過呼吸発作とパニック障害

 更新日:2021年7月9日

  日本の救急外来を受診する人の70%が、胸痛、呼吸困難、動機、などを訴えている心臓呼吸器系の病気です。ところが、その半数近くが検査でも内臓にも問題がなく、神経性の不安発作であると言われています。これだけ不安発作は大変多く見られる病気です。

不安発作とは、不安が引き金になった胸痛、動悸、めまい、呼吸困難、手足のしびれ、胃腸症状などの自律神経の発作性の症状です。直接的な心理的な要因がなくても、積み重なったストレス、寝不足、過度の運動などから発症することもあります。特に「死んでしまう」「気が狂ってしまう」というつよい恐怖感が伴う場合はパニック発作と呼んでいます。

【過呼吸発作】

不安発作の中でも最も多いのが、思春期~30代の女性にみられる過呼吸発作です。正式には過換気症候群と呼ばれており、不安恐怖などの後に呼吸が荒くなり、息が吸えなくなる状態です。さらに、動悸、胸痛、手足がしびれたり、けいれんが起きたり、失神に至ることもあります。不安恐怖により呼吸中枢が過剰に刺激され、呼吸が早くなり、血中の二酸化炭素濃度が低くなることが原因です。ただし、死に至ることはありません

過呼吸発作の対応として、ペーパーバッグ法が有名です。血中の二酸化炭素を増やすために紙袋を口に当てて呼吸をさせるという方法です。ところが最近の研究結果では、ほとんど効果がないことが分かりました。その上、窒息で死亡事故にいたることもあったため、最近ではペーパーバッグ法は使われません。

【薬以外の対処法】

不安発作全般に言えますが、薬以外での対処方法は呼吸法です。基本は、吐く時間を長くしてゆっくり呼吸することです。数を7つ数えて吐く、3つ数えて吸う、くらいのペースが必要です。ゆっくりした呼吸をするためには腹式呼吸がよいでしょう。男性に比べて女性は胸式呼吸の場合が多く、不安発作を経験したことがある人は、日頃から腹式呼吸を練習しておくことをお勧めします。

【パニック発作と予期不安】

不安発作は、一度経験すると何度も繰り返すことがあります。発作が出やすい神経の興奮状態が続いてしまうことで、似たような状況がきっかけとなり再び発作が起きてしますのです。特につよい不安恐怖が伴うパニック発作は習慣化しやすいものです。

さらに困ったことに、不安発作が習慣化してくるとまた発作が来るのではないか、と不安になってきます。不安を予期して不安になる、ということで予期不安と呼びます。

予期不安がきっかけになり、発作が出ることもあります。予期不安が出てくると、それを頭の中で打ち消そうとしてよけい考えるようになり、神経が興奮状態となり発作のスイッチが入ってしまうのです。一日の仕事を終えてゆっくり風呂に入っている時にも、発作のことを考えて不安になり、発作が出てしまうこともあります。

このような繰り返すパニック発作と予期不安が出てくる場合は、パニック障害とかパニック症と呼ばれる状態です。

 

【発作が起きるきっかけ】

パニック障害の最初のパニック発作は、飛行機や満員電車などで発症することが多く、その後も通勤などで利用するものであることから、改善されず習慣化してしまいます。悪化することにより、乗り物だけでなく、狭い場所で苦痛を感じるようになり、劇場、混んでいるスーパーなども利用できなくなります。また、予期不安で一人でいられなくなり、留守番すらもできなくなることがあります。

さらにこのような状態が続くことにより、ひきこもりやうつ病に至ることもあります。お酒で不安が治まることから、お酒に頼るようになりアルコール依存症になってしまうケースもあります。

パニック障害とは、本来脳が持っている危険を察知する能力が過剰に反応している状態です。例えば、火災警報器の設定を敏感にすると、少し料理をしただけでも警報が鳴ってしまいます。似たように、危険に対する脳の警報器が敏感に設定されてしまったのがパニック障害です。しかし、自分の意思で脳の設定を戻すことはできません。通常の設定に戻すためには、安全であることを脳が自然に認識していくことが必要です。

【パニック障害の治療】

パニック障害の治療として、まず心配事、過労、寝不足などを解消させましょう。ごく軽症の場合は呼吸法で改善されることもありますが、精神科での薬の治療が有効です。放置すると慢性化しますので、「何とかなる」と我慢しないで、早めに受診することをお勧めします。

発作時に抗不安薬を服用することで発作を抑えることができ、予期不安にも効果があります。このように薬で発作に対処できる自身をつけていくことが自然治癒につながります。安心感を維持することによって脳の警報器が自然に正常に戻っていくのです。抗不安薬としては、コンスタンとかソラナックスという名前のものがよく使用されています。

慢性化したり、軽症でない場合は、脳の警戒状態を持続して抑えるために、SSRIという薬を使います。薬で脳の状態を正常化させることにより、自然治癒を導くのです。日本では、レクサプロ、ジェイゾロフト、パキシル、ルボックスという名前のものが利用されています。ただし、これらは毎日長い期間にわたり服用する必要性があります。

過呼吸発作などの不安発作が何度も起きる場合はパニック障害を疑いましょう。心臓の病気かと思っていたらパニック障害であったこともよく聞く話です。早めに治療すれば短期間の治療で済みますが、パニック障害は治療に長い時間がかかります。10年以上服用する人も多くいます。焦らずに治療していきましょう。

 

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