「精神疾患」「精神障害」「精神病」の違い

 更新日:2023年8月9日

  普段当たり前に使っている言葉でも、詳しい意味を知らないことはよくある話です。特に病気に関する言葉には専門用語も多く、よく目にするけれども正確な使い方がよく分からない言葉がたくさんあります。例えば、「精神疾患」、「精神障害」、「精神病」はどれも心の病気を指しているように思えますが、違いはあるのでしょうか?また、パニック障害とパニック症のように、同じ病気なのにどうして「障害」と「症」があるのでしょうか?今回は、心の病気に関する間違いやすい言葉を説明しましょう。

 

まず基本的なことから説明しますが、心の病気のことを正しくは精神疾患と言います。疾患とは病気という意味です。そして、精神疾患によって社会生活に支障が出ている状態のことを精神障害と言います。ところが、同じ「しょうがい」という読み方なのに別の漢字を使って「障碍」とか、ひらがなを使って「障がい」と書かれることがあります。一体どれが正しいのでしょうか?

 

「精神疾患」、「精神障害」、「精神病」の違い

1 3つの「しょうがい」

障害とは、病気やケガによって本来の機能や能力がうまく使えない状態を言います。昭和の初めまでは、「不具(ふぐ)」、「廃失(はいしつ)」という言葉が多く使われていましたが、差別的な意味合いがつよいという理由で、1950年の身体障害者福祉法で「障害」を使うことが定められました。この時から、心の病気で社会生活に支障がでることを精神障害、精神障害のある人は精神障害者と呼ぶことになったのです。

ところが、人権や差別への意識が高まるにつれ、「害」という文字が偏見につながると言われるようになりました。害は、害虫か公害とか悪いものに使われます。障害者が社会の害であるというイメージになることを心配したのです。2000年以降には、国が専門家を集めて検討し、害を「碍(がい)」という別の漢字を使う案や、ひらがなにしようとする案が出ました。そもそも、中国や韓国などの漢字をつかう国では「障碍」と書きます。ただし、「碍」は常用漢字でなく、日本人があまり使わないことや、ひらがなにすると意味が通じなくなるなどの意見もあり、現在でも決着はついていません。将来的には中国や韓国のように「障碍」になると思いますが、どれを使っても間違いではありません。3つの書き方があるという不思議な状況なのです。

 

2 「障害」、「病」、「症」の違い

病気の名前は、原因や経過などの正体がきちんと分かっている場合に「~病」とつけられるのが基本です。また、同じ症状をもっているいくつかの病気は、一括(ひとくく)りにして「~症」とか「~症候群」と呼ぶことがあります。精神疾患に関しては、正体が完全に解明されていないものが多く、同じ症状があっても、いくつかの病気の集合体である可能性があるため、統合失調症、パニック症と言ったように基本的に「~症」が用いられます。

1990年、WHOは、心の病気をMental Disorder(メンタル・ディスオーダー)という言葉に定め、精神疾患それぞれの名称にも~ディスオーダーを用いるようになりました。ディスオーダーとは、障害という深刻な意味でなく、よりマイルドな不調という意味です。日本語にすれば「症」が最もふさわしい訳です。

日本の精神医学界でも、WHOの世界基準に病名を合わせる作業が行われました。ところが、ディスオーダーを日本語に訳す時に「障害」と訳してしまったのです。パニック・ディスオーダーはパニック障害という感じです。ディスオーダーは症の方がふさわしいのですから、2013年のアメリカ版の病名改訂に合わせて、改めて症と訳すようになりました。先ほどのパニック障害はパニック症と変わりました。パニック障害でもパニック症でもどちらも間違っていませんが、パニック症と言う方が好ましいでしょう。

 

3 精神疾患と精神病は同じ意味ではない

心の病気を精神疾患と呼びますが、精神病は別の意味があります。

1980年代まで、心の病気は大きく精神病と神経症の2つに分けて考えられていました。精神病は、幻覚・妄想・躁状態などの重い症状がある場合で、それより症状が軽く、不安やうつ気分などの訴えがある場合を神経症と呼びました。その後、この分類は用いられなくなり、現在、神経症という言葉はほとんど使われていません。精神病という言葉は現在も使われており、統合失調症と双極性障害のことを指します。精神病=(イコール)精神疾患ではないのです。

 

まとめ

以上、精神科の混乱しやすい言葉について、いくつかの例を紹介しました。

心の病気は誤解されることが多く、差別の対象になりやすかった時代がありました。社会が成長するに従い、言葉についても差別を無くそうとする努力がされています。

また、精神医学の研究の中心はアメリカで、WHOを通じて世界基準になっています。日本もそれに従うようにしていますが、英語と日本語の言葉の違いから、意図するニュアンスを伝えるための翻訳も難しいのです。ここでも差別や偏見につながらないように努力がされています。

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