統合失調症はどんな病気?

 更新日:2024年11月25日

   2001年のアカデミー賞を受賞したビューティフル・マインドという映画をご存知ですか?ゲーム理論によりノーベル経済学賞を受賞した数学者ジョン・ナッシュの自伝的な映画です。映画はナッシュ博士の視点で描かれていますが、映画の中盤でそれらがすべて幻覚であったと分かり、見ている私たちはビックリします。ナッシュ博士は統合失調症という病気だったのです。

最近は軽症の人が増えている

統合失調症というと怖い病気のイメージを持たれる方も多いかと思います。幻覚や妄想の病気であり、進行すると無関心、無気力になってしまう深刻な病気のイメージがあるかも知れません。しかし、統合失調症でも軽症から重症まであり、軽症の人は普通に社会で活躍しています。特に最近は軽症の人が増えている傾向があります。

統合失調症とは?

統合失調症の統合とは、心の中の思いや感情などを統合することです。この能力が低下した状態を統合失調症と呼んでいます。すなわち、心の中に自分でない声や思いが出入りして、心の中で起きていることを自分自身でまとめられない状態を統合失調症と呼ぶのです。

宗教家、霊能者、統合失調症の違い

統合失調症の幻覚は、何かが見える幻視よりも聞こえてくる幻聴の方が多くあります。聖書にはイエス・キリストやモーセは神の声を聞いたと書かれており、霊能者は死者と交流できると言います。このような宗教家、霊能者と統合失調症のどこが違うのでしょうか?

統合失調症の場合は、聞こえてくる思いや声と現実の区別がつかなくなり、それに巻き込まれて自分でコントロールがつかなくなります。ついには生活にも支障が出てくるようになります。

幻聴の内容

幻聴の内容は人それぞれです。悩んでいると突然声が聞こえる場合もあれば、朝から晩までずっと話しかけられてしまう人もいます。内容は、何気ない話もあれば、死んだ母親が懐かしい声で語りかけてくれたり、困っている時にアドバイスをくれる声など、その人にとってうれしい幻聴もあります。

最も多い幻聴は、その人が気にしていることを悪く言ってくる幻聴です。例えば何かに失敗すると「お前は必要のない人間だ」、自分の容姿を気にしていると「きもい」と言ったような声です。このような悪口が一日中聞こえてくると大変苦しくなり、自殺を考えるなど深刻な状況に追いやられることがあります。

また幻聴を現実の声と勘違いして、自分の秘密が誰かに知られているのではないか、という疑いをもつことがあります。そこから誰かに見張られている、盗聴器を仕掛けられている、心が読み取られている、という被害妄想になることがあります。

統合失調症が発症する原因

統合失調症を発症する原因は、育て方よりも生まれつきの要素がつよいと言われています。それを調べるために統合失調症の双子の研究があります。双子は同じ環境で育てられますが、一卵性の双子は遺伝子が同じ、二卵性の双子は遺伝子の半分が同じという違いがあります。

そこで双子の一方が統合失調症になった時、もう一方がどのくらいの割合で統合失調症になったかを調査したところ、一卵性の場合は3割程度、二卵性の場合は1割程度でした。ここから統計学的に遺伝と環境の影響を導き出したところ、遺伝の影響は7割程度、環境の影響が3割程度という数値が出てきました。育て方よりも生まれつきの影響が倍以上あるのです。

原因は正確には分かっていない

統合失調症の原因はまだ十分に分かっていません。しかし、幻覚を理解するためのいくつかのモデルがあります。一つは、1950~60年代に盛んに行われた感覚遮断の実験です。感覚遮断とは、五感への刺激をできるだけ少なくさせることです。

例えば、アイソレーションタンクというものがありますが、音と光を遮断したタンクに体温と同じ高濃度の塩水を入れて、そこに浮かんでジッとしているのです。こうした感覚遮断を行うと、半分くらいの人は何らかの幻覚を見たり聞いたりするようになります。

統合失調症の幻覚も、孤独な生活から現実の刺激が少なることで起こると推測できるでしょう。実際に、内向的で対人関係の苦手な人、アスペルガー障害の人が統合失調症になりやすい傾向があります。

もう一つのモデル

もう一つ幻覚を理解するモデルとして、アンフェタミンなどの覚醒剤が脳に与える変化があります。覚醒剤は、脳内のドパミン分泌を活性化して脳を覚醒状態にさせ、人によっては幻覚が起こります。

覚醒剤の影響は一時的ですが、同じような現象が統合失調症の脳の中で起きていると考えることが可能です。統合失調症とは、何かが引き金になり脳内のドパミン分泌が活性化してしまい、脳が覚醒状態になったまま正常に戻らないでいるというのが脳科学的な一つの見解です。

覚醒剤と精神病薬

覚醒剤で統合失調症と似ている状態ができるなら、逆に作用する薬を使えば、統合失調症を治せるのではないか、ということが考えられます。実際にクロルプロマジンという最初の抗精神病薬が1952年に発見されました。その後たくさんの種類の抗精神病薬が開発されました。これらは単に幻覚をなくすだけなく、意欲や気分を高める効果もあり、統合失調症の治療に利用されています。

統合失調症とカウンセリング

統合失調症は心の病気ですが抗精神病薬がよく効く病気です。まず薬の治療が最優先されます。むしろ心を深く探求するようなカウンセリングは心を不安定にさせ、病状を悪くしてしまう危険性もあります。薬の治療といっしょに行うならば、対人関係を改善させるソーシャルスキル・トレーニング(SST)が向いています。

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