人事担当者が勘違いしている産業医に関すること
更新日:2025年2月12日
企業において、従業員の健康を守るために「産業医」の存在は欠かせません。しかし、多くの企業の人事担当者が産業医の役割を正しく理解しておらず、誤った認識のもとで産業医を活用しているケースが少なくありません。この結果、産業医が適切に機能せず、労働者の健康管理が不十分になったり、場合によっては法的リスクを抱えることになったりします。
今回の動画では、特に人事担当者が勘違いしがちな産業医の役割について解説します。
1.産業医は会社の味方である
産業医は、企業と契約を結んでいるものの、その職務は従業員の健康を守ることにあります。そのため、企業側の利益だけを優先するような判断を求めることは、本来の役割に反してしまいます。
例えば、メンタル不調で休職している従業員がいたとします。人事は「早く復職させたい」と考えていた場合でも、産業医に対し該当従業員を復職可能と判断させるように圧力をかけることはできません。これは、産業医の立場としては、医学的な判断に基づき、十分な回復が確認できなければ復職を認めることはできないためです。
このような圧力をかけることは、医師の独立性を損なうだけでなく、企業の法的リスクを高める要因になってしまいます。
2.産業医は従業員の個人情報を人事に提供できる
産業医が従業員の健康情報をすべて企業に報告するべきだと誤解しているケースもあります。しかし、産業医には守秘義務があり、従業員の健康情報を本人の同意なく開示することはできません。
例えば、メンタル不調で相談に来た従業員の詳細な面談内容を、人事が産業医に開示を求めても、産業医はそれに応じる義務はありません。人事が知ることができるのは、「業務遂行にどのような配慮が必要か」という点であり、本人が話した内容を本人の同意なく知る権利はありません。
3.産業医の意見は単なるアドバイスであり、無視しても問題ない
産業医が職場の環境改善や長時間労働の是正について提言した場合、それを単なる「参考意見」として扱い、実施しない企業もあります。しかし、産業医の助言を無視することは、企業にとって大きなリスクとなります。
例えば、長時間労働による健康リスクが指摘されているにもかかわらず、改善措置を講じなかった場合、従業員が過労死したり、労災認定されたりする可能性があります。実際に、過去の裁判例では「産業医の助言を軽視した結果、企業の安全配慮義務違反が認められた」ケースもあります。
4.産業医は診断、治療ができる
これはよくある間違いなのですが、産業医の面談は、従業員の健康管理や労働環境の改善を目的としたものであり、診断や治療である「医療行為」には該当しません。そのため、従業員がうつ病の可能性があった場合でも、産業医が「うつ病である」と診断をし、薬を処方することはできません。また、産業医が自分の病院に連れて行って、治療を担当することも望ましくないとされています。これは、産業医は企業と従業員との中立性を守る観点から、従業員に寄り添う立場での主治医としての役割を担ってはいけないためです。ですので、この場合の産業医の対応は、まずは精神科クリニックに行ってもらうよう従業員に勧めるのが正しい対応になります。
以上、人事担当者が勘違いしやすい産業医の役割について解説しました。
企業の人事担当者が産業医の役割を正しく理解せず、誤った認識のもとで活用してしまうと、従業員の健康管理が適切に行われないだけでなく、企業の法的リスクも高まります。産業医の独立性を尊重し、適切な連携を図ることで、従業員が安心して働ける環境を整え、企業全体の健全な運営につなげることが重要です。
産業医を単なる「会社に都合の良い存在」として扱うのではなく、「従業員の健康を守る専門家」として適切に活用し、職場環境の向上に努めましょう。