メンタルヘルス対策とは

 更新日:2023年3月10日

心理的な不調は仕事やプライベートなど、様々な問題が絡み合って起こります。中でも職場が原因で発生したストレスは、多くが労働者自身の力だけでは取り除くことが困難です。そのため、職場環境の改善によって働きやすい職場づくりを目指す必要があります。

一般的にメンタルヘルス不調が起こると、集中力の低下や遅刻欠勤が続くなど、日常業務に支障が出ます。最悪の場合、自殺に繋がる可能性もあるのです。

企業には、労働者に対して安全配慮の義務が課せられています。安全配慮義務とは、労働者契約法第5条で定められている、使用者(企業)が従業員の安全に配慮する義務のことです。

つまり、企業には業務を遂行するために労働者の生命や身体、健康を守らなければならないという義務があり、業務を遂行する上で予想される危険から労働者を守り、精神疾患や身体疾患が発生しないよう配慮しなくてはならないという契約上の義務のことです。以上のことから、メンタルヘルス対策を行うことは企業にとって義務であると考えられるでしょう。

では、メンタルヘルス対策とはどのように行えば良いのでしょうか。

メンタルヘルス対策の取り組み

職場におけるメンタルヘルス対策は、一次予防・二次予防・三次予防の三本の柱からなります。一次予防は未然防止、二次予防は早期発見・早期治療、三次予防は再発防止と言われており、これら3つの段階において適切な措置をとる必要があります。

一次予防:労働者のメンタルヘルス不調を未然防止

労働者に対して、メンタルヘルスに関する正しい知識を獲得する機会や、自身のストレスを考える機会が設けられることにより、メンタルヘルス不調者の発生を未然に防止します。具体的な取り組みには、以下の6点が挙げられます。

1:メンタルヘルスに関する知識提供・ストレスケア研修

日頃からメンタルヘルスの話題に触れ、知識を得ることを目指します。ストレスケアの方法や身近な生活習慣に関する話題など、メンタルヘルス不調の防止が目的です。

2:良好な人間関係を構築するための研修

職場における人間関係の悩みはメンタルへルスに大きく影響します。働きやすい職場とは人間関係が良好な職場ともいえるでしょう。

上司と部下の関係はもちろん、職場全体で双方のコミュニケーションが可能となることを目指します。

3:ストレスチェックの実施

ストレスチェックとは、労働者が抱える現在のストレス状況を把握することを目的とする心理検査のことです。事業所に所属する労働者が50名以上の場合、年に1度実施しなければなりません。一方、事業所労働者が50名未満の企業には実施義務がありません。しかし、実施が推奨されています。

4:過重労働者を出さないための労働時間の管理

近年、過重労働によるうつ病や過労死の問題が話題となっています。職場で勤怠管理を行っているために、タイムカードを切って残業を続ける労働者が多いという実情が語られることもあります。過重労働は大変危険です。勤怠管理は、タイムカードだけに頼るのではなく、責任者が自身の目で見て、部下が働き過ぎないよう積極的に働きかけることが求められます。

5:仕事の仕方の体制整備

企業によって働き方は様々です。故に、自社のストレス度合いを把握する必要があります。その際、退職率や休職率、ストレスチェックによる分析だけでなく、労働者の声などからも、働きやすい職場かを常に検討し続けていく必要があるでしょう。

近年ではコロナウイルスの影響により、多くの企業にテレワークが導入されました。これによりストレス度合いが下がったという企業がある一方で、コミュニケーションの取りづらさや自宅にいる時間が長いことによるストレスから、ストレス度合いが上がったという企業もあるなど、様々な反応が見られました。

6:評価制度の見直し

評価制度も労働者のメンタルヘルスに大きく影響します。評価制度がブラックボックス化している、到底到達できないような目標設定であるなど、労働者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしている場合は改善をはかりましょう。

二次予防:メンタルヘルス不調者の早期発見・早期治療

早期に自身の不満に気づき、治療に繋がるような体制を作ります。がん治療で早期発見・早期治療といわれるように、うつ病を始めとした精神疾患も同様です。職場での体制整備を行うことは不調の労働者が早期に治療につながる可能性が高くなります。では、具体的な取り組みの例を挙げてみましょう。

1:早期発見・対応のためのメンタルヘルス研修

二次予防では、メンタルヘルス不調の早期発見を目的とした研修が実施されます。また、早期発見・対応を可能とするためにも、管理監督者や人事担当者はメンタルヘルス不調者への対応を学ぶ必要があります。

2:過重労働者・不調者への産業医面談

企業に産業医が在籍している場合、過重労働や不調者への面談を実施します。事業場労働者数が1000人以上の事業場では専属産業医が必要です。専属産業医とは企業が直接雇用している産業医を指します。また、事業場労働者数が50名以上の場合には、嘱託産業医の選任が必要です。企業によっては産業医と未契約であることも多く、その際は専門家のいるEAP機関に対応を委託しています。

3:事業場内外の相談窓口の整備と周知

メンタルヘルス対策では、不調者を早期に専門機関に繋げることが最も重要です。そのためにも事業場内外に相談窓口を設置し、周知を行うことが求められます。

例えば、ハラスメント相談窓口の設置が挙げられます。パワハラ防止法の制定により設置が義務となりました。一方で、パワハラ被害者の多くがメンタルヘルス不調になっている可能性があるにもかかわらず、企業が被害者への支援を怠っているケースが存在します。

もし社内で対応が難しいと考えられる場合には、ハラスメントとメンタルヘルスのどちらにも対応可能な専門機関への委託が望まれるでしょう。

三次予防:労働者の職場復帰支援ならびにメンタルヘルス不調の再発防止

今後の再発を防ぐためには、メンタルヘルス不調で休職した労働者のサポート、職場改善等が必要です。具体的な取り組みとしては、以下の3点が挙げられます。

1:休職者へのフォロー

休職者によってはフォローが必要です。しかしそれは、企業の担当者によるフォローではありません。よくある間違いに、人事担当者が心配になって、休職者に対して頻繁に連絡をとってしまうことが挙げられます。このような行為は休職者が安心して休むことを妨げてしまうのです。

EAP機関と契約している場合には、カウンセリング等の心理支援が利用できることを周知しましょう。

2:職場復帰支援プログラム

休職者がリワークを行わずに職場復帰した場合、再度休職となる可能性が上がります。時に休職者は自身の体調が働けるほどに戻ったと感じ、職場復帰しようとします。しかし、実際は毎日職場にいけるような体調には戻っていない場合があるのです。そのため、職場復帰をする前にリワークを実施し、様子を見る必要があるのです。

企業においても、主治医による職場復帰可能という判断から、休職前と同様に働けると考えてしまうことが往々にしてあります。しかし、現実は実際に働いてみないと分からないのです。職場復帰後の状態は、主治医にも本人にも、産業医にも完全にはわかりません。

復職後の体調と周りの認識のギャップを埋めるためにも、職場に戻る前段階としてリワークを通して職場復帰の予行練習をしましょう。この予行練習が、本人だけでなく他の従業員へのサポートともなるのです。

3:職場復帰後のフォロー

うつ病の再発率は60%と言われています。そのため、職場復帰後も労働者の働き方を考える必要があります。例えば、主治医が時短勤務での職場復帰を必要と指示することがあります。そのような場合には、主治医の指示に従いましょう。

4:人事担当者・管理職への復職者に対する対応研修・コンサルティング

メンタルヘルス不調者の対応は10人いたら、10通りの対応の仕方になり、対応がそれぞれ異なります。そのため、ある程度マニュアルを作成しておく必要はありますが、随時該当労働者への対応を随時専門家に聞き、労働者と人事担当者・管理監督者、専門家で労働者が協力し合っていくことが大切です。

5:職場改善

職場改善とは、何を指すのでしょうか。例えば、ハラスメントが起った場合には再発防止研修をしたり、職場環境の見直しをしたりといった対応が考えられます。また、メンタルヘルス不調者が多く出てしまう場合には、背景に存在する問題を考えることが必要となるでしょう。

企業や個人によって問題は様々であり、発生を完璧に避けることは困難です。そのため、発生した問題への対応から対応マニュアルや就業規則を作成また改訂していくことが求められます。

その際、職場改善を行う上で注意しなければならない点があります。労働者の個人情報の保護です。例えば、相談者が話したくないことを無理やり話させる。相談窓口に相談した内容を本人の許可なく会社側に開示するなど、個人に関わる情報を本人の許可なく他者に開示することは禁止されています。

たしかに相談窓口に相談があった場合、企業は話された内容を知りたいと感じるでしょう。しかし、本人の同意なしに相談内容を開示してはいけないのです。相談窓口機関の中には、相談があった内容のうち主訴のみ開示するケースもあります。しかし、主訴は特に個人が特定される可能性が高いため、適切とは言えません。

企業は相談窓口で起きていることが不透明なため、不安を覚えることもあるでしょう。しかし、専門家に対応を任せることも必要です。相談者との話の中で専門家が企業に伝える必要があると考え際には、本人の同意を得た内容に限り企業へお伝えします。

以上がメンタルヘルス対策における一次予防、二次予防、三次予防です。これらの取り組みでは4つの視点によるケアが重要であると言われています。4つの視点とは、「セルフケア」「ラインよるケア」「事業内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」です。

4つのメンタルヘルスケア

1:セルフケア

セルフケアとは、労働者自身が行うケアのことを指します。普段からメンタルヘルスに関する知識を取得し、ストレスチェックを実施することにより、ストレスへの気付きを得ることを目指します。

2:ラインによるケア

管理監督者によるケアのことです。職場環境の評価と改善、部下からの相談対応を指します。

3:事業場内産業保健スタッフ等によるケア

産業医や産業医保健スタッフ、人事労務管理スタッフが行うケアです。労働者、管理監督者への支援などを行います。

4:事業場外資源によるケア

事業場外の専門家、専門機関を活用した支援のことを指します。

まとめ

メンタルヘルス対策は、短期集中的に行うことはできません。一次予防によりメンタル不調者を出さないことを目指しながら、メンタルヘルス不調者が出てしまった場合は適切に対応できるよう準備をしましょう。

企業ごと、労働者ごとに様々な問題が発生します。企業はそれらの問題に柔軟に対応していかなくてはなりません。様々な問題を経験しながら、就業規則やマニュアルを専門家と共に作成し、職場環境を整えることが重要です。

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