うつ病・うつ状態・適応障害・自律神経失調症の違い
更新日:2021年8月16日
最近、有名スポーツ選手や女優がストレスで休養する時に、病名をメディアで発表して話題になりました。ある人は、うつ病であったり、適応障害であったり、またはうつ状態や自律神経失調症という病名も発表されています。どれもストレスにより不安やうつ気分になる病気ですがどこが違うのでしょうか?
【うつ状態と自律神経失調症は正式な病名ではない?】
実は、この中でうつ状態、自律神経失調症は正式な病名ではありません。以前は、うつ病と診断書に書くと職場などで偏見の目で見られたため、精神科医は患者さんを守るために診断書にうつ病と書かない習慣がありました。そこでうつ病の代わりにうつ状態とか自律神経失調症という名称が使われました。
【うつ状態と自律神経失調症】
うつ状態とは、一過性の状態で病気とまでは診断できないというニュアンスで使います。自律神経失調症とは、自律神経のバランスが崩れることから起こる様々な症状を総称したものです。倦怠感、胃腸障害、動悸、息切れ、頭痛などがあります。これらは軽症うつ病の時の身体症状として起こることが多く、また身体の病気のイメージができるために、うつ病の代わりにこの名称が使われることがあります。
【うつ病と適応障害】
この中で正式な病名はうつ病と適応障害です。適応障害とは、1980年代から出てきた比較的新しい病名です。仕事などの日常のストレスから不安やうつ気分などになる状態を言います。診断するためには、原因であるストレスの存在が必要で、ストレスを感じてから3ヶ月以内に症状が出ていること、またそのストレスがなくなると6か月以内に症状がなくなることが必要です。
基本的に精神科の診断は症状から決めています。適応障害に関しては例外的に病気の原因が診断の基準になっています。例えば、会社の人間関係に悩みうつ症状がある患者さんはうつ病の診断ができる上に、ストレスの原因が明らかであると適応障害も診断できてしまう矛盾が生じてしまいます。そこで、適応障害とともに他の病名も診断できる場合はそちらを優先してつけることになっています。
2004年に皇后雅子陛下が休養をとられた際に適応障害と発表されました。これを機に適応障害がメディアで話題になり、日本でも広く知られるようになりました。うつ病よりも適応障害の方が軽いイメージがあるようで、さきほどの理由により診断書にはうつ病と書かずに適応障害と書く傾向があるようです。
【適応障害とPTSD】
適応障害と混同しやすい病名としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)があります。戦争、災害、事故、犯罪等で命の危険に脅かされる出来事を体験したり、目撃したりすることにより起こる精神障害です。恐怖の場面をフラッシュバックする、似たような状況を逃避する、情緒不安定などの症状が現れます。
症状が1か月以内の場合はASD(急性ストレス障害)と呼ばれ、PTSDと診断するためには症状が1か月以上続くことが必要です。適応障害とPTSDはともにストレスが原因で起こる精神障害ですが、適応障害は日常のストレスが原因であり、PTSDはトラウマ(心的外傷体験)が原因である違いがあります。
PTSDは児童虐待やベトナム戦争の帰還兵に多く見られたことから広まった病名です。日本では1995年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件がきっかけで世間に知られるようになりました。日本語で心的外傷後ストレス障害と訳されていますが、そのままPTSDの名前で定着しました。これと同時にトラウマという言葉も広がりました。
その後PTSDという言葉が独り歩きして、有名芸能人が夫にどなられてPTSDになったとか、職場で上司に恫喝されてPTSDになったと拡大解釈された診断書が提出されるようになりました。これは被害大きく見せて訴訟で有利になるように使われて問題になりました。これらは正しくは適応障害でしょう。現在では、PTSDの使用が悪用されないように厳密に診断されるようになっています。
まとめ
精神科の病名には分かりにくいものが多いようです。病名のつけ方が社会の偏見や訴訟への影響を考えて、担当する医師によって違うことがありました。現在も混乱は続いているようですが、最近では精神科の敷居も低くなり、正確な診断が伝えられる傾向があります。