うつ病の回復過程を段階ごとにわかりやすく解説

更新日:2023年12月1日

どんな病気であっても、ある日突然ケロッと良くなることはありません。段階を踏みながら、時間をかけて少しずつダメージから回復して行きます。病気それぞれに回復の道筋があり、心の病気も例外ではありません。それでは、うつ病ではどうでしょうか?

うつ病の場合は、発病から「初期」「急性期」「回復期」と、大きく3つの期間を通過します。治療を始めてからは、半年から1年くらいかけて回復するでしょう。出発点である発病の時期はハッキリしていないことが多く、ここから少しずつ元気がなくなってくるのが初期です。この時期に病気に気づくことができるのは稀で、そのまま無理を続けてしまい、急性期に突入します。

急性期では、つよい不安や気持ちの落ち込みを感じ、普段通りの生活が送れなくなります。病気への自覚が出てくるため、ほとんどの人は、ここから治療や休養を始めるでしょう。

治療を開始して1カ月から3カ月くらいで急性期が終わり、回復期に入ります。気分は悪くないけれども、気力や集中力に欠けて、十分に動けない期間です。少しずつ回復して、半年くらいすると、ようやく本来の生活に戻ることができます。ここから仕事を再開できるのです。

しかし、ここで治癒したとは言いません。とりあえず症状がなくなって安定したという意味で寛解(かんかい)という言葉を使います。なぜなら、働けるようになっても、その後の1年間で再発する人が半数以上もいるためです。ですから、回復期を抜けた後も予防の服薬を続けます。この期間は「安定期」とか「再発予防期」と呼ばれています。

今回は、うつ病が治る道筋を、初期、急性期、回復期、安定期のそれぞれの段階に分けてさらに詳しく説明しましょう。

 【うつ病の回復過程】

1 初期

元気がなくなり、土日に休んでも回復しない時期です。体調が悪く、「疲れかな?」「怠けかな?」と感じます。何とか仕事を続けられているので、病院に通うことは考えません。

ただし、暗い表情をしていたり、怒りっぽくなったり、仕事のミスが増えたりなどから、周りの人が異変に気付くことがあります。気づいた人に指摘されて、病院を受診し、仕事内容を軽くしてもらったり、長めの休養をとるなどの指導をしてもらい、改善に向かうことがあります。

しかし、そのままの生活を続ける人の方が多く、何かのきっかけで急激に状態が悪くなって急性期に移行します。

   

2 急性期

不安感、気持ちの落ち込みがつよく、病気の自覚が出る時期です。特に不眠症や食欲の低下が現れるのが大きなサインです。

病院を受診すると、仕事を休むことと薬の治療を勧められます。不眠症や食欲の低下がある場合は、薬なしではほとんど回復しません。「薬を飲むのが怖い」と、服薬を断る患者さんもいますが、処方される薬は、大きな副作用はなく、麻薬のように依存症になってやめられないものでは決してありません。難しい手術やリハビリをするのでなく、たった数粒の薬を飲むだけで病気が治るのならば、ラッキーと考えましょう。

基本的に抗うつ薬が処方されますが、痛み止めや風邪薬と違い、飲んですぐに効果が出てきません。2週間程度してから徐々に効果が現れてきます。そのために、不安や不眠症にすぐに効果がある抗不安薬や睡眠薬が一緒に処方されることがあります。

急性期を抜け出るには、早い人で1カ月くらい、合う薬が見つかるのに時間がかかった場合は3カ月くらいかかります。食べて寝るだけの生活ですが、それが回復につながります。睡眠や食欲が回復し、不安感や落ち込みがなくなってきたら、次の回復期に入ったと考えましょう。

10%くらいの人に、回復期を通り越してしまい、元気になり過ぎる人もいます。おしゃべりになって、1日中落ち着きなく動き回り、買い物のし過ぎ、けんかなどのトラブルも増えます。これは躁状態です。うつ病ではなく、双極性障害・双極症の可能性があるでしょう。

3 回復期

睡眠や食事が安定し、規則正しい生活が送れるようになる時期です。不安感や心配事が減るようになり、気分は悪くないのですが、気力や集中力がないために、まだまだ働けません。1日無理をすると数日寝込んでしまいます。雨の日にイライラしたり、家族に言われた一言で落ち込んだりと、日によって体調が変化します。

ただし、少しずつ体が動くようになり、全体としては、3歩進んで2歩下がるといった感じで回復します。部屋が散らかっていたことに気づくようになり、片づけを始められたら回復期の大きなサインです。しばらく遠ざかっていた音楽や動画などのエンタメにふれるようもなって行きます。このような回復期は平均して半年くらい続き、働けるのは、次の安定期に入ってからです。

全体に良くなってくる回復期は、安心して薬を飲むのが不定期になったり、やめてしまうことが多い時期でもあります。抗うつ薬をやめると、数週間後に急性期に戻ることがあります。薬は命綱と考えて、体調が良くなっても飲み続けましょう。長く飲んでも問題はありません。

回復期は、半年くらいと言いましたが、それ以上かかる人もいます。何年もこの状態が続く場合もあり、回復は人それぞれですので、焦らず過ごしましょう。集中力や気力が出てきて、家にいることに退屈を感じるようになると安定期に入ります。

4 安定期・再発予防期

仕事を始める時期です。ただし、全員がスッキリした状態で仕事を再開できるわけではありません。職場の事情や経済的な理由があって、仕方なく仕事を始める人もたくさんいます。こうした事情もあって、半分の人が1年以内に再発するというデータもあります。ともかく、余計な仕事は受け入れない、無駄な人付き合いは避ける、など背伸びをしない生活を守りましょう。また、薬で再発を予防できるので、最低1年間は通院を続けます。

仕事に戻って1年以上たっているのに、薬をやめると具合が悪くなることもあります。薬を飲んでいれば、普段通りの生活ができるのならば、うつ病は治ったと考えても良いでしょう。あとは、期限を決めずにゆっくり薬を減らしていくだけです。

 最後に

うつ病の治る過程を紹介しましたが、それぞれの過程にはきちんと境界線が引けないのが普通です。また、一つの過程がずっと続いてしまっているケースもあります。特に回復期や安定期がずっと続いて、薬を何十年と飲んでいる人もたくさんいます。人は機械でないので、理論通りにいかないものです。

うつ病は、生きるエネルギーが枯れてしまった状態とも言えます。治療を受けていても、うつ病がこじれている人は、なかなか心の充電ができない人と言えるかも知れません。心の栄養をきちんととれていないために、うつ病に傾きやすい生き方になっているのです。心の栄養とは、日々の安心感やよろこびです。生活に安心感やよろこびがない状態で無理をしていると、心の栄養不足となり、生きるエネルギーも枯れて行ってしまうのです。

一番良くないのは、「いついつまでに病気を治して、元通りに働かなくては」と考えることです。そこには、義務感と焦りしかなく、安心やよろこびはありません。早く元気になろうとして、心に良くないことをしているのです。「闘病中に安心もよろこびもあるはずがない」と言う人もいるかも知れませんが、日々ほんの少しの安心感、ささやかな喜びを見つけてみることから始めてみてください。「カフェでおいしいコーヒーを飲んでいる時に安心感」「趣味に没頭することがよろこび」「犬と触れ合っている時が幸せ」といった感じです。

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