相談窓口を設置する重要性!!社内相談窓口と社外相談窓口の特徴を解説
更新日:2024年1月31日
日本では会社でのパワハラ、セクハラ、マタハラなどのハラスメント行為、メンタルヘルス不調が社会問題になっています。そして、社内でのハラスメント行為やメンタルヘルス不調を相談し、改善につなげるために重要な機関が相談窓口です。
また、相談窓口には社内相談窓口と社外相談窓口の2種類があります。今回は、社内・社外相談窓口の違い、メリット・デメリット、社内相談窓口の設置手順などを解説します。
社内相談窓口とは
社内相談窓口は、企業のオフィス内に設置し、ハラスメント行為やメンタル不調、人間関係、職場環境などの相談に対応する機関です。社内相談窓口を導入する企業は年々増加しており、法律の改正による影響も大きく受けています。
ハラスメントやメンタル不調などを相談する窓口
社内相談窓口はハラスメント行為やメンタル不調の相談窓口として、主に従業員からの悩みに対応する機関です。企業にもよりますが、カウンセラーを雇用し、体調不良や人間関係、職場環境まで幅広く対応しているケースもあります。
社内相談窓口の有無は従業員のメンタルヘルスに加え、エンゲージメントにも影響を与えています。企業としてハラスメント行為を許さないという意思表示になり、従業員からの信頼につながりやすいからです。
また、社内相談窓口は従業員のメンタルヘルスやエンゲージメントだけでなく、企業イメージの改善にも効果的です。しっかりと機能することが前提ですが、企業の取り組みとして対外的なイメージ改善にもなります。
パワハラ防止策の義務化により設置する企業が増加
日本ではすべての企業でパワハラ防止策が義務化され、相談窓口を設置する企業が増えています。
労働安全衛生法第69条では、事業者は従業員が健康に働ける環境を整備し、メンタルヘルスの維持・改善に努めることも義務付けられています。また、2020年6月1日には改正労働施策総合推進法が施行されました。
さらに、2022年4月1日からは中小企業においても、パワハラ防止策が義務付けられており、相談窓口の設置が必須になっています。法律で義務化されただけでなく、社会的にもハラスメント行為には厳しい目が向けられ、企業にとって重要課題の1つになっています。
ハラスメント行為の啓発活動も実施
社内相談窓口の活動について見ていくと、従業員からの相談を受け付けるだけでなく、社内での啓発活動も業務の範囲に入ります。
日本企業では以前から上司によるパワハラ、性的に不快な言動をするセクハラ、妊娠・出産・子育てに関するマタハラが問題になっています。従業員がハラスメント行為の加害者または被害者にならないためには、ハラスメント行為への意識を高めることが重要です。
社内相談窓口では啓発活動として、従業員向けの教育のほか、管理者や経営層向けの教育も行います。経営層もハラスメント行為について理解しなければ、適切な防止策が取れないからです。
そのため、社内相談窓口は企業内に配置されますが、ある程度独立した立場であることが求められます。
ハラスメント行為とはどのようなものか
ハラスメントという言葉には「人を困らせる」「いじめ」「嫌がらせ」などの意味があります。では、具体的にハラスメント行為はどのようなものが該当するのか、種類やそれによって生じる損害をご紹介します。
精神的ダメージや強い不快感を与える行為
ハラスメントとは、上司から部下、同僚同士からの精神的な嫌がらせや不快感を与える行為です。より具体的には、業務上必要な範囲を逸脱した言動や命令などがハラスメントに該当します。
例えば、殴る・蹴るといった身体攻撃のほか、罵声を浴びせるといった精神攻撃、一人だけ除け者にするといった人間関係の切り離しもハラスメント行為です。
また、特定の従業員に対する過大な要求、逆に能力に見合わない過小な要求、プライベートの侵害もハラスメントとされています。ただし、業務上必要な命令はハラスメントには該当しないため、明確な線引きが難しい部分もあります。
法的に定義されているハラスメントは5種類[優名1]
ハラスメントの種類は非常に多いですが、日本の法律で明確に定義されているハラスメントは5種類です。
l パワハラ(労働施策総合推進法)
l セクハラ(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)
l マタハラ(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)
l パタハラ(育児・介護休業法)
l ケアハラ(育児・介護休業法)
上記の5つはそれぞれ行政法で定義されています。罰則としては、悪質なケースで厚生労働大臣からの助言・指導または勧告と、企業名が公表されます。
ハラスメントを放置すると生じる損害
明確な罰則規定はないと説明しましたが、ハラスメントのレベルによっては刑法上の犯罪と認定されることもあります。
ハラスメントはその悪質性に応じて、企業秩序違反行為、行政法上のハラスメント該当行為、民法上の不法行為(権利侵害)、刑法上の犯罪の4段階に分類されます。
民法上の不法行為であれば損害賠償請求、刑法上の犯罪のレベルと判断されれば損害賠償請求に加え、社会的制裁も加えられるでしょう。そのため、ハラスメントに気付きながら放置する、または防止策を講じなかった時は企業に大きな損害が生じます。
社内相談窓口と社外相談窓口の違い
企業の設置する相談窓口には、社内相談窓口と社外相談窓口の2種類があります。それぞれの違いを説明します。基本的には、社内相談窓口、社外相談窓口どちらも設置することが望ましいとされています。
社内相談窓口
社内相談窓口は自社でカウンセラーなどを雇用して設置する専用の相談窓口です。社内に窓口が置かれることから、従業員がすぐに相談しやすく、早急な対応がしやすいという特徴があります。
社内に相談員が常駐していることから、何か問題があった際もすぐに人事などと連携がとりやすいのも良い点と言えます。社内に設置する場合は、個人の秘密が漏えいしないように対策することと、相談したことが周囲にわからないように配慮することが重要です。
窓口の設置自体は難しくないことから、ある程度規模の大きい企業であれば、社内相談窓口も設置しやすいでしょう。
社外相談窓口
社外相談窓口は名前の通り、会社内に相談窓口を設置するのではなく、外部に依頼して相談窓口を設置することを言います。オフィス内に窓口を設置できない、または専門の人材確保が難しい場合におすすめです。
社外相談窓口はメンタルヘルス・ハラスメントの専門家がチームで対応することから、手厚い対応、医療機関との提携など、安心して会社側は任せることができます。また、個人情報が漏えいするリスクが低く、会社との癒着関係が発生しにくいという特徴があります。
また、専門家による具体的なハラスメント防止策やメンタルヘルス不調者への対応など職場改善の提案も期待でき、第三者の視点から対策できる点も優れています。中小企業が社内相談窓口を設置するのはコスト面でも負担になりやすいため、社外相談窓口のほうが適しているケースも多いです。
理想は社内にも社外にも相談窓口を設置する
社内相談窓口と社外相談窓口には、それぞれ違った特徴があり、それぞれのデメリットをカバーできるため、どちらも設置することが推奨されています。しかし、専用の部屋を用意したりカウンセラーを雇用したりなど、社内で相談窓口の設置をしようとすると費用がかかります。大企業ほど金銭的な余裕がない場合は、外部機関に委託することがおすすめです。
社内相談窓口のメリット・デメリット
社内相談窓口の設置を進める前に、どのようなメリット・デメリットがあるか知ることは重要です。メリット・デメリットの双方の観点から解説します。
社内相談窓口のメリット
社内相談窓口は企業のオフィス内に窓口に設置し、従業員が好きな時間に利用できるメンタルヘルス・ハラスメントの相談窓口です。社内相談窓口には次のメリットがあります。
l 相談員が会社側と連携を取りやすい
l 社内状況を理解しているため、相談員が相談者の悩みを理解しやすい
l 社内の状況を調査しやすい
l 従業員はいつでも相談できる
l 社内での啓発活動が実施しやすい
l 専属産業医、産業保健スタッフと連携が取りやすい
相談員を自社雇用していることから、産業医とともに衛生委員会などに参加することもメリットと言えます。
相談員は社内状況をよく理解しており、相談者の悩みを理解しやすい点もメリットです。共通の認識を持ったうえで、悩みに共感し、相談員も自分のこととしてメンタルヘルス不調・ハラスメント対策が実施できます。
また、社内に相談窓口があれば従業員は悩みをいつでも相談でき、気軽に相談できる点もメリットです。相談員の立場からしても、社内でのハラスメント対策と研修による啓発活動がしやすく、メンタルヘルス不調の早期発見・対応が可能になります。
社内相談窓口のデメリット
社内相談窓口にはいくつかのデメリットもあります。特に公平性や相談者・相談員の双方の心理的負担から次のデメリットが考えられます。
l 立場上、公平性が保ちにくい
l 費用面で負担が多い
l 情報漏洩の可能性がある
l 環境をきちんと整備しないと、相談しづらい環境になる
l チームでの対応が難しくなる。
社内相談窓口を設置する場合、きちんとした部屋や従業員が相談していることを周りに分かりづらい体制づくりが必要です。そのため中小企業では、きちんとした体制作りができないと言えます。また、相談員を何名雇用するかにもよりますが、少数でのチームで対応しなくてはならないことや、医療機関との連携がうまく取れないこともあります。
相談を受けたとしても、経営陣や上司からの命令があれば、個人情報の漏えいにつながるリスクも高いです。また、相談員として必要な知識が不足しやすい点も問題です。
何よりも社内での相談窓口は、従業員が他の従業員に何か相談をしていることがわからないようにすることが大切です。きちんとした体制が整っていない場合、そもそも相談窓口としての機能を果たしていないというケースも多く見受けられます。
社外相談窓口のメリット・デメリット
会社の外部に相談窓口を依頼し、第三者の立場から相談を受け付けるのが社外相談窓口です。どのようなメリット・デメリットがあるのかご紹介します。
社外相談窓口のメリット
社外相談窓口には次のメリットがあります。
l 会社に相談したことを知られる心配がない
l 従業員が相談しやすい
l 費用負担が少ない
l 専門スタッフがチームで対応するため、対応が手厚い
l 専門的な立場から職場改善指導をもらえる
l 専門の相談員が相談を行う
l 企業の人事・労務担当者の負担が少ない
l 具体的かつ的確な予防策が期待できる
社外相談窓口を置く最大のメリットは、従業員の相談内容や相談した人の個人情報が会社に漏れる心配がほとんどない点です。従業員が安心してメンタル不調やハラスメントの悩みを相談しやすいのが何よりの利点です。
また、社内で相談窓口を設置するよりも、外部機関に依頼する方が費用負担が少なります。
社内で相談員を雇用する場合、週何回来てもらうかによりますが、1人あたり十数万~の費用+専用の部屋を用意しなくてはなりませんが、外部機関では、それ以下での金額で何名もの専門家に任せられるという点で費用面では大分差があります。
相談窓口の設置は法律で定められた義務であり、専門家である社外相談窓口の存在は企業イメージの向上、コンプライアンス意識の改善にもつながります。
他にも、専門家がチームで対応するため、適切な対応、医療機関へのリファー、具体的な職場改善指導などを受けられるという利点があります。
社外相談窓口のデメリット
社外相談窓口には次のデメリットがあります。
l 会社に知られることなく相談できる分、問題が見えづらくなる
l 社内状況が見えないため、職場状況をリアルタイムで追いづらい
会社に知られることなく相談できるため、会社側に問題が見えづらい点があります。また、個人が望まなければ、会社側に相談内容を開示することはないため、会社側は社外相談窓口に対して、意義を感じられなくなってしまう可能性もあります。
しかし、従業員のプライバシーを保護する観点から、これは仕方のないことと言えます。アメリカでは、メンタルヘルス対策・相談窓口を外部に委託するEAP機関を導入している企業は9割と言われていることから、日本でもメンタルヘルス対策や相談窓口を外部に委託する企業が多くなっていくでしょう。
社内相談窓口を設置する際の手順
社内相談窓口を設置する場合、設置・運営にあたって決めておくべきこと、体制整備などが必要です。どのような手順で行うのか解説します。
社内相談窓口の運用ルールと方針を決める
社内相談窓口を設置するには、まず運用ルールと方針の決定から始めます。組織内の安全衛生委員会などで労働環境改善の会議を開催し、運用の骨子を決定しましょう。
具体的な運用ルールを定める際は、従業員へのアンケートを行い、相談窓口に求める役割、どのような相談をしたいかなどを具体的に調査します。そのうえで、各職場の管理者からも現状を聴取し、組織内の課題を明確にしてください。
基本的には従業員の抱える問題を解決することを前提に、必要なら啓発活動の実施や外部機関との連携も視野に入れるのがよいでしょう。
人員を確保して体制を整備する
社内相談窓口の基本方針やルールが決まったら、次は相談員となる人員確保と体制整備です。社内相談窓口として迅速に対応していくには、以下の内容も決めることが重要です。
l 担当者の決定
l 担当者向けの研修の実施
l 相談時間・場所・方法の決定
l 予約制にする場合は予約システムの構築
l 産業医・保健師・社会保険労務士などとの連携
上記は基本的な内容です。このほかにも、社内相談窓口の運営方針に応じて、医療機関や保健機関との連携も考慮しましょう。
従業員への周知を行う
運営体制が構築できたら、従業員に対して相談窓口の存在を周知します。対応できる相談内容、対応する人、予約体制、相談後の対応なども明らかにすることが重要です。
そして、最も重要なポイントは情報の秘匿性を確保していることです。社内相談窓口には人間関係の悩みやハラスメントの訴え、メンタルヘルス不調など他人に知られたくない個人情報が集まります。
従業員が最も心配する点は、上司や経営者に訴えた人物が漏れてしまうことです。情報が漏れる相談窓口では、従業員は安心して利用できません。
従業員に周知する際は、秘密厳守である点を理解してもらうことが円滑な運用において重要なポイントです。
社外相談窓口を選ぶ際の注意点
社外相談窓口を選ぶ際は、選び方にも注意しなければ十分な対策効果が得られません。どのような注意点があるのか4点ご紹介します。
費用とサービス内容が適正なものを選ぶ
社外相談窓口は企業の従業員数、サービス内容によって、費用が大きく変動します。
そのため、自社における課題は何かを明確にしたうえで、費用とサービス内容が適切な相談窓口を選ぶことがポイントです。注意したいのは「費用が高額≠サービスが適正」という点です。
委託先によって得意分野の違いやサービスに違いがあるため、費用が安くても自社のニーズに応えてくれる相談窓口もあるでしょう。費用とサービス内容を比較して、最適な社外相談窓口を選ぶことが大切です。
専門性の高いスタッフがいる相談窓口を選ぶ
社外相談窓口には様々なタイプがあるため、在籍しているスタッフの専門性も異なります。例えば、公的な相談窓口だけでも、個別労働紛争、カスタマーハラスメント・就活ハラスメント、人権、メンタルヘルス、労災補償などがあります。
そのため、自社のニーズと合わない相談窓口を選ぶと、相談しても十分な効果がなく、課題解決にもつながらない可能性が高いです。社外相談窓口を選ぶ際は、複数の窓口をチェックし、専門性の高いスタッフが在籍している相談窓口を選択しましょう。
セキュリティ対策が整備されている
社外相談窓口のメリットの1つは、情報の秘匿性の高さです。社内相談窓口では、秘密にしていてもどこかから情報が漏れ、相談した内容を知られるリスクが常にあります。
一方、社外相談窓口は信頼を維持するためにも、厳重なセキュリティ対策をしているのが一般的です。
企業との利害関係がない
社外相談窓口選びでは、自社と利害関係や自社と関係性の深い人物がいないことも重要なポイントです。自社と関係性のある相談窓口では、従業員の相談内容が企業の管理者や経営者に漏れ、不利益な扱いを受ける可能性があるからです。
利害関係とは、自社の親会社または子会社のグループに属していること、経営者の親族が所属していることなどが挙げられます。従業員にとっての相談窓口は、働くうえでの悩みや問題を吐き出し、解決策につなげてもらうための拠り所です。
利害関係の有無は非常に重要なポイントですから、事前に細かな点まで調査しましょう。
社内・社外相談窓口の設置に関するよくある質問
社内・社外相談窓口を選ぶ際によくある質問をご紹介します。
相談窓口を設けると問題は増えますか?
相談窓口を設置したことで増える問題は、元々従業員が潜在的に持っていた不満や悩みから出るものです。つまり、問題が増えるのではなく、表面化するだけです。
相談窓口は従業員からの相談を受け付け、必要なら個人へのアドバイスや企業への解決策提案も行います。問題が顕在化するのであれば、早期に対処することが企業のコンプライアンスとしても正しいでしょう。
ハラスメントとメンタルヘルスの相談窓口はそれぞれ分けて設けたほうがいいですか?
ハラスメント問題、メンタルヘルス問題は切っても切れない問題です。相談窓口を設置する際に、ハラスメントはAの窓口、メンタルヘルスはBの窓口と分けていると従業員に混乱が起きてしまいます。よくあるケースがメンタルヘルス不調を訴えてきた従業員が実はハラスメントによる不調だったというケースがあります。ですので、窓口をそれぞれ設けるというよりも、どちらも対応できる相談窓口を探すのが適切でしょう。
社内相談窓口と社外相談窓口を併用するメリットはありますか?
社内と社外のそれぞれを併用すると、従業員が安心して相談窓口を利用できます。社内相談窓口は利用しやすさというメリットはありますが、専門性の不足や情報漏えいの不安があります。
社内相談窓口のデメリットを補完する形で、社外相談窓口も利用すれば、従業員は気兼ねなく好きな相談窓口を選択できるようになるでしょう。
まとめ
今回は社内相談窓口・社外相談窓口について、役割や違い、メリット・デメリットなどを解説しました。相談窓口の設置は、2022年4月1日から日本のほとんどの企業で義務化されています。
ハラスメント行為やメンタルヘルス不調は、一見しただけでは判明しにくい問題です。しかし、実際にハラスメント被害を受けている従業員や、メンタルヘルス不調で体調を崩す従業員にとっては、すぐにでも解決してほしい問題でもあります。
企業としてのコンプライアンス意識も問われる重要な課題ですから、相談窓口の設置または委託は早急に行うべきです。ハラスメントやメンタルヘルスの問題を改善し、誰もが働きやすい職場づくりを進めましょう。