高ストレス者が産業医面接を申し出る割合はなぜ低いのか|原因と企業が取るべき対策を解説

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ストレスチェックで「高ストレス者」と判定された従業員のうち、実際に医師による面接指導を申し出る人は驚くほど少ないのが現状です。厚生労働省の委託調査によれば、高ストレス者のうち面接指導の申し出割合が5%未満にとどまる事業場は全体の76.8%にのぼります。10%以上の申出率を達成している事業場は、わずか10.3%に過ぎません。

また、産業医による面接指導を実際に受けた割合を事業場規模別に見ると、50〜99人規模の事業場で0.8%、100〜299人で0.7%、300〜999人で0.6%、1,000人以上で0.5%と、いずれの規模でも1%を下回る水準です(厚生労働省「ストレスチェック制度の実施状況(平成29年)」)。

高ストレス者は全体の10〜15%程度とされているにもかかわらず、そのうち面接指導を受けるのはわずか1%未満です。この大きなギャップはなぜ生じるのでしょうか。本記事では、申し出率が低い理由を構造的に整理し、企業として申し出率を上げるための実践的な対策を解説します。


ストレスチェックの面接指導とは何か

まず制度の基本を押さえておきましょう。

面接指導とは、ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者が「申し出」をした場合に、医師(産業医等)が実施する面談のことです(労働安全衛生法第66条の10第3項)。申し出があった場合、事業者はおおむね1カ月以内に実施する義務があります。

重要なポイントは、面接指導はあくまで「本人の申し出」が起点であるという点です。高ストレス者と判定されたからといって、会社が強制的に面談に呼び出すことはできません。これが申し出率の低さと深く関係しています。

面接指導の目的は、過労やストレスを背景とする脳・心臓疾患やメンタル不調の未然防止です。高ストレス者を早期にキャッチして適切なケアにつなげるための制度であり、ストレスチェック制度の実効性を担う最も重要なステップといえます。


申し出率が低い5つの構造的な理由

1. 会社に知られることへの恐怖

申し出をためらう最大の理由が、「職場の人に高ストレスだと知られたくない」という心理です。

ストレスチェックの個人結果は本人の同意なしに事業者に渡ることはありません。これは法律で定められた重要な保護措置です。しかし、多くの労働者はこの仕組みを十分に理解しておらず、「面接を申し込んだこと自体が上司や人事に伝わる」と誤解しているケースが少なくありません。

また、申し出たことで「メンタルが弱い」「仕事ができない」と思われるのではないかという烙印効果(スティグマ)も大きな障壁になります。職場でのキャリアや評価への影響を心配するあまり、助けを求めることを避けてしまうのです。

2. 不利益取扱いへの不安

面接指導を申し出ることで、人事評価が下がる、昇進が遅れる、または配置転換を命じられるのではないかという不安も、申し出を抑制する大きな要因です。

実際には、高ストレス者であることや面接指導を受けたことを理由とした不利益取扱いは法律で禁止されています。しかし「法律でそう決まっているから大丈夫」と実感できる職場環境が整っていなければ、不安が払拭されることはありません。

特に日本の職場では、メンタルヘルスに関する情報の開示に対して依然として高い心理的ハードルがあります。会社が本当に自分を守ってくれると信じられない限り、申し出には至りにくいのが現実です。

3. 面接指導そのものへの誤解・情報不足

「面接指導を受けるとどうなるのか」が従業員にきちんと伝わっていないことも大きな要因です。

「精神科に行くことと同じではないか」「診断がついてしまうのではないか」「何か問題があると記録に残るのではないか」といった誤解が申し出を妨げています。面接指導はあくまでも予防的な面談であり、診断や治療を行うものではありませんが、この事実が十分に周知されていない企業は少なくありません。

さらに、そもそも自分が「高ストレス者」の判定を受けたこと、つまり面接指導を申し出る資格があることを意識していない人も一定数います。結果通知が届いても、その意味や次のステップを理解できていないケースもあります。

4. タイミングと手続きのハードル

申し出の期限(結果通知から1カ月以内)や申し出の方法がわかりにくいことも、申し出率を下げる要因となっています。

忙しい業務の中で、わざわざ申し出書を書いて提出する、あるいは人事部や産業医室に連絡を取るというアクションは、心理的・物理的な負担を伴います。ストレスが高い状態にある人ほど、こうした「一歩踏み出す」行動が難しくなりがちです。

「後でやろう」と思っているうちに1カ月が経過してしまうケースも少なくありません。

5. 職場文化・管理職の姿勢

管理職や職場の雰囲気が、面接指導の申し出しにくさに直結することもあります。

たとえば、上司が「このくらいのストレスは当たり前だ」「気持ちの問題だ」という姿勢を持っていると、部下は声を上げにくくなります。あるいは、職場全体がメンタルヘルスの問題を「弱さ」として見る文化があると、面接指導を申し出ることは事実上困難になります。

職場の心理的安全性が低い環境では、制度がどれほど整備されていても機能しません。


申し出率の低さが引き起こすリスク

面接指導の申し出率が低いまま放置することは、企業にとっても深刻なリスクとなります。

メンタル不調の深刻化・休職リスク 高ストレス状態を放置すれば、うつ病適応障害などのメンタル不調が進行し、休職や退職につながる可能性が高まります。早期介入の機会を逃すほど、復職までの期間も長くなる傾向があります。

安全配慮義務違反のリスク 企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。高ストレス者を把握していながら適切な対応をとらなかった場合、万が一労災が発生した際に企業の責任を問われる可能性があります。面接指導の申し出率を上げる取り組みをしていなかった事実は、義務を怠っていた証拠にもなりえます。

生産性の低下と組織へのダメージ 高ストレス状態の従業員はパフォーマンスが低下し、欠勤や遅刻が増え、周囲の従業員への悪影響も生じやすくなります。早期に対処することが、チーム全体の生産性を守ることにもつながります。


企業が申し出率を上げるために取るべき6つの対策

対策1:面接指導の目的・内容を丁寧に説明する

高ストレス者への結果通知と同時に、面接指導とは何か、誰に何が伝わるのか、申し出ることで不利益が生じないことを、具体的かつわかりやすく伝えることが最初の一歩です。

文書での説明だけでなく、全従業員を対象とした研修や説明会で、ストレスチェック制度全体の流れと面接指導の位置付けをあらかじめ周知しておくことも重要です。「いざ高ストレス判定を受けた時」に初めて知るのでは対応が遅くなります。

対策2:申し出の手続きを簡略化する

申し出書の書式を簡単にする、メールやオンラインフォームで申し出できるようにするなど、手続きの物理的ハードルを下げることが効果的です。

産業医室や人事部への直接連絡だけでなく、外部の相談窓口(EAP等)を通じて申し出ができる仕組みを整えることも、プライバシーへの安心感につながります。

対策3:実施者による積極的な勧奨

ストレスチェック制度の実施者(産業医・保健師等)は、高ストレス者に対して面接指導の申し出を勧奨することができます。勧奨は義務ではありませんが、積極的に活用することで申し出率が上がることがわかっています。

勧奨の方法は書面だけでなく、電話や面談での個別の声かけが効果的です。「あなたの状況を医師に相談してみませんか」という一言が、申し出のきっかけになることがあります。

対策4:プライバシー保護の仕組みを可視化する

「申し出ても上司や人事にはわからない」ということを、制度として明文化し、従業員が確認できる形で示す必要があります。

たとえば、「面接指導の申し出と実施の事実は、産業医・実施者の守秘義務の対象であり、事業者に通知されない」ことを就業規則や社内ガイドラインに明記し、入社時研修や毎年のストレスチェック実施前の説明に組み込むことが有効です。

対策5:不利益取扱いの禁止を明確にする

「高ストレスと判定されたこと」「面接指導を申し出たこと」「面接指導を受けたこと」を理由とした不利益取扱いが禁止されていることを、就業規則に明記し、管理職にも周知・徹底することが求められます。

さらに、違反した管理職への対応方針も示しておくことで、「言葉だけでなく本気で取り組んでいる」という組織のメッセージを従業員に伝えることができます。

対策6:外部の相談窓口・EAPを活用する

社内に相談しにくい従業員でも、外部の専門機関(EAP:従業員支援プログラム)を通じたカウンセリングや相談であれば会社に高ストレスであることを開示する必要がないため、ストレスチェック後の最適なフォローになります。外部EAPを導入し、ストレスチェック後のフォローアップ窓口として活用することで、面接指導への橋渡し役としての機能を持たせることができます。

また、医師以外の産業保健スタッフ(保健師等)との相談を先行させることも有効です。いきなり医師に会うことへの心理的ハードルを下げ、その後の面接指導申し出につなげるステップアップ的なアプローチが効果を発揮することがあります。


「申し出率」だけを目標にしてはいけない

最後に重要な視点を一つ加えておきます。

申し出率を上げることは確かに重要ですが、それ自体を数値目標にして「申し出率〇%を達成すること」に注力するのは本末転倒になりかねません。

高ストレス者が面接指導を申し出やすくなる職場とは、そもそも従業員がメンタルヘルスについてオープンに話せる環境があり、困ったときに助けを求めることが「当然のこと」として受け入れられている職場です。

面接指導の申し出率は、職場の心理的安全性のバロメーターでもあります。申し出率を上げる取り組みは、結果として職場全体のメンタルヘルス文化を底上げすることにつながります。


まとめ

高ストレス者が面接指導を申し出る割合が低い背景には、スティグマ・不利益取扱いへの不安・情報不足・手続きのハードル・職場文化という5つの構造的な要因があります。これらは「個人の問題」ではなく「職場環境・制度の問題」です。

企業が取るべき対策は、面接指導の目的の丁寧な説明、手続きの簡略化、積極的な勧奨、プライバシー保護の可視化、不利益取扱いの明文禁止、外部EAP・相談窓口の活用の6点に整理できます。

2028年のストレスチェック義務化拡大を前に、制度を形式的に実施するだけでなく、面接指導が機能する環境を整えることが、企業の安全配慮義務を果たすうえでも、従業員のメンタルヘルスを守るうえでも不可欠な取り組みとなっています。