うつ病と体の痛み

 更新日:2021年10月7日

うつ病は気分が落ち込む心の病気ですが、体にもさまざまな症状が出ます。心と体は脳を仲介としてつながっているためです。うつ病の人が訴える体の症状の一つに痛みがあります。

痛みの場所は、特に頭、首、背中、腰が多いのですが、それ以外にも顔面、顎関節、四肢、四肢の関節、陰部、肛門と数え上げたらきりがありません。実は、うつ病の患者さんの6割に何らかの体の痛みがあるとも言われています。痛みで病院に行ったら、うつ病があることが分かったというケースもあります。

今回はうつ病でなぜ体の痛みが出るのかを説明します。

【うつ病の痛み】

うつ病の痛みは、内科や整形外科を受診してレントゲンやMRIなどの検査をしても大きな異常が見つかりません。痛みの場所から緊張性頭痛、頚椎症、腰痛症などの病名がつけられることが多いのですが、普通の痛み止めはあまり効果がなく、リハビリに通って牽引やマッサージを受けても改善がないことも多いようです。しかし、うつ病の改善に伴い良くなります。

痛みの場所は、レントゲンやMRIに映らないくらいの小さな骨の歪みや神経の傷があるのかも知れませんが、検査結果から想像できる以上に痛みを訴えるので医師に怪訝(けげん)そうにされることがあります。心因性の痛みと説明されて、「実際に痛いのにまるで気のせいのような言い方をされた」と傷ついてしまう患者さんもいるようです。

これは、うつ病では、脳の痛みを感じる部分に異常が起きて、痛みを感じやすくなっているのが原因です。実際に感じるはずの痛みよりも何倍、何十倍も痛みを感じてしまうのです。うつ病でセロトニンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物資の分泌が低下し、偏桃体という部分が異常に反応していると考えられています。脳の中で痛みが増幅されているのです。心因性の痛みと呼ばれていますが、決して気のせいではありません。

首や腰の痛みは体を支える重要な部分であるため、体を動かす度に痛みを感じてしまい、気分を落ち込ませてうつ病を悪化させてしまいます。さらに、うつ病が痛みをつよめてしまうという悪循環に陥ってしまいます。

           

【検査をしても見つからない病気】

慢性疼痛(まんせいとうつう)という病気があります。検査をしても大きな異常が見つからないのに、激しい痛みがずっと治らない病気で、顔面神経痛、頚椎症、腰痛症などに見られます。

通常の痛み止めや手術、リハビリでは改善しません。慢性疼痛もうつ病の痛みと同じように、脳の偏桃体に異常が起きていると考えられています。最近ではリリカのような脳内の神経伝達物質に作用する鎮痛剤が処方されますが、ふらつきや眠気の副作用がつよいために飲めなくなる人もいるようです。

慢性疼痛でも、痛みが気分を落ち込ませ、うつ病になってしまうケースがあります。うつ病の痛みと同様、痛みがうつを悪化させ、うつが痛みを悪化させるという悪循環に陥ってしまいます。「卵が先か、ニワトリが先か」の問題と同じで、うつ病と慢性疼痛ではどちらが先に起きていたのか分からないことも多いようです。

【治療法】

うつ病の痛みも慢性疼痛も、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの分泌が低下していることが考えられているので、これらを改善させる抗うつ薬が治療に使われます。特にサインバルタなどのSNRI、トリプタノールなどの三環系抗うつ薬が処方されています。

ロキソニンやボルタレンなどの普通の痛み止めは、痛む部分で作られるプロスタグランジンという痛み物資を作らせない効果があります。痛みの物質が減っても、うつ病や慢性疼痛の痛みは、痛みを感じる部分が過剰に反応しているので、このような普通の痛み止めは効きにくいのです。

以前は慢性疼痛で整形外科に通っていると、「心因性の痛みなので精神科へ行きなさい」と言われて傷つく患者さんが多かったようです。最近は抗うつ薬を処方してくれる整形外科医も増えています。しかし、出されたものがうつ病の薬と説明されて、「実際に痛いのに心の問題にされている」と飲むのを好まない人もいるようです。抗うつ薬を飲むのは、痛みが気のせいだからではありません。脳が痛みを過剰に感じていることを改善させるために飲むのです。

うつ病と痛みについて説明しました。治療しているにも関わらず、なかなか治らない痛みをお持ちの方は、うつ病が関わっている可能性があります。こうした痛みで苦しまれている方は、一度専門家と相談してみるのも良いかも知れません。

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