解離性同一性障害について

 更新日:2021年10月19日

 ヒッチコックの「サイコ」に代表されるように、サスペンス映画やドラマで多重人格が描かれることがあります。2人の全く別の人物が登場しますが、実は同一人物だったという結末に驚かされます。別人に見えていたのは、1つの体に2つの人格が宿っている多重人格というトリックです。

 このような多重人格は本当にあるのでしょうか?

【解離性同一性障害|多重人格】

 実際にも、心の中に別の人格がいて、それが目の前に現れたり、話しかけてきて、いつの間にかその人格に体が乗っ取られるという現象があります。精神医学では、心が別の人格に分かれる=解離するという意味で、多重人格を解離性同一性障害と呼んでいます。

解離という言葉は19世紀にフランスの心理学者ジャネが考えたもので、虐待などの耐え難いトラウマから逃れるために人格が分かれてしまうのではないか、と考えました。現在も精神医学は基本的にこの考え方を引き継いでいます。

 実際に観察される別人格は、興奮や混乱した状態で現れることが多く、怒りや悲しみなどの衝動が引き金になっています。

                       

【事例】

 例えば、とても大人しい人が、気に入らないことがあって突然怒り出し、鬼のような顔つきの別人みたいになるのが代表的なものです。普段は絶対に使わないようなやくざのような口調で話し始め、大暴れすることもあります。数時間から数日すると元に戻り、暴れていた時のことを思い出せません。

        

 こんな例もあります。女性がつらいことがあって興奮して泣き叫んでいます。そのうちに、「バブバブ」と突然赤ちゃん言葉で話し出し、動作も子供のようになりました。注意を引くためにわざとやっているようにも見えます。周りの人がなだめて落ち着くと、いつもの様子に戻りましたが、赤ちゃんになってしまったことは思い出せません。

                    

【解離性同一性障害か統合失調症か】

 このように解離性同一性障害には興奮や混乱があり、さらに別人格の声が聞こえる幻聴の症状もあるため、精神科医は統合失調症と診断することが多いようです。

ふつう統合失調症は、論理的な思考に異常が出たり、無関心無気力になり、解離性同一性障害と違う経過をたどりますが、このような症状がない人は、後から解離性同一性障害であると診断が変更されることがあります。

 また、不安で激怒するということから境界型人格障害と診断されるケースも多いようです。

【16の人格を持ったシビルという女性】

 16の人格をもったシビルという女性の記録が、1973年に発表されました。この本によって、多重人格が実際に存在することが世界中に知らされました。日本でも「失われた私」という題名で翻訳されています。シビルが幼児期に親から虐待を受けて、人格が16人に解離する様子や、精神分析治療で解離した人格たちが統合されていく様子が記録されています。1976年には「シビル」という題名で映画化されました。

 「シビル」は、精神医学にも大きな影響を与えました。人格の解離は幼児虐待によるもので、治療には精神分析による人格の統合が必要と説明されました。それまで統合失調症と診断されていた人が、解離性同一性障害に診断が変更されたり、あらたに診断されるケースは前の年の100倍に増えました。

 40年たった後、シビルの症例は再度検証されました。なんと医師と患者とジャーナリストがグルになって捏造していたことが2011年に暴露されています。わざわざ捏造したのは、幼児虐待をなくすための社会運動を盛り上げる理由もあったようです。

                 

【解離性同一性障害の原因】

 解離性同一性障害は、シビルで強調された虐待やトラウマがないケースもたくさんあります。実際には、遺伝的な要素や孤独などの環境の影響が関わっているようです。解離した人格を一つにする治療が必要と言われていましたが、現実には抗精神病薬や抗うつ薬の治療でうまく行っていることも多いようです。情緒が安定するに従い、解離することも減っていきます。

              

【まだ分からないことが多い解離性同一性障害】

 多重人格を精神医学の観点から説明していきましたが、世の中には古くから霊の憑依という考え方があります。人格が分かれるのでなく、見えない人格に体を乗っ取られると考える方が私たちには馴染みが深いでしょう。日本では、悪霊やキツネに憑かれて別人のようになって風変りなことをする病気を憑依精神病と呼びました。

昭和の初めくらいまでは大変多く見られた病気です。精神医学では、憑依という言葉は非科学的ということで、解離という言葉を使うようになりました。現在、憑依状態は解離性同一性障害に含められています。

 女の子に憑依した悪霊を払う「エクソシスト」という映画をご存じですか?悪魔払いは映画だけのものと思われている方もいるかも知れませんが、イタリアでは現在も行われています。精神科医が統合失調症でないと診断し、カトリック教会に所属するエクソシストが悪霊の憑依であると判断できた場合、悪魔祓いの儀式を行います。実際に軽快する人もいるので、解離性同一性障害はまだ解明されていないことが多いのです。

 

 

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