うつ病の物忘れ
更新日:2021年9月16日
2018年に「大恋愛」という人気ドラマがありました。主人公の30代の女医が若年性アルツハイマー病になるストーリーです。物忘れの症状が日常生活で少しずつ現れてくる様子がリアルに描かれており、中には「自分もアルツハイマー病ではないか」と疑い、物忘れ外来を受診した若い人が増えました。
現在も物忘れ外来を受診する若い人が増えており、20代の人も稀ではありません。しかし、若い人の認知症が増えているわけではありません。実際の診断は認知症ではなく、うつ病やストレスであることが多いようです。また、ADHDの人は不注意から物忘れが多いのですが、仕事などのストレスで物忘れの症状が悪化していることもあるようです。
うつ病やストレスに物忘れの症状があることはあまり知られていませんが、気分の落ち込みなどのうつ病の典型的な症状よりも物忘れが前面に出ていることがあります。年配の人のうつ病の場合、認知症との区別がとても難しい場合もあります。物忘れがうつ病の存在に気づくケースもあります。
うつ病やストレスによる物忘れは次のような感じです。職場では、入力の間違いなどのケアレスミス、大切なアポイントを忘れてしまう、人の名前が出てこない、作業の手順を覚えられない、人の話が頭に残らずすぐに抜けていく、などがあります。
家庭では、暗証番号を忘れた、財布を忘れた、料理の火を消し忘れた、同じものを買ってしまった、などを訴える人がいます。
認知症の物忘れと違い、うつ病やストレスの物忘れは知能が低下しているわけではなく、脳全体の働きが弱って集中力の低下などが原因になって起きています。記憶が完全に抜けることはなく、よく考えれば思い出すことができます。
食事を食べたことは憶えているが、何を食べたか思い出せない、家族から言われて、ああそうだった!となるのはうつ病やストレスによる物忘れです。認知症の場合は、食べたこと自体をまるごと忘れてしまい、家族から言われても思い出すことができません。
うつ病やストレスのある人は、物忘れが多いと「認知症ではないか!?」と心配になりますが、認知症の人は物忘れがそれほど執着しません。忘れても無関心でいることが多いのです、ですから一人で物忘れ外来に来る人の9割は認知症ではないとも言われています。認知症の人はそもそも物忘れを気にしてはいないので、自分から受診することはあまりなく、だいたい家族に連れられて病院を受診します。
物忘れの原因は、認知症、うつ病、ストレスだけではありません。スマホやゲームのやり過ぎ、寝不足、お酒の飲み過ぎなども原因になります。稀に脳腫瘍や甲状腺の病気の場合もあります。
また、アレルギーの薬、糖尿病の薬、睡眠薬などを飲んでいる場合、それらが物忘れを引き起こしていることもあります。うつ病の治療中の症状が良くなっているにも関わらず、物忘れが出てきた場合は、治療のために飲んでいる睡眠薬の影響があるかも知れません。
年齢とともに物忘れが出てくるのは自然な老化現象です。50代になって人の名前が出てこない、新しいことを覚えられない、となって焦ることはありません。しかし、急に物忘れが増えて仕事や勉強に支障が出るようになった場合は注意をしましょう。まずスマホやゲームを控える、睡眠時間をしっかりととる、お酒を控える、よく休みをとってみる、など生活を見直すことが必要です。これでも改善されない場合は、専門家に相談してみましょう。