産業医制度とメンタルヘルス対策~適切なメンタルヘルス対策を行うために~

 更新日:2021年3月05日

 

 2008年に施行された「労働契約法」にて安全配慮義務が明文化されたことにより、企業のメンタルヘルス対策に注目が集まりました。また、2015年12から労働者人数が50名以上の事業場にストレスチェックの実施が義務化されたことで、メンタルヘルス対策の重要性は加速していると言えます。

とは言っても、まだ日本のメンタルヘルス対策は海外と比べて遅れを取っているのも事実です。ストレスチェックの義務付けが始まりましたが、まだ歴史が浅く、様々な問題点が出てきており、メンタルヘルス対策として万全なものとは言えません。

【日本のメンタルヘルス対策の現状~産業医制度のある日本~】

日本では、産業医の選任が義務付けられています。そのため、メンタルヘルス対策全般を産業医に全て任せるという企業が多いのではないでしょうか。大企業では、専属産業医を雇用し、カウンセラーなどを産業保健スタッフとして労働者のメンタルヘルスケアを実施しているかと思います。しかし、一般的に中小企業の方が数が多く、医師とは嘱託産業医契約をし、月1回の巡視や衛生委員会、年に1回のストレスチェックの実施後の高ストレス者面談などを行うくらいで、表面的なメンタルヘルス対策と思われます。

⇒「ストレスチェック 高ストレス者対応の問題点

嘱託産業医は他の医療活動を行っていることもあり、労働者が不調を訴えた場合、至急の対応を行うことができないのも問題点です。また、産業医の中でもメンタルヘルス領域に詳しい産業医は一部であり、精神科医は全体の15%ほどしかいないと言われております。時代の変化で、産業医に課す負担が多くなり、専門医制度の土台の上にある産業医にとって、産業医の対応領域が限界を超えてしまっているのです。

⇒「産業医と精神科医

【アメリカのメンタルヘルス対策】

アメリカではメンタルヘルスの分野で日本よりもはるかに進んでいます。そんなアメリカのメンタルヘルス対策を見本としていくのが、今の日本に求められています。アメリカでは産業医の選任の義務は基本的にありません。そのため、日本と比べて産業医の割合は極端に少ないと言えます。

また、アメリカの産業医は専門職であり、日本の嘱託産業医のように別の医療活動と並行することはありません。そのため、メンタルヘルス対策を産業医に任せるということはありません。では、アメリカのメンタルヘルス対策とはどのようなものでしょうか。


アメリカのメンタルヘルス対策は、「従業員支援プログラム」EAP(イープ:Employee Assistance Program)と呼ばれるものです。EAPとは、労働者の個人的問題に対してのケアやパフォーマンスの向上、また組織全体の生産性向上や職場改善を目的とした福利厚生ケアの総称を言います。

【EAPの歴史】


1950年代のアメリカで第二次世界大戦において心理的外傷を負った兵士たちの心のケアやベトナム戦後の経済不況、その影響が社会経済にも広がり、労働者や経営者などにもうつ病や薬物依存、アルコール依存に陥る人々が増えたため、労働者一人一人の生産性やパフォーマンスが落ち、社会全体として生産性が著しく低下してしまいました。

こうした中で、労働者のメンタルヘルス対策を保つことで生産性の向上を図るために、EAPが導入されることになりました。EAPの導入により、労働者の生産性、企業、社会全体としての生産性が格段上がり、景気回復に大いに貢献した医療制度改革となったのです。アメリカのEAP制度では、病院が企業と直接契約することもあり、いざという時に、労働者が専門医療を受けることができます。

【適切なメンタルヘルス対策とは】

メンタルヘルス対策として最も大事なことは何でしょうか?それは、労働者のメンタルヘルス不調にいち早く気づき、迅速に専門機関につなげることです。すなわち、メンタル不調を訴えた労働者がすぐに相談できる体制づくりと、専門機関に流すことのできる医療提携体制と言えます。

日本の産業医制度の特性上、労働者が産業医面談を実施するには、会社側に開示しなくてはならないこともあり、相談までのハードルが高いと言えます。それど同時に、産業医は主治医になれないので、産業医に相談したからと言って、近くの専門機関に行くよう指導され、対応が遅れてしまうことも問題であります。

これらを改善するため、メンタルヘルス対策は専門の外部機関に委託することが適切であると言えます。また、産業医の選任義務がない企業のメンタルヘルス対策としても費用負担が少ない外部機関にメンタルヘルス対策を委託することはメリットであると言えます。

【まとめ】


労働者を守るために適切なメンタルヘルス対策を行うことは会社としての義務です。また、近年の企業のグローバル化が進むにつれて、今までの年功序列制度ではなく、実力による評価を取り入れることにより、労働者の生産性というものが重要視されてきております。

これからの日本の企業がさらに世界に進出していくためには、労働者のパフォーマンス向上という面でもメンタルヘルス対策が必須になってくると言えます。現在では、日本でも気軽に外部機関にメンタルヘルス対策・EAPを行えるようになってきているので一度検討してみてください。

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