メンタルヘルス対策における効果的な職場環境改善

更新日:2024年10月15日

いざ職場環境を改善しようと考えても、具体的にどのような取組をすべきか分からず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。従業員がいきいきとして活気ある職場は、生産性にもよい影響があります。職場環境改善における基本的な考え方や注意点、実際の手順をご紹介します。

1. 職場環境改善とは

職場環境等の改善とは、職場の物理的レイアウトや温度などに限らず、労働時間人間関係業務量など、職場におけるすべての要素を改善することです。職場環境改善には、労働者の心理的ストレスを軽減する効果、生産性を向上させる効果があります。職場環境改善は労働安全衛生法で事業所に配慮義務が定められています。また、ストレスチェック制度においては、ストレスチェックの結果に基づいた職場環境改善計画の立案と実施が努力義務となっています。(労働安全衛生法第 66 条の10)

米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、職場環境等の改善を通じたストレス対策のポイントとして

  1. 過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
  2. 労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
  3. 仕事の役割や責任が明確であること
  4. 仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
  5. 職場でよい人間関係が保たれていること
  6. 仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされること
  7. 職場での意志決定への参加の機会があること

をあげています。

(厚生労働省:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトこころの耳)

2. 職場環境がメンタルヘルスに与える影響

職場環境は従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与えます。単一の要因がメンタルヘルス不調の発生を引き起こすのではなく、複合的に様々な要因が関連します。たとえば「上司との人間関係が上手いかない」のみでは、休職発生に至るケースはまれです。考えられる複合要因として、仕事の量や質、仕事の進め方の指示や内容、仕事のやりがい、上司への相談しやすさ、同僚のサポートや支援の状況、暑さ寒さや有害物取り扱いといった身体的負担は高くないか、困ったときの相談窓口はあるかなど、様々な要因が複合的に関係しています。このような要因により、不安やうつ病などのメンタルヘルスの問題を引き起こす可能性があります。安全で健康に働き続けるためには、働き方、働く時間、働く環境など、従業員と取り巻く職場環境全体に視野を広げることで、その多層の予防策を講じることができます。

3. 職場環境改善のメリット

1. 生産性の向上

従業員は、空調や照明、職場の人間関係など、あらゆる環境に影響を受けながら仕事をしています。 快適なオフィス環境や良好な人間関係といった、安心して仕事ができる環境は、集中力が高まるため生産性向上が期待できます。一方、職場環境が整っておらずストレスが蓄積されている場合には、生産性の面からも能率の低下をきたします。

2. 従業員のストレス軽減

誰しも「暑い・寒い」「休憩施設がない」「清潔が保たれていない」など不快な職場環境の中で仕事をすることは、ストレスになりますよね。このようなストレス要因を取り除いて職場環境が整えば、従業員のストレスを大幅な軽減が期待できます。

事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針は労働安全衛生法第71条の2に定められています。

  • 作業環境
    適切な温度・湿度の管理や空気を清浄に保つなど、不快を感じさせない作業環境を整える
  • 作業方法
    従業員の心身の負担を軽減するため、大きな負荷のかかる仕事は作業方法を改善する
  • 疲労回復支援施設
    従業員が疲労・ストレスを癒せるよう、相談室や休憩室を設置・整備する
  • 職場生活支援施設
    快適に過ごせるよう、洗面所やトイレ、給湯設備を作り、清潔にしておくこと

また、快適職場指針では、快適な職場環境づくりを進めるに当たって考慮すべき事項として、①継続的かつ計画的な取り組み② 従業員の意見の反映③ 個人差への配慮 及び ④ 潤いへの配慮 の4点をあげています。

3. 人間関係が良好になる

より快適な環境で働くことは、ストレスや緊張の軽減につながります。また、職場の人間関係に注目した職場環境改善を取り入れることにより、上司・同僚といった職場内のコミュニケーションの活性化にも繋がります。従業員間のコミュニケーションが円滑になり、情報の共有や意思決定のプロセスが円滑に行なわれることで、信頼関係構築や人間関係の改善につながります。

4. ストレスチェック制度と職場環境改善

ストレスチェック制度の目的は、メンタルヘルス不調の未然防止(メンタルヘルス一次予防)です。「ストレスチェック制度」では、常時50 人以上の労働者を雇用する全事業場において、年 1 回以上のストレスチェックの実施が事業者に義務づけられました(労働安全衛生法第66条)従業員のストレスの程度を把握し、自身のストレスの気づきを促すとともに、職場環境改善につなげ、働きやすい職場づくりを目的としています。

ストレスチェックの結果を集団分析し職場環境改善に取り組むことは、努力義務となっていますが、労働者が働きやすい職場づくりを推進するには、メンタルヘルス一次予防となる「職場環境改善」に取り組むことが重要です。

ストレスチェック実施後は、結果を集計分析することにより、高ストレスの従業員が多い部署が明らかになります。この結果、当該部署の業務内容や労働時間など他の情報と合わせて評価し、事業場や部署として仕事の量的・質的負担が高かったり、周囲からの社会的支援が低かったり、職場の健康リスクが高い場合には、職場環境等の改善が必要と考えられます。

ストレスチェック制度を受け職場環境改善を経験した従業員のうち約6割が自分たちのストレスを減らすのに「有用である」と回答しています。ストレスチェック制度は個々のストレスの振り返り、対処をする機会のみとすべきではなく、ストレスチェックの集団分析結果に基づき、組織として職場環境改善を実施することが重要です。

5. 集団分析と具体的な職場環境改善

ストレスチェック実施後は、部門や職種等、業務実態にあった分析単位で集団分析を実施します。集団分析では、4つのストレス要因である「仕事の量的負担」、「仕事のコントロール」、「上司の支援」、「同僚の支援」から、ストレスの大きさとその健康への影響を測定することができます。ストレスチェックの集団分析結果における課題と効果的な職場環境改善の計画例を以下に示します。

仕事の量的負担が大きい

仕事の量的負担の得点は、仕事の分量や長時間労働など、仕事のボリュームに関する指標です。過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整が必要です。

  • 個人あたりの過大な作業量があれば見直す。
  • 労働時間の目標値を定め残業の恒常化をなくす。
  • 繁盛期やピーク時の作業方法を改善する。
  • 休日・休暇が十分取れるようにする。
  • 勤務体制、交替制を改善する。
  • 個人の生活条件に合わせて勤務調整ができるようにする。
  • 物品と資材の取り扱い方法を改善する。
  • 個人ごとの作業場所を仕事しやすくする。
  • 反復・過密・単調作業を改善する。
  • 作業ミス防止策を多面的に講じる。
  • 衛生設備と休養設備を改善する。

仕事のコントロールが低い

自分の裁量権や自由度が限られている(仕事上のコントロールが低い)場合に、高ストレスと測定されます。

  • 作業の日程作成に参加する手順を定める。
  • 少数人数単位の裁量範囲を増やす。
  • 各自の分担作業を達成感あるものにする。
  • 必要な情報が全員に正しく伝わるようにする。
  • 作業の指示や表示内容をわかりやすくする。

上司の支援が低い

上司が職場をうまくマネジメントし、必要に応じて部下の相談などに乗ってくれる場合、つまり上司の支援が高い場合に仕事上のストレスは少なくなります.。

  • 上司に相談しやすい環境を整備する。
  • チームワークづくりをすすめる。
  • 仕事に対する適切な評価を受けることができるようにする。
  • 昇進・昇格、資格取得の機会を明確にし、チャンスを公平に確保する

同僚の支援が低い

職場の同僚が困った時にサポートしてくれたり、相談に乗ってくれたりする職場環境である場合、仕事のストレスは少なくなります。

  • 同僚に相談でき、コミュニケーションがとりやすい環境を整備する。
  • チームワークづくりをすすめる。

6.職場環境改善の進め方

職場環境改善の計画立案を誰が中心となって行うか(改善主導型)によって、ストレスチェック制度における職場環境改善の進め方は異なります。

大きく3つに分類され、① 経営層主導型② 管理監督者主導型③ 従業員参加型に分けられます。

事業場で職場環境改善をはじめようとする時にどのような型式で導入するかを決めておくことでスムーズに導入することが出来ます。

1. 経営層主導型

集団分析の結果をもとに、経営層が事業場全体としての対策を進める職場環境改善です。
課題が明確で、経営層が明確な方針を指示することができ大きな影響力が期待できます。
労働時間削減、人員配置など事業場全体としての取組が必要な場合に有効ですが、各部署ごとのこまかな業務内容や課題の特徴を反映した対策にならない場合があります。

2. 管理監督者主導型

部署ごとの集団分析結果をもとに、管理監督者が対策を進める職場環境改善です。課題が部署ごとで異なる場合や、管理監督者が職場環境改善に取り組む意欲を持っている職場での実施が適しています。
メリットとしては管理監督者の自主性を引き出し、部署ごとの特徴を反映した対策が実施できます。ただし、管理監督者の独りよがりな対策にならないように工夫が必要です。産業保健スタッフ、従業員の意見を聞く機会を持つ等工夫して進めましょう。

3. 従業員参加型

各部署で働く従業員が、対策の立案や計画の策定に主体的に参加する職場環境改善です。
問題を皆で解決しようという雰囲気がある部署に適しており、多忙すぎる部署、人間関係に明らかな問題がある部署では実施が難しい場合があります。
メリットとして従業員の意見を反映することにより、きめ細かい対策が実施でき、従業員同士のコミュニケーションも改善が期待できます。デメリットとしては、従業員参加での意見交換会を開催する必要があり、改善は部署内での対策に限定されます。

7.職場環境改善のポイント

職場環境改善には、経営層の理解とリーダーシップがカギとなります。産業保健スタッフのみで、職場に対して職場環境改善の協力を求めても、理解を得るには時間が掛かるケースもあるでしょう。まずは、職場環境を改善するメリットを経営層に理解してもらうことが重要です。職場環境改善が行われると、従業員がいきいきと働きパフォーマンスが高い職場になります。また、魅力ある職場には人材が集まり定着しやすい等の経営上のメリットもあります。経営層の理解とリーダーシップがあれば、事業場全体が改善活動に前向きになります。

職場環境改善を効果的に行なうための具体的なポイントをご説明します。
 

●経営層の一方的なトップダウンとせず、従業員主体の対策を行う

職場環境改善の計画、立案、実施には従業員が主体的に参加し、対策を行ないましょう。
職場の強みも弱みももっともよく知っているのは、そこで働く従業員です。経営トップが提案した計画を実施するだけでは効果は不十分です。従業員自身が職場環境の課題を把握し、改善に向けた計画を立案・実施していきましょう。産業保健スタッフは、職場環境改善について一緒に考え、必要時アドバイスを行ない、スムーズな職場環境改善へのサポートを行ないます。
 

●実施可能な活動から少しずつ積み上げていく(スモールステップ方式)

職場の環境改善は「できること」を「できることから」少しずつ積み上げていくことが重要です。新しい対策をゼロから始める必要はありません。マンパワーや経費がかかる活動にいきなり取り掛かるのではなく、これまでに効果的だった対策を強化する視点、他職場のよい事例を水平展開する視点も併せて持つとよいでしょう。
 

「職場の強み」を強化する対策を行う

職場環境を改善する視点として大切なことは、自分たちの強みは何か、その強みを伸ばすために何ができるかという視点を持つことです。弱みのみに直面し続けるにはエネルギーが必要で、途中で挫折することが多いからです。職場の強みを強化することで、取組みへのモチベーションも上がり、その取組みも長続きします。
 

●長期的な視点も持ち、対策に臨む

職場の環境改善は対策を検討するにも時間がかかり、すぐに効果を実感できない活動もあるでしょう。しかし、こうした活動によって職場のストレス要因を根本的に解決することは、結果的にストレスを低減することにつながります。対策を計画・立案する際には、短期的な結果だけでなく長期的な視点を持つ必要があります。

8.職場環境改善ツールのご紹介

働きやすい職場づくりを組織的に支援するツールをご紹介します。

これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~研修の教材
(平成30年「独立行政法人労働者健康安全機構」)

【2018改訂版】いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き
(平成27-29年度厚生労働科学研究費補助金:労働安全衛生総合)

ストレスチェック制度を利用した職場環境改善スタートのための手引き
(平成27-29年度厚生労働科学研究費補助金:労働安全衛生総合)

9.さいごに

いかがでしたでしょうか。職場環境の改善は、従業員のストレスの軽減や生産性の向上、離職率の低下をもたらします。メンタルヘルス不調の未然防止には、職場環境改善が欠かせません。会社の課題や従業員が抱えている不安な箇所を把握することから始め、社員一人ひとりの健康保持増進のために働きやすい職場づくりを推進していきましょう。

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