不安の正体と5つの不安の病気

 更新日:2022年9月17日

人は誰でも心配事があると不安を感じ、動悸、発汗、のどの渇き、震えなどの体の反応が起きります。ところが、大きな理由もないのに不安がとれず、生活に支障がでるような場合は心の病気と考えた方が良いでしょう。

不安の仕組み

そもそも不安はなぜ起こるのでしょうか。大脳の内側には、不安を感じる扁桃体という部分があります。目、耳、鼻、肌などの五感から入ってきた様々な情報は、偏桃体で安全なものか、危険なものかを判定されます。危険だと判断すると、「非常事態だ!」と自律神経系を通じて内臓に信号を送り、心臓の動きや呼吸を早めます。それが動悸や息苦しさで感じられます。

不安とは、危険を知らせるために扁桃体から出される警報なのです。この仕組みがあるおかげで、人は安全な生活を送ることができています。偏桃体の感受性は、遺伝的に生まれつき決まっていて、敏感な人から鈍感な人までいます。同じ出来事でも極端に不安になる人もいれば、あまり感じない人がいるのはこのためです。

また、不安は理性でコントロールすることができます。例えば、部屋でゴキブリを見たら逃げ出したくなりますが、ゴキブリを放置していたら大変なことになると理性的に考え、殺虫剤をつかんで立ち向かうことができます。プロスポーツ選手たちは、絶対絶命のピンチでもいつもと変わらないパフォーマンスをみせることができます。これも理性で不安を抑えているのです。

理性の働きは、大脳の前頭葉という部分と関係があります。前頭葉は扁桃体と神経のつながりがあり、前頭葉の働きで扁桃体の反応を抑えることができます。前頭葉をドライバー、偏桃体を車と例えると、ドライバーがブレーキを踏んで、車のスピードを調節するように、前頭葉の理性の働きが、偏桃体で起きている不安を調節することができるのです。

ところが、偏桃体が過剰に反応したり、前頭葉と扁桃体を結ぶ神経回路に何らかの異常が起きると、前頭葉のブレーキがきかなくなるのです。これが不安の病気です。理性という運転手がいくらブレーキを踏んでも、不安という車が止まらずに暴走しているような状況です。

このように、不安の病気の正体は、偏桃体の暴走や、前頭葉と扁桃体を結ぶ神経回路の故障です。また、不安の病気には、不安の感じ方によっていくつかの種類があります。今回は、代表的な不安の病気を5つ紹介しましょう。

5つの不安の病気

1.パニック症

事故などの恐ろしい体験をした時に、つよい不安や恐怖に襲われることがあります。激しい動機、息苦しさが現れ、それがさらに不安を駆り立ててしまうと、「このまま死ぬかもしれない」という状況にまで追い詰められてしまいます。これをパニック発作と呼び、偏桃体の暴走が原因です。

この時の経験を神経回路が記憶してしまうことがあり、その後も似たような状況や、それをイメージするだけでも、パニック発作を繰り返すことがあります。これは、花粉症などのアレルギー反応の仕組みに似ています。一度花粉が体内に入り、異物として免疫に記憶されると、花粉に触れるたびに免疫が暴走してアレルギー反応を繰り返すようになります。パニック発作とは、心のアレルギー反応のようなものです。

パニック発作が何回か続くと、いつまた発作が起きるか常に不安を感じるようになります。これを予期不安と呼び、予期不安がつよいと、乗り物に乗れない、外出できないなど、日常生活にも支障が出るようになります。このようなパニック発作と予期不安があるのがパニック症です。

2.全般不安症

人間関係、健康、お金、災害など、人生のさまざまな出来事に不安になってしまう病気です。「慎重な人」、「心配症な人」と周りから言われる程度ならば良いのですが、社会的な責任から逃げてしまい、ひきこもりのような生活になる場合は全般不安症です。偏桃体の反応が敏感過ぎる人と考えることができます。「嫌な思いをしなくてすむから、心配するのは悪いことではない」と自己正当化していることもあり、自分で病気に気づけていないこともあります。

3.社交不安症

「あがり症」とか「対人恐怖症」とも呼ばれるものです。人から変に思われることを気にしすぎて、スピーチ、会議、アk私欲など、人から注目を受ける場面で不安になり、人前に出ることを避けるようになる病気です。例えば、クラスメイトの前で発表した時に、声が震えて恥をかいた経験など、子供の頃の人前での失敗がきっかけで起こります。ひきこもりの原因や、うつ病に発展することがあります。

4.PTSD

 事故や災害などの命の危険にさらされる出来事の後、安全な場所にいるのに、いつまでも危険が去っていない感じが続くことがあります。恐怖の場面をフラッシュバックしたり、夢で見たり、似たような状況を避けるようになります。1ヶ月以内でおさまることが多いのですが、それ以上続く場合にPTSDと診断されます。

5.強迫症

「火事や泥棒などの被害にある」「人に危害を加えてしまう」「汚れや化学物質が体についている」、などの考えが湧いてきて、不安に悩まされる病気です。このような不合理な考えを強迫観念と呼びます。不安を解消するために、確認行為や儀式的な行為を繰り返します。

ブログ:強迫症とそれに関連する病気

まとめ

代表的な不安の病気5つを紹介しました。これ以外にも、特定の状況で不安を感じるものもあります。自分は太っているのではなかと不安になる「摂食障害」、容姿が醜いのではないかと不安になる「醜形恐怖症(しゅうけいきょうふしょう)」、ちょっとした体の異変を重大な病気を「病気不安症」、親などの保護してくれる人と離れられない「分離不安症」、などがあります。また、うつ病や統合失調症の症状として不安が出る場合もあります。

不安の病気にはたくさんの種類がありますが、どれも扁桃体の暴走や、前頭葉と扁桃体でつくられた神経回路の異常が病気の正体です。この神経回路にはGABA(ギャバ)とかセロトニンといった神経伝達物質が関わっています。これらを薬で調整することで病気を改善するできる場合があります。また、軽症の場合は、認知療法などの理性の働きをつよめる方法でも治療することができます。このように症状に合った治療法がありますので、気になる人は早めに精神科を受診しましょう。

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