職場や学校へ行けなくなる6つの精神疾患
更新日:2024年11月25日
職場や学校に、「行きたいのに、行けない」、「行かなくてはならないと分かっているのに、行けない」、こういう精神状態を「出社不能」とか、「不登校」と呼びます。出社不能では、有給休暇を使い果たしても休んでしまったり、「明日は必ず行きます」と連絡しておきながら、結局欠勤してしまい、本人だけでなく、仕事に穴をあけられる職場も困ってしまいます。
出社不能や不登校の原因は、その人のパーソナリティーと、職場や学校の環境が合っていない、不適応です。例えば、池で優雅に泳いでいる鯉を海に放てば、呼吸ができなくなり死んでしまいます。海では無敵のサメを池に放てば、やはり呼吸ができなくなり死んでしまいます。人を含めて生き物には、生きていける場所と生きて行けない場所があるのです。自分で選べないことを「ガチャ」と呼びますが、運悪く、ガチャで自分に向いていない場所に追いやられるのが不適応です。
30年くらい前までは、このような精神状態が理解されず、原因はその人の「気の弱さ」、「怠け」と考えられていました。「行けない」のでなく、「行かない」という意味で、「出社拒否」、「登校拒否」という言葉が使われていました。
4月に新年度が始まってから、5月から6月にかけては、出社不能や不登校になる人がたくさんいます。職場や学校の環境を調整したり、転職や転校することで、多くは解決できることですが、背後に何らかの精神疾患が隠れている場合は、医療的なサポートが必要です。
それでは、どのような精神疾患で職場や学校へいけなくなるのでしょうか?今回は、「職場や学校へ行けなくなる6つの精神疾患」を紹介しましょう。
1. 心身症
嫌なことを我慢し続け、辛い気持ちに蓋をしていると、体の調子が悪くなります。例えば、「学校へ行こうとすると頭やお腹が痛くなる」、「会社にいると下痢が止まらなくなる」と言ったものです。症状はだんだんつよくなり、ついに職場や学校へ行けなくなります。このように、ストレスが原因で体の不調が出るのが心身症です。
人によって症状は異なり、喘息、咳などの呼吸器症状、腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状、頭痛、腰痛などの痛み、蕁麻疹などの皮膚症状など様々です。主に自律神経系に出るので、自律神経失調症とも言われることがあります。血液検査やレントゲンなど、体の検査をしても、大きな異常がみつからないのが特徴です。
2. うつ病・適応障害
不適応から元気がなくなり、気分が落ち込む病気です。「朝が起きられない」、「体が重くて動けない」、「力が出ない」といった理由から、職場や学校へ行けなくなります。「眠れない」、「食欲がない」などの体の症状があるのも特徴です。うつ病も適応障害もほぼ同じ病気と考えられますが、ストレスの原因がはっきりしており、症状が軽いものを適応障害と呼びます。
子供でもうつ病や適応障害になります。大人よりも、機嫌の悪さ、反抗的な態度が目立つのが特徴です。「朝起きられないので、学校へ行けない」という訴えで、小児科を受診すると、ほとんどが「起立性調節障害」と診断されます。これは血圧をコントロールできなくなる病気のことですが、無気力、機嫌が悪いといった心の症状があるならば、うつ病や適応障害の可能性があるでしょう。
3. 発達障害
発達障害とは、脳神経の発達の遅れにより、勉強・対人関係・生活習慣などに問題が起きるものです。具体的には、「勉強についていけない」、「友達ができない」、「けんかが多い」、「落ち着きがない」、「遅刻や忘れ物が多い」、といったことが起きます。周りとペースが合わなかったり、いじめを受けることもあり、心身症・うつ病・適応障害の大きな原因になります。
中学生までに気づかれることが多いのですが、成績に問題がないと、社会に出るまで気づかれません。すると、職場で仕事の失敗やコミュニケーションのトラブルが起きることがあります。それが原因でうつ病や適応障害になることがあり、職場へ行けません。
4. パニック症
パニック発作と呼ばれる、不安の発作に襲われる病気です。精神的に追い詰められた状況や、混雑した乗り物、狭い部屋など、逃げられないような空間でも起きます。激しい動悸、息切れ、めまい、発汗などが起こり、このまま死んでしまうのではないかと恐怖を感じます。長い期間、ストレスの多い生活を続けているのが大きな原因の一つです。
再び発作が起きることが不安になるため、乗り物に乗れなくなり、職場や学校へ行けなくなります。徐々に行動範囲が狭くなり、ひきこもりになるケースがあるでしょう。
5. 社交不安症
人前で必要以上に緊張してしまう病気です。大勢の前で恥をかくような出来事がきっかけで発症することがあります。会議やミーティングなどの人前で話す、会食、知らない人の集まりに参加する、などができなくなり、ついには職場や学校へ行けなくなることがあります。パニック症と同じで、行動範囲が狭くなり、ひきこもりになるケースもあるでしょう。
6. 統合失調症
「悪口が聞こえる」、「誰かに監視されている」、といった幻聴や妄想の病気です。元気がなく、無気力な感じはうつ病と間違われやすいですが、自分の殻に閉じこもって、ぼうっとした印象を受けます。自分から幻聴や妄想のことは言わないまま、職場や学校へ行かなくなることがあり、周りは何が起きているのか理解できません。
職場や学校へ行けなくなるには必ず理由があります。その人と環境が合っていない不適応が原因です。動物を狭い檻に閉じ込めたら、病気になってしまいます。檻から出してやらない限りは、元気になりません。出社不能や不登校がある場合、その人でなく、まずは周りの環境を変えなくてはいけません。
職場や学校の調整や、転職や転校をしても解決しない場合は、今回紹介したような病気の可能性があります。「気が弱い」、「怠け」ではありません。無理やり「行こうとする」、「行かせようとする」のでは問題をこじらせるだけです。精神科では薬の治療法もありますので、専門家に相談してみましょう。