を置く場合には、人事権の有無の確認や情報管理の徹底など、注意すべき点が多くあります。そこで有効なのが、ストレスチェックの外部委託です。

■ 外部委託した場合の役割分担

外部委託をする場合、委託先の会社が医師などの有資格者を実施者として配置し、必要に応じて実施事務従事者も置きます。そのうえで個人結果や高ストレス判定を適切に管理し、本人への結果通知や、高ストレス者への面接指導の案内などを行います。

一方、委託元の企業では制度担当者を設置し、社員への周知や受検案内、受検状況の確認を行います。そして、集団分析の結果を活用して職場環境の改善に取り組みます。本人の同意なく個人結果を取得することはありません。

■ 外部委託のメリット

・企業側が社員の個人結果を直接取り扱わない体制をつくれる

・実施事務従事者の選任や権限確認にかかる社内の負担を減らせる

・「本人の同意なく、個人結果が会社に提供されることはない(面接指導の申出などの場合を除く)」と明確に説明でき、社員が安心して正直に回答できる

・集団分析の専門的な読み解きや、職場環境改善の提案を受けられる

 

2025年の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務とされてきた従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が2028年に義務化されます。社内に専門スタッフがいない中小企業ほど、外部委託によって適正な実施体制を整える意義は大きいといえるでしょう。

よくある質問(FAQ)

  1. 人事部の担当者が高ストレス者の名前を知ることはできますか? 本人の同意がない限り、原則として知ることはできません。例外は、その担当者が人事権を持たない立場で適法に実施事務従事者に選ばれ、実施者の指示のもとで業務上必要な範囲で取り扱う場合と、高ストレス者本人が面接指導を申し出た場合です。
  2. 受検前に「結果を会社に提供すること」への同意を一括で取ってもよいですか? 認められていません。同意は、本人に結果が通知された後に、本人の意思を確認して個別に取得する必要があります。
  3. 社長が集団分析の結果を見ることは問題ありませんか? 個人が特定されない形で集計された集団分析の結果であれば、事業者が活用できます。ただし、集計対象の人数が少ないと個人が推測されるおそれがあるため、原則として10人未満の集団については、対象者全員の同意がない限り、集団分析の結果を事業者に提供することはできません。ただし、個人が特定されるおそれのない方法で集計・分析した場合には、同意なく提供できる例外があります。

例えば、7人の部署でストレスチェックを実施した場合、個人が特定されるおそれがないことを確認したうえで、57項目の評価点の総計について7人分の平均値のみを算出し、会社に提供する方法が考えられます。この方法では、個人ごとの回答内容や評価点、高ストレス者の人数などは提供せず、部署全体の平均値のみを共有するため、個人の結果が特定されるリスクを抑えることができます。

また、「仕事のストレス判定図」を用いる方法も例外として認められています。これは、57項目のうち「心理的な仕事の負担(量)」「仕事のコントロール度」「上司からのサポート」「同僚からのサポート」という4つの尺度について、それぞれ3問の評価点を合計し、部署全体の平均値を算出することで、職場のストレス状況や健康リスクを分析する方法です。個人ごとの結果を示すのではなく、職場全体の傾向を把握することを目的としています。

ただし、これらの方法であっても、例えば2人しかいない部署など、極端に少人数の場合は個人の結果が推測されるおそれがあるため不適切です。また、10人未満の集団分析を行う場合には、分析方法や対象人数について、あらかじめ衛生委員会等で調査審議し、社内規程に定めて従業員に周知する必要があります。

4. 実施事務従事者になった人事担当者が、知り得た情報を人事評価に使うとどうなりますか? 情報の目的外利用にあたり、不利益な取り扱いとして問題になるほか、守秘義務違反として罰則の対象となる可能性があります。社員の信頼を大きく損なう行為でもあり、絶対に避けなければなりません。

まとめ:個人結果の取り扱いルールを守り、社員が安心して受検できる体制を

最後に、本記事のポイントを整理します。

・本人の同意なく個人結果を取り扱えるのは、実施者と実施事務従事者だけ

・一般の人事担当者や社長は、本人の同意なく個人結果を見ることはできない

・人事担当者でも、社員の人事について決定や一定の判断を行う権限がなければ、実施事務従事者になれる

・社長・代表取締役は、通常は人事の決定権を持つため、原則として実施事務従事者にはなれない

・人事担当者が実施事務従事者になっても、個人結果を見てよいのは業務上必要な範囲に限られ、人事評価などに利用してはならない

・外部委託をすることで、個人情報の管理体制を明確にできる

 

ストレスチェックは、社員のプライバシーが守られているという安心感があってこそ、本来の効果を発揮する制度です。担当者の役割と情報の取り扱いを正しく整理し、社員が安心して受検できる体制を整えていきましょう。

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ミーデン株式会社では、医師などの有資格者によるストレスチェックの実施から、高ストレス者への面接指導、集団分析を活用した職場環境改善のご支援まで、一貫してサポートしております。社内での個人情報の取り扱いに不安がある企業様や、実施体制の見直しをご検討中の企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。