大人の発達障害は治るのか
更新日:2024年11月25日
人の脳は年齢とともに発達し、社会で生きていくための様々な能力を身につけていきます。ところが何らかの理由により、体の成長に比べて脳の発達が遅れるようになり、大人になっても脳が未完成のままで発達が止まってしまうことを発達障害と呼びます。
重症の場合は幼い時に気付かれますが、軽症の場合は小学校の低学年くらいに診断されることがあります。原因はまだ十分に解明されていません。遺伝的なもの、妊娠中のウイルス感染、高齢出産などが影響を与えると考えられています。
発達障害3つの分類
発達障害は、脳のどの働きが障害されるかによって、大きく3つに分類することができます。1つめは、物事を認識する働き障害された場合を「知的障害」と呼びます。2つめは、相手に共感して人間関係をつくる働きが障害された場合を「自閉症スぺトラム障害・ASD」と呼びます。そして3つめは、自分の感情を抑える働きが障害された場合を「注意欠如多動障害・ADHD 」と呼びます。
このような脳の「認識する」、「人間関係をつくる」、「感情を抑える」という働きは完全に独立したものではなく、お互いに関連していますので、それぞれの障害も多かれ少なかれ重なるのが普通です。
大人の発達障害
1990年頃から、認識する能力には問題なく、むしろ高い知能を持っていながら、人間関係をつくる能力や感情を抑える能力が軽度に障害されるケースが知られるようになりました。
学校生活では「友達ができずに一人でいる」「落ち着きがない」と通信簿に書かれるかも知れませんが、成績は悪くないので大きな問題なく過ごします。しかし、社会に出てから人間関係にトラブルが増えることから障害に気付かれることがあります。これが大人の発達障害と呼ばれるものです。
人間関係をつくる能力に問題がある場合を「大人のASD」とか、「アスペルガー障害」と呼びます。感情を抑える能力に問題がある場合を「大人のADHD」と呼んでいます。もちろん両方の傾向がある人もいます。
発達障害と愛着障害
発達障害の人は、産まれた直後から感覚に偏りがあるため、親はふつうに育てているつもりでも、親子の情的な関係を築きにくいと言われています。親子の情的な関係を愛着と呼び、幼い時に十分な愛着を築けないと、心の安心感が育ちません。そのために、対人関係にも支障が出てしまうことを愛着障害と呼びます。
発達障害の人には愛着障害もいっしょにあることが多いのです。愛着障害による情緒の不安定さが、発達障害に悪い影響を与え、それが愛着障害を悪くさせるという悪循環に陥っていることもあります。対人関係の距離間が分からないこと、感情を抑えられないこと、自信を持てないこと、などの症状は、発達障害と愛着障害の両方が原因になっており、そこに境界線は引けません。
そして、2つの障害が最も悪い形でいっしょになってしまうと「境界型人格障害」という性格の病気になると考えられています。「境界型人格障害」とは、心の中心に極度のさみしさと見捨てられる不安がある病気で、依存的な人間関係を築きやすく、見捨てられるような状況になると衝動的に暴力や自殺未遂を起こしてしまうものです。
発達障害は治るのか
残念ながら、発達障害は脳神経の生物的な問題なので改善されることはありません。しかし、愛着障害は違います。いくつになっても人と情的な絆や信頼を築くことができたならば改善することが可能です。知的な障害がないならば、大人になって言葉やイメージする力を十分に使えるようになるので、愛着を学び直すことができるのです。ですから、大人の発達障害といっても、愛着障害が影響している部分は改善される余地があります。
実際に、アスペルガー障害の人が良いパートナーに出会えて、以前よりも人に共感することができるようになる場合があります。また、ADHDの人でも職場の仲間との交流を通して以前よりも感情が穏やかになる場合もあります。
このように、大人の発達障害は、治る部分と治らない部分があると考えましょう。良い人間関係に恵まれ、愛着の問題が解決していくと改善されていくことがあるのです。友人、パートナー、それだけでなく、職場や就労支援施設の人、主治医、心理カウンセラーなど、様々な人間関係を大切にしましょう。出会いは運に左右される部分が多いのですが、良い運に恵まれることを信じていきましょう。