うつ病の間違った知識

 更新日:2024年11月25日

「風邪の予防にビタミンCが効く」というのは私たちの常識になっています。寒い季節になると、ビタミンC入りのドリンク剤を飲む人も多いですし、ビタミンCがたくさん含まれたミカンも人気です。

 ビタミンCが風邪の予防になるというのは、1970年にノーベル賞学者が書いた論文から世界中に広まりました。その後もビタミンCと風邪の研究は続けられましたが、効くというデータもあれば、効かないというデータも出てきました。そこで2012年にすべての研究データを総合的に解析する試みがありました。

 すると驚いたことに、ビタミンCには風邪予防の効果が認められないという結果がでたのです。およそ半世紀にわたり、私たちは間違った知識に振り回されてきたのです。

 医学の知識は、時代と共に変わるものがあります。うつ病もそれに漏れません。ここではうつ病に関して、すでに世の中に広まっているけれども、実は間違っている情報を4つ紹介しましょう。

うつ病の間違った知識

1. うつ病は心の風邪

 「うつ病は心の風邪」というのは、2000年前後にSSRIという新しい抗うつ薬が販売されるにあたり使われたキャッチコピーです。それまでの抗うつ薬と違って、ほとんど副作用がない画期的な薬でした。

 「心の風邪に、副作用を気にせず気軽に飲める薬」という薬品メーカーの狙いがこのキャッチコピーにあったのです。当時のテレビコマーシャルでも流れて、たくさんの日本人に記憶されることになりました。

 

 日本には、精神科に通うのは「恥ずかしいこと」という風潮がありましたが、この宣伝効果により、精神科へ通う敷居が低くなりました。うつ病で受診する患者さんが増え、社会的にも自殺者が減るという画期的な効果をもたらしました。

 現在では、駅前にも精神科クリニックがたくさんできるようになり、精神科に通うことが不思議でない時代になりましたが、半世紀前には想像もつかなかったことです。

 確かに、うつ病は風邪のように誰でもなる病気です。しかし、風邪のようにすぐには治りません。心の風邪という認識で、1、2週間くらい仕事を休めば治るだろうという誤解も広まってしまいました。しかし実際は、画期的なSSRIという薬ができても、10年以上も治療が必要な人がたくさんいます。うつ病は心の風邪ではありません。

2. 新型うつ病は現代社会のひずみから生まれた

 

 「新型うつ病」という言葉は医学用語ではなく、メディアによる造語です。40年くらい前まで、うつ病は今ほど多い病気ではなく、主に真面目、几帳面、規則を重んじ、他人に気を遣い過ぎる人がなる病気でした。このような性格をメランコリー親和型と呼びました。そして、メランコリー親和型の人がなる場合を定型うつ病、そうでない場合を非定型うつ病と呼んでいました。

 正確な理由は不明ですが、高度情報化社会に移行するに従い、うつ病にかかる人が世界的に増えるようになりました。うつ病はメランコリー親和型の人だけがなるのでなく、誰もがなる病気になったのです。

 うつ病の発症と性格は大きな意味をもたなくなり、定型よりも非定型が増えるようになります。この増えてきた非定型うつ病のことをメディアが「新型うつ病」と名付けました。

 まるで社会のひずみから新型のうつ病が誕生したように報道されましたが、そうではなく、うつ病が誰でもなる病気になり、非定型うつ病が増えたことなのです。

3. うつ病は性格が原因

 うつ病の発症は、メランコリー親和型という性格が基盤になっていると考えられていましたが、今では誰もがなりうる病気と考えられています。

 いくつかの性格的な傾向がストレスを受けやすく、うつ病になりやすくなるのは事実です。特に、完全主義はストレスを対処する上で柔軟性に欠けてしまうため、うつ病を発症しやすくなります。しかし、性格だけでうつ病になるわけではありません。

 うつ病は、性格とストレスなどの心理的な問題、脳の働きなどの生物的な問題、人間関係や経済などの社会的な問題、信仰や死生観などのスピリチュアルな問題が総合的に絡み合って発病します。

 うつ病は性格だけが原因でなるものではありません。ましてや心が弱いからなるものでもありません。

4. うつ病は遺伝する

 うつ病になる遺伝子は見つかっていません。完全主義などのストレスを受けやすい性格は遺伝することがありますが、うつ病は遺伝しません。うつ病の人と結婚しても、うつ病の子どもが生まれると心配する必要はありません。

 また、うつ病の薬を飲んでいても、妊娠する子どもに悪い影響が出ることはほとんどありません。薬の子どもへの影響よりも、高齢出産、喫煙、飲酒の影響の方がはるかに高いと言われています。

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