ASD(自閉症スペクトラム症)の5つの特徴
更新日:2023年7月22日
自閉スペクトラム症は、人とうまくコミュニケーションがとれず、特定の物事につよいこだわりがある病気です。本来は4才から小学低学年くらいに症状が現れるものですが、大人になってから生きづらさとして自覚されることがあり、大学生や社会人になってから病院を受診する人が大変増えています。
自閉とは自閉症から来ています。1940年代に、自分の世界に閉じこもり、周囲とコミュニケーションをとらない幼児の病気が報告され、自閉症と呼ばれました。1980年代には、知的障害がない軽症の自閉症もあることが分かります。これがアスペルガー障害です。2000年代以降、アスペルガー障害は、世界の人口の1%以上がそうであるように、決して稀な病気でないことが知られるようになります。さらに、芸能人や成功者たちがカミングアウトすることから社会の認知度も上がりました。
その後の研究によると、コミュニケーションがとれないことや、特定のこだわりがあることは、性格の延長線上であり、正常と病気の境界線が引けないこと分かりました。症状のレベルも音楽のボリュームのように0からマックスまで境目がありません。自閉症とアスペルガー障害には明確な境界線を引けないのです。そこで、連続していることを意味するスペクトラムという言葉を用いて、2013年に自閉スぺクラム症という名前で両方がまとめられました。自閉スペクトラム症は英語で、Autism Spectrum Disorder(オウティズム・スペクトラム・ディスオーダー)ですので、略してASDと呼ばれます。
今回は自閉スペクトラム症・ASDの特徴について説明しましょう。
自閉スペクトラム症・ASDの5つの特徴
1.大人になっても残る症状
自閉症スペクトラム症は、子供の頃に「いつも一人で遊んでいる」、「友達をつくれない」、「グループ活動ができない」といったことから気づかれます。年を重ねるごとに症状はよくなる傾向がありますが、相手の感情を読み取ることが苦手で、共感する能力に劣ることは大人になっても残ります。オタクと呼ばれるように、アニメ、ゲーム、乗り物などの特定の趣味にだけに関心を持ち、興味のないことには話題を合わせることができません。また、大人になっても抑揚のない単調な話し方が続くことも特徴です。
2.育て方が原因ではない
最初に自閉症が発見された頃は、母親の育て方に原因があると考えられていました。この考え方はその後数十年間も続きます。しかし、1990年代から遺伝の研究が進むことで、自閉スペクトラム症には遺伝の影響が大きいことが分かるようになり、母親の育て方が原因でないことが理解されました。実際に、親兄弟が自閉スペクトラム症であると、そうでない場合の10倍以上の確率で発症します。ただし、原因となる遺伝子が見つかった訳でなく、いくつかの遺伝子が複雑に絡んでいると言われています。
年配のお母さんの中には、現在でも過去の育て方を悔いている方もいますが、親の育て方が原因ではありません。
3.相手に関する情報を取り入れるのが苦手
2000年代に入ると、自閉症スペクトラム症の脳の研究が盛んになり、どうやら脳の報酬系(ほうしゅうけい)に問題があることが分かってきました。報酬系とは、人の行動の意欲や動機に関わる部分です。自閉スペクトラム症の人は、相手と関わりをもとうとする意欲や動機の面で障害があると考えられます。相手に関する情報を、正確に取り入れるのが苦手なのです。例えば、自然に相手の視線を追うことや、視線を合わせることができません。視線の動きは、相手の気持ちを理解する上で大変重要な役割を果たしますが、これができないのです。
また、生まれつき音・光・臭いなどの刺激に敏感で、これを感覚過敏と呼びます。これは、脳に入ってくる刺激の調整がうまくできずに、必要な情報だけを取り出すことができないからです。そのために、相手の表情や仕草など、相手を理解するための情報を正確に拾うことも苦手です。これも人を理解するためにはマイナスに働いてしまいます。
このように自閉スペクトラム症の人は、生まれつきの脳の構造によって相手に共感できない、相手の気持ちを理解できないといったことが生活の中で起きてしまうのです。
4.自分のやり方にこだわる
こだわりの症状も脳の構造から来ています。自分のやり方や物の好みに常にこだわってしまうのです。そして、自分のこだわりが叶わないことにつよい不安や怒りを感じるため、融通が利かないという生きづらさにもつながります。
ただし、こだわりは、仕事の上で完全主義という形でメリットにもなります。「仕事が正確で細かい」、「責任感がつよい」というつよみになるのです。
5.心の病気になりやすい
人間関係や生活上の変化に弱いことから心の病気になることがあります。これは、自閉スペクトラム症の60%がうつ病や不安症になるというデータもあるくらい多いことです。心の病気で精神科を受診したところ、それまで気づかなかった自閉スペクトラム症のことを指摘されることもあります。他にも摂食障害や強迫症にもなりやすいと言われており、こうした心の病気になると、本来のコミュニケーションやこだわりの症状も悪化してしまいます。
まとめ
人は生まれつきの能力の差をもって生まれてきます。例えば、100メートルを9秒台で走れる人もいれば、何十秒もかかってしまう人もいます。走ることは訓練で多少早くなれますが、足の遅い人がわざわざ無理してオリンピック参加を目指す必要はありません。走ること以外で、人よりもうまくできることを生かして生きていくことが賢い選択です。
自閉スペクトラム症の人は、人間関係をつくる能力には劣りますが、脳の処理能力は高いことが知られています。仕事でいうと営業力は低いのですが、事務系の作業の能力は高いのです。それを生かしましょう。
インターネットを通じていろいろな情報がすぐに飛び込んでくる時代です。周りができているのに自分だけできていないような感覚に陥って、情けなくなることがあります。そもそも神様は最初から人を平等につくっていないので、人それぞれ違った生き方があるのが当たり前です。人は人、自分は自分です。比べる必要はありません。自分の得意を生かして生きていけば良いのです。また、自分の得意な分野でも優秀であることを目指す必要はありません。自分なりにできていれば良いのです。こんな風に、例え病気であっても、それを個性と考えて自分なりの生き方を見つけていくが賢いやり方でしょう。