メンタル離職を防げば、人材難は半分解決できる

更新日:2025年6月3日

はじめに:なぜ人が足りないのか? 

 現在、日本企業の多くが「人手不足」という深刻な課題に直面しています。特に中小企業やサービス業では、人材の採用が困難を極め、既存社員の負担が増加し、さらなる離職を招くという悪循環に陥っています。 

 このような状況の中、「メンタルヘルスが原因の離職」を見過ごすことは、非常に危険です。多くの企業は、人手不足を「採用の難しさ」として捉えがちですが、実は既存の人材が離れていく“根本原因”への対応こそが、最も効果的な人材戦略になります。 

 この記事では、「メンタル離職」を予防することが、なぜ人材難の解決に直結するのか。そして企業が取るべき具体的な対策について、実例を交えて解説していきます。 

1. メンタル離職とは何か?

 「メンタル離職」とは、うつ病や適応障害、不安障害、燃え尽き症候群(バーンアウト)など、精神的な不調が主な原因となって仕事を辞めざるを得なくなるケースを指します。 

 厚生労働省のデータによると、精神疾患による労災申請件数は年々増加傾向にあります。特に、30代~50代の中堅層の離職が目立ち、企業にとっては大きな損失となっています。 

 この層は、経験・スキルの両面で職場の中核を担っており、彼らの離脱は、組織の生産性に直接的なダメージを与えます。 

 

2.採用よりも「離職予防」の方が費用対効果が高い

 人材を1人採用し、戦力化するまでには、求人広告費や人件費、教育・研修コストなど多大なコストがかかります。一方で、すでに在籍している社員が辞めないように支援するほうが、圧倒的にコスト効率が良いのです。 

 例えば、あるIT企業では、メンタル離職の増加に伴い、採用コストが年500万円以上かさんでいました。しかし、メンタルヘルス対策の導入と積極的な職場改善によって、離職率が年間15%→8%に低下。結果的に、採用コストも大幅に削減され、3年で投資額の2倍以上の費用対効果が得られました。 

3.なぜメンタル不調が見過ごされるのか?

 メンタル不調が深刻化する背景には、以下のような構造的な問題があります。 

  • メンタルヘルス対策を先送りにする文化:
    海外の企業と違い、日本の企業ではメンタルヘルス対策を先送りにしがちです 。アメリカではメンタルヘルス対策を導入している企業は従業員数5名以上であれば、8割を超えると言われています。 
  • 管理職の知識・感度不足:
    部下の異変に気づけない、気づいてもどう対応していいかわからない 
  • 形だけで終わる対策:
    産業医面談やストレスチェックの実施だけで、本質的なメンタルヘルス対策ができていない。 
  • 中小企業にはそもそも制度がない:
    労働者数50名以上の企業では、ストレスチェックの実施や産業医による職場巡視や衛生委員会の開催など義務がありますが、労働者数50名未満の会社には制度がない。 (※ただし、労働者数50名未満の企業でもストレスチェックが義務化する法案が通るなどすでに社会の流れは変わっていっている) 
  • 日本のメンタルヘルスに対する関心の低さ:
    日本人はまだまだメンタルヘルス問題に対する関心が薄い、自分の心の問題に対するケアができていないと言われています。

4.メンタル離職を防ぐ実践ポイント

①メンタル離職を防ぐ実践ポイント

 メンタルヘルス不調の最大の問題は、「早期発見が難しいこと」です。多くの従業員は、限界まで我慢し、深刻な状態になってからようやく休職や退職を選択する傾向があります。 

 だからこそ、「困ったときにすぐ話せる」システムが大切です。 

②職場環境の“構造的な改善”に取り組む 

 メンタル不調は、個人のストレス耐性だけではなく、「職場環境」によって引き起こされることが多いです。長時間労働、曖昧な評価軸、権限と責任の不均衡、過剰な業務量などは、いずれもメンタル離職の温床になります。 

③従業員に“メンタルヘルスの基礎知識”を学んでもらう 

 多くの従業員は、自分の心の変化にすら気づけていません。「疲れている」「だるい」「やる気が出ない」が、実はメンタル不調の初期サインであることを知らないのです。 

 そこで重要なのが、“セルフケアの知識”を全社員に学んでもらうことです。 

④“心理的安全性”のある職場をつくる 

 Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも明らかになったように、成果を出すチームの共通点は「心理的安全性が高いこと」です。これは、失敗を責められない、意見を否定されない、無視されないという感覚です。 

 この「安心して話せる空気」が、メンタル離職の大きな抑止力になります。 

⑤“社員の声が反映される組織”にする 

 意見を言っても何も変わらない組織では、従業員は徐々に無気力になっていきます。この“無力感”“無関心”が、メンタル不調の温床になります。 

 一方で、自分の声が職場に届き、小さくても現実が変わる体験を持てた人は、組織に対して“関与感”を持ちます。 

5.メンタル離職を減らした企業の成功事例

事例①:IT会社A社(従業員数200名) 

以前は、繁忙期にうつ病や適応障害で休職・離職が相次いでいたA社。特に現場リーダーがプレッシャーに耐えきれず、年度末には毎年2〜3人の管理職が離職していた。 

そこで同社は、以下の対策を実施。 

  • ストレスチェックの分析(ストレスチェックをただ実施するだけになっていたのを適切に分析) 
  • 担当者と連携(定期的に打合せを行い職場改善を実施) 
  • 「メンタル相談窓口」:外部心理士によるメンタル不調者のケアと、本人の同意の元、職場の改善点をヒアリングし、担当者にフィードバック、打合せ、実行支援。 
  • アンケートの実施:匿名で実施。職場の問題点を聞き、企業として現実的に行えることから改善していく。 

結果、3年で離職率が28%→9%に改善。採用費は年350万円削減され、業績も上向きました。 

6.メンタル離職対策は「人材投資」である 

 メンタルヘルス対策というと、福祉的・消極的な印象を持つ方もいますが、それは大きな誤解です。 

 むしろ今後の人材難時代においては、「辞めさせない」「育てて活かす」ことが最大の競争優位になります。 

  • 離職を防げば、採用費も教育費も抑えられる 
  • 組織の安定性が増し、心理的安全性が高まる 
  • 結果的にパフォーマンスが上がり、売上も伸びる 

 これらはすべて、データで証明されています。 

おわりに:企業文化を変える覚悟 

 メンタル離職を防ぐには、「制度」ではなく「文化」の転換が求められます。心理的な安全性を重視し、弱さを見せられる職場こそが、これからの時代に生き残る組織です。 

 人材難を「採用だけ」で解決しようとするのではなく、「辞めさせない仕組みづくり」こそが最も合理的な打ち手であると認識し、今すぐ行動を始めることを強くおすすめします。 

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